「女癖が悪くなければいい国王なのに」
そんな風に一定の評価をされつつ、残念に思われている国王のお話です。
203年1日生 のんきな性格
エルネア王国 現国王
普段は女癖が悪いと認識され、彼に擦り寄る女性は数知れず。いつも周りに女性がいる。
有事の際には武術職と共に戦い国を守る。
しっかりしているようでしっかりしていないところもある。
優しい国王で国民から愛されている。
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「これが昨日、今日の入国者リストです」
巫女に手渡された書類に目を通す。
これも国王ヴェルンヘルが重要視している仕事の一つ。平和な国でこの作業は一見して無意味とも思えるものだが、平和は1日で成り立つものではないと思っているヴェルンヘルは手を抜くことはない。
国王といっても華やかな仕事だけではなくこうして地味な仕事もとても多いのだ。
ヴェルンヘル「………」
入国者リストにある1人の人物をジッと見つめる。
巫女
「………その方が気になりますか?」
ヴェルンヘル「……いや」
そう言いながら、ヴェルンヘルの視線はリストに釘付けのままだった。
巫女「ーー美人な方でいらっしゃいますね」
女癖の悪い国王が、綺麗な旅人の女性に目をつけたと思ったのか巫女がすこし感情を消して言った。
ヴェルンヘル
「確かにお綺麗な方だ」
ヴェルンヘルは入国者リストを懐にしまうと
「ご苦労様」とリストを持ってきた巫女を労い出掛けて行った。
ヴェルンヘルはいつものにこやかな表情を作り、道ゆく国民に声をかけたりかけられたりする。
道の先に見慣れた姿が見える。
ティアゴ・バーナードは、ヴェルンヘルの姿を見つけると足早にやってきた。
ガルフィン魔銃師会 魔銃導師
レイラ亡き魔銃師会で最古参の1人。ガルフィン魔銃師会の屋台骨。礼儀正しいが敵対する相手には容赦しない。
ティアゴ「おはようございます、陛下」
律儀なのか、国王の姿を見て素通りする訳にはいかないと判断したのか、ガルフィン魔銃師会のトップに立つ魔銃導師は人あたりのいい笑顔をヴェルンヘルに向け挨拶にやってきた。
ヴェルンヘル「おはようございます」
その笑顔に応えるようにヴェルンヘルもにこやかな表情で挨拶する。
ティアゴとヴェルンヘルの仲はいいとは言えない。
今は訳があって休戦状態になっている。
国の利益のために、ヴェルンヘルはそれが最善であると考えた。
ヴェルンヘルは、ティアゴが嫌いな訳ではない。
向こうがヴェルンヘルをよく思っていない。
それを分かっているためティアゴとは距離をとっている。
ふとヴェルンヘルに先程のリストの女性のことが浮かぶ。
ーー目の前のこの男に相談したらどうだろうか。
彼なら間違いなく力を貸してくれるはずだ。
しかし……
ヴェルンヘル
「後進育成はどうです?進んでいますか?」
ティアゴ
「予算を増やして頂いたおかげで滞りなく進んでおります。全ては陛下のおかげです」
恭しくティアゴは一礼した。
ヴェルンヘル「頼りにしています」
この言葉に嘘偽りはない。ヴェルンヘルはティアゴをとても頼りにしていた。
忙しいティアゴはヴェルンヘルと話したあと、ダンジョンに向かって歩き出す。その後ろ姿を横目で見送りヴェルンヘルは別方向に歩き出した。
ーー導師はとても忙しい。これ以上煩わす訳にはいかない…
視線の先に、リンゴがチェロと楽しそうに話しているのが見える。
龍騎士のリンゴもティアゴ同様白羽の矢を立てるべき人間ではあるが、
ーーこれ以上リンゴを危ない目には遭わせられない
姑であるリリーが適任、と思いつつヴェルンヘルは自分で対処することにした。
数日間様子をみたが、特に動きはない。
ルイス
「なんでお前のようなただのスケベ男が結婚できるんだよっっ…!」
イマノル
「ルイスは顔はいいのに口は悪いし、わがままだし、弱いし、金はないし……顔以外なんもないんじゃない?」
ルイス「バカノル!!黙れ!」
ドルム・ニヴ山岳兵団所属。ボイド家隊長。
一言でいえば、コイツはスケベ。以上
上2人はよくこうして言い合い、そのうち追いかけっこをする。
ヴェルンヘルの眼前で、国民は仲良く戯れていた。
ーー今日も平和だな……
このまま、何事もなく出国してくれるのを願っていた。
昼の酒場に珍しくヴェルンヘルが1人できて、酒を注文する。
ヴェルンヘルがお酒を酒場で飲むこと自体がとても珍しかった。
酒を飲んですこしほろ酔いになったあたりで、1人の女性がヴェルンヘルのテーブルに近づいてきた。
見慣れない服をきた女性だった。
夏なのもあってか露出の高い服で色白の女性の魅力をより一層引き立たせている。
女性
「ご一緒してもよろしいかしら?」
ヴェルンヘル「ーー旅の方、歓迎します」
ヴェルンヘルは微笑むと、火酒をコップに注いで女性に渡した。
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リンゴ
「負けた方が」
ティアゴ
「酒代おごる」
