朝晩の風が涼しくなったとき、季節の終わりを感じた。
あの鮮烈な日差しはどこへ行ってしまったのだろう。枯れ落ちた街路樹の葉に、永遠に刻まれたままなのだろうか。


夏が過ぎて、ずっと切ない秋がやってきた。


最近では毎晩電話をくれる。話題はないけれど、声が聞きたいんだ、という。
同じ気持ちなのに笑顔になれない。風邪をひいた彼の声はいつもよりずっと低い。

「何で黙ってるの」
言いたいことが見つからないから。
「そんなさみしそうに黙ってるの、よそうよ」
なに言ってるの。電話越しにそんなこと分かるわけないじゃない。
「俺は笑った声が聞きたいんだけどな」

「別に、さみしくないよ」

ほら、その声だ。嘘をつくのは下手だから、すぐばれる。
まあ、いいんだありのままで、とか何とか言ってフォローしてるけど、こんな電話で楽しいはずない。

それでも最後はおやすみのキスをねだるくらい、彼は明るい。
だから救われる。電話越しじゃキスはできないけど。


日に日に淋しそうになる、と言われた声をなんとかしないといけない。
沈黙でも、愛と幸福が伝わるように。

今日は楽しい話題を用意しておこう。
クーラーの風が肌にあたって寒い。
電車の席は固くて背中が凝ってしまう。今日は薄曇りなんだ。何でもない1日の片隅で、私は東京に向かっている。


強くなろうと決めた。
彼女からどんな話を聞かされるか分からないけれど、耐え抜いてみせる。
痛みを乗り越えたらきっと、今より愛せる。彼を、彼女を。

彼らは哀しいくらいに傷つけ合ってしまった。お互いに手を上げるなんて、ひどい話だ。
そう、哀しくて苦しくて、私はたくさん泣いてしまった。電話の向こうで彼も泣いた。




私たちは弱い。
自分勝手で、臆病で、不器用で、汚くて、弱い。

それでも生きる。
また誰かを好きになる。

だから、私のすべてをかけて愛そうと思う。
夏の終わりの街を歩く。湿った曇り空が戒めのようにビル群を覆う。

立ち止まったら座り込んでしまいそうで、それが怖くて何十分もただ歩いた。
涙が少し出た。今はその時じゃない、汗と一緒にぬぐう。


私がお人形みたいに大事にされているときに壊された女の子がいる。

自分が許せない。なんて平和に、人の痛みも知らずに、幸せになったと思い込んでいた私を、許せない。


どうして気付かなかったの。



一瞬、城ヶ崎の青い海が瞼に浮かんだ。



届かないだろう、こんな世界じゃ、どんな言葉も。電波に乗って飛んでいけたらいいのに。


お願いだから、もう傷つけないで。
お願いだから。