リンゴはアルシアを酒場に誘う
アルシアは、山岳兵団の長子と付き合っていて、今孤立している。
長子と長子は結婚できない
リンゴはアルシアの心中を察した。
どんな思いで付き合っているのか。
どんなに二人が愛し合ったても、結ばれることはけしてない。
しかも、二人は長子ゆえ、これから山岳兵団のリーグで定期的に戦い、行事ごとに顔を合わせることになる。
アルシア
「心配、かけちゃってごめんね」
リンゴ
「ううん、全然・・そんなこときにしないで」
アルシア
「お父さんたち、色々言ってるでしょ」
リンゴ
「うーん...まあ、少し・・少しだけ」
リリーから酒場でバーニーがグチっていたと聞いた。
アルシア
「・・イノマルのこと知ったとき、両親はとてもショックを受けてたみたい。だけどお母さんは、何も言わずに抱きしめてくれた。
お父さんはしばらく壁を見てたけど」
リンゴ(ユズたちの心中もお察しします..!)
「アルシア、大丈夫?」
アルシア
「うん、今はね。でも、別れの日の事を考えると今から怖いかな・・馬鹿だよね、付き合わなきゃいいのに・・・」
人を好きになるのは理屈じゃないと言ったティム君の言葉を思い出す。
頭で考えて、合理的な相手と機械的にお付き合いできれば楽なのかもしれない。
アルシア
「リンゴの方こそ、大丈夫なの?」
アリシアが遠慮がちに聞いてきた。
リンゴ
「え?殿下と?大丈夫だよ」
アルシア
「・・殿下の方じゃ、、なくて。」
リンゴ
「ーー?!」
血の気が引いたきがした。
アルシア
「わたし、ティアゴさんと話してるリンゴを見かけて..おぼえてる?ドルム山道と山岳兵団の村の境くらいで話してたの。私が警備してた時、ティアゴさんがリンゴの耳についたハナムシ、とってくれたでしょ?あの時のリンゴ、少し触れられただけで赤くなっちゃって..」
リンゴ
「?!??」
リンゴの顔が赤くなった。
リンゴ「え、私そんなに分かりやすかった?」
アルシア「・・・うん..」
リンゴ
「もしかして、その時、ティアゴ君、気づいたかな...」
アルシア
「その前にユアンに触られても意に介さない様子のリンゴが、ティアゴさんの指先が触れただけで赤くなっちゃったら、私でも分かったよ。ティアゴさんって話聞くとかなりの切れ者なんでしょう?そんな人が、気づかないわけないんじゃないかな...」
リンゴ(やっぱりあの時気づかれた..)
アルシア
「でも意外だったな、まさかティアゴさんが・・」
リンゴ「・・・ティアゴ君が..?」
アルシア
「・・・あの日でしょ、ティアゴさんが泥酔したのって」
リンゴ「・・確か、そうだったかな」
泥酔しながら禁断の遺跡に入ろうとしたティアゴをバルナバが担いで家まで運んだ日。
リンゴがレッドと対戦する前の日だった。
アルシア
「イマノルも実はその時見てたんだけどね、毒舌導師が陥落したなって言ってた」
アルシアはクスッと笑った。
リンゴ「えっ、どーゆーこと?」
アルシア
「あの日のこと思い出して!リンゴ、けっこう凄いこと言ってるよ。ティアゴさんの作るものはなんでも美味しいとか、あんなに立て続けに言って・・つまり、ティアゴさんもリンゴのこと・・」
リンゴ「まさか、それはないよ・・」
(・・あの日のこと、ティアゴ君の気まぐれじゃないって思っていいの?)
リンゴ
「それ、イマノルとアルシアだけ?見てたの」
アルシア
「私たちしか見てなかったから大丈夫だよ」
(イマノルがすでに誰かに話してたらアウトだけど..)
リンゴ
「そのこと、黙っててもらえる?」
アルシア
「当たり前じゃない。誰にも言ってないし、これからも言うつもりはない..ただ、リンゴが心配になった。私と少し似てるから...」
一度言葉を切って、アルシアは今にも泣き出しそうな、そんな悲しい笑顔を浮かべた。
アルシア
「どうして、
一緒になれない人がいるんだろうね」
アルシアが言うと、とても重い一言だった。
アルシアと酒場の前で別れる。
リンゴ(アルシアには一生頭が上がらないなぁ)
アルシアは私が自分と似ているといったけど、
アルシアとイノマルは独身同士だし、私とは違う。
私、なんでティアゴくんのことを...
バルナバ
「そういえばこの前酔っ払ったティアゴ君を家まで担いで送ったときさ」
重い空気に耐えきれなくなったらしいバルナバが話題を変えた。
ティアゴ
「そんなことありましたっけ」
リンゴ
(さっき、アルシアが言ってた日のことだ..)
バルナバ
「覚えてないの?その時ティアゴ君、寝言言ってて俺笑っちゃった」
リンゴ
「え?なになに?ティアゴ君はなにを言ってたんですか?」
バルナバ
「リンゴちゃんの名前をいっててさー」
ティアゴ
「えっ💧」
(どんな夢みてるんだ俺は..)
リンゴ
(私の名前?!)
バルナバ
「それは椅子だから食べちゃだめって言ってた」
バーニーは笑った。
リンゴ
「ちょっと・・ティアゴ君どんな夢見てるの」
ティアゴ
「覚えてないよ💧
リンゴが食い意地はってるから無意識にそんな夢をみたんだよ。俺の夢の中で椅子食べないでよ」
リンゴ
「私はそんなに食い意地張ってないー!!勝手に変な夢見ないでよ」
バルナバ
「あの日はベロベロだったね。ティアゴ君があんなに酔っ払ってるの久々にみたよ」
リンゴ
「泥酔したティアゴ君見たかったなぁ」
ティアゴ
「そんなに面白いものじゃないよ・・」
酒場の扉が開いて、リリーが入ってきた。リリーは汗だくで、鎧は汚れていた。
バーニス
「リリー?どうしたの、そんなに汚れて」
リリー
「さっきこの国に着いた旅人が、連れがはぐれたから一緒に探してほしいと言われて国外に出たんだけど..瘴気が増してて魔獣だらけだったの」
リリーには疲労の色が滲み出ていた。
バルナバ
「大変だったね..怪我はない?」
リリー
「うん、なんとか。連れの人もなんとか見つけられて連れてこれたし」
バーニー「その旅人は今どこに?」
リリー
「シズニ神殿で手当てを受けてる。怪我はたいしたことないよ。・・その旅人が言ってたんだけど、ここからそんなに離れてない国の中で、亀裂が見つかって、その亀裂はどこかの森に通じているらしく、魔人の存在が確認されたって。ほどなく、魔人が多数国に現れて大変な騒ぎになったんだって。」
バルナバ
「その国大変だね。昔、この国でもあったらしいけど..」
リリー
「この国もいつどこで亀裂が確認されるか分からない。もし見つけたら各代表と陛下にご報告をお願いね」
ティアゴ
「了解です」
リリー
「私は疲れたからグリーンジュースでも買って帰る。リンゴ、もう遅いから一緒に帰ろう」
リンゴ「はーい」
リンゴはバルナバたちにお礼を言って、リリーと共に酒場を出る。
リリーはグリーンジュースを飲み、その味に悶えながら必死に飲み干していた。
リンゴ
(歩きながら飲むのはお行儀悪いけど今日は大変だったみたいだし仕方ないか..なんでグリーンジュース飲むんだろ..)
不動の騎士隊長のたくましい背中を見ながらいつか自分もみんなを守れる存在になりたいと思うリンゴであった。