ただ酒を飲む口実を作ろうとしているのか本当に練習試合をしたいのか本人たちにもよく分かっていないが、ダンジョン終わりのこの2人、顔を合わすなりそう言い合って闘技場へ向かう。
恒例のように、リンゴが敗北した。
リンゴ「ーーどうして、先制できないの…」
グッタリとしながらヨロヨロと立ち上がる。
ティアゴ
「王妃様は優しいから、俺を勝たせてくれてるんでしょ?」
リンゴ「違うから!私は本気でやってんの!」
こんなやりとりをしながら酒場に入る。
酒場に入った瞬間、酒場にいた人たちがリンゴを見て表情を凍らせる。
明らかに漂う雰囲気がおかしい。
リンゴ「え……ど、どうしたの……」
困惑するリンゴの問いに国民は顔を背けた。無理矢理日常に戻っていく。
ティアゴ
「何かあったのか?」
不運にも居合わせてしまったティムに、ティアゴが声をかける。
ティム
「さあ、知りません…」
食事をしていたティムは気まずそうに視線を逸らせフォークを動かす。
その動きをティアゴは注視し、静かにティムの顔を見つめる。
すると、ティムは息を吐き、
「………リンゴちゃんをここから連れ出して下さい。」
声をひそめて言った。
ティアゴ「どうしてだ?」
ティム「……頼みます」
理由は今言えない…ティムの目がそう訴えているようだった。
何がなんだか分からないが、理由もなくティムがこんな事を言ってくるはずがない。
ティアゴはリンゴに向き直った。
ティアゴ
「悪いけど、ちょっと付き合って」
リンゴ「え?飲みは……?」
ティアゴは不安げな表情を浮かべるリンゴの肩を抱いて、酒場から出た。
酒場から出るとティアゴはリンゴから離れた。
ティアゴ
(事情はあとでティムに聞くとして、リンゴを酒場に近づけなきゃいいのか)
「ヤーノ市場で買い物があるんだけど付き合って」
リンゴ「いいけど…」
不満そうな顔をしながらリンゴはティアゴと共にヤーノ市場に向かって歩き出す。
ーーーーその時だった。
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誘ってきたのは女性の方からだった。
昼の酒場、人の往来も多い中、ヴェルンヘルは人目を憚らず女性と共に酒場の二階に上がっていく。
転移石で人に悟られず行ける部屋なのに、ヴェルンヘルはその手を何故か使わなかった。
ヴェルンヘルが女性を伴って二階に消えていくのをティムは呆然と見つめていた。
ティム
(客室じゃない部屋に………陛下、まさか……)
旅人の女性が借りている部屋ではなく、ウィアラさんに頼んで用意してもらった部屋に2人は入った。
大きなベットのある薄暗い部屋だった。
ヴェルンヘル
「飲み直しますか?」
部屋に置かれているワインに目をやると、女性がふわりとヴェルンヘルの胸元に飛び込んでくる。
女性の身体を抱きとめると、そのままベットに押し倒した。
女性
「私で本当にいいの?国王陛下」
女性は妖艶な笑みを浮かべてヴェルンヘルの頰に触れる。
ヴェルンヘル
「これほど美しい女性の誘いを断る男がいるのでしょうか?」
女性「陛下はお上手ね」
ヴェルンヘル「本心です」
女性に覆いかぶさると、ヴェルンヘルは女性の首筋にキスをする。
ヴェルンヘルの手が女性の胸の膨らみに触れようとしたその時
ヴェルンヘル「やはりな」
女性「……!」
2人の視線が交差する。2人の表情は全く違かった。
ヴェルンヘルは無表情で、女性は一瞬驚いていたが口の端が上がる。
女性の手にはナイフが握られていてヴェルンヘルを刺そうとしていた。ヴェルンヘルは女性の腕を掴んで動きを止めていた。
ヴェルンヘル「誰の差し金だ?」
落ち着き払った様子で女性に問う。
女性
「私はこういう仕事は引き受けない主義なの。つまり、私の自由意志」
ヴェルンヘル
「こんな小国の国王の命を奪って、貴方に何の利益がある?」
女性
「私のステータスになるでしょ?国王殺しなんて聞いただけでもゾクゾクすると思わない?」
女性がニヤリと笑い手から衝撃波が放たれる。
ヴェルンヘルの身体が壁に叩きつけられた。
ヴェルンヘル「ーーーっ!」
女性
「ごめんね、痛かった??ヴェルンヘル陛下はカッコいいから苦しませず殺そうと思ってたんだけど………気づいちゃうんだもの」
壁に叩きつけられながらユラリと起き上がるヴェルンヘルを女性はにこやかな微笑みを浮かべて見つめる。
ヴェルンヘル
「………貴方の正体は分かっている。龍騎士3人が健在のこの国で貴方の本当の望みは叶いはしない」
女性「……ふぅん…」
呟くと女性の指先が動く。室内に風が巻き起こり、息もできないほどになる。ヴェルンヘルの背後にあった扉がバキバキと音をたてて破壊された。
一階の酒場の喧騒が聞こえてくるが、二階の異常事態に悲鳴が上がった。
ヴェルンヘル
(国民を巻き込んでしまう…!)
女性が剣を抜き、ヴェルンヘルに迫ってくる。ヴェルンヘルは素早く何かを取り出すと何か発動した。
2人の姿は室内から消えてなくなった。
女性が短剣で刺してこなかったら………
………
おっと、誰かがきたみたいだ〜