「俺はさぁ、最近つくづくと考えることがあってね」
夜道を無言のまま肩を並べて歩く恭一が突然静寂を破ってきた。
「なぁん」
「さっきの話の続きみたいやけどこれから先、万一一〇〇歳まで生きたらどうしようかと思うよ」
「そうやねぇ、まさかそれまでゴルフはないやろう。第一車の運転がまず無理」
「いや、運転には自信はあるとよ」
「それが怖いやないね、年寄りは瞬発力がないけんね。右見て左見て右見たらもう車が迫っててぶつかるわけよ。要するにもうトロいとよ。相手はいい迷惑よ、これが人ならあなたは人殺しになるとよ。運転に自信がある人ほど事故を起こすのが最近のニュース見ててもわかるやない。ゴルフの他になんかないと?」
「うぅん。なんもないもんねぇ。こうなると男やもめはどうしようもない」
「そうやねぇ。よっぽどお金があれば再婚もしてくれる奇特な人もおるやろうけどね」
「あんたは?」
「私が再婚? 無理無理絶対無理。いまさらこの齢で男の世話なんぞしたくないというかまず出来ないよ、女はみんなそうじゃない? もう体力的にも自分一人のことで精一杯じゃない? 多分。たまに会って昔話するのが関の山よね」
暗闇で恭一の顔は見えない。ただ深いため息が聞こえた。