「送ってこんでもよかよ」
カナエの言葉を無視して肩を並べて楓並木の舗道を歩いた。
恭一の肩ほどの高さにカナエの髪が揺れている。
「このまえはすまんやった」
素直に言葉がするりと口を突いた。
「なぁん」
「だけん、このまえちょっとふざけてさ」
「なんね、本気やなかったと」
口を尖らせる。
「本当の本当はまじめさ。そしたらいきなりバシって」
「当たり前やろう。もう入れ歯の齢やろうもん。気持ち悪かよ」
「言いにくいことを思いきり言うねぇ」
「真実を言ったまでよ。もう若くはない。この齢になったら男も女もない。人間と人間の付き合いやろう」
「まあな」
「もう、これからは新しく友達ができる齢でもない。今の友達を大事にして持ちつ持たれつ継続を宝にせなね」
「わかりましたよ。相変わらずカナエさんは強いねぇ」
「あたりまえやない、強くしとかな。ここまで伊達に女一人で荒波乗り越えてきたわけじゃないとよ」
「あんときはカナエを見よううちについ気分が青春に戻ってさぁ。全くもって一方的な俺の一瞬の気の迷いだったわけよ」
「そうそう、迷いよ、気の迷い。海みたらつい感傷にふける。年寄りの冷や水たい」
先を行くカナエのピンと伸ばした背筋を見ていた。