関東東北チャリ旅 (水戸⇒いわき) 2005年12月11日
電車は水戸駅のホームに滑り込み、朝日に包まれたホームへと導く。乗客は皆エスカレーターへと足早に歩き行く。俺は大きな輪行袋を抱えていたため、流れとは反対にエレベーターへと向かう。エレベーター前で待っている女性が俺の大きな荷物を見て声を掛けてきた。
「その荷物って自転車ですか?」
そうだと頷くと興味を持ったのか、どんな自転車なのか聞いてくる。レーサータイプの自転車かと尋ねるので、普通の折りたたみ自転車だとは恥ずかしくて言えなくなって しまった。 真鶴から名古屋までの旅で、折りたたみ自転車ではこの先大変だと感じた。せめてタイヤをロード用に履きかえなければならないと考えていたのだが、そんなことを考えていたら いつまで経っても先に進めない。今回も輪行袋に入っている自転車は前回と同じ至って普通の‘折りたたみ自転車’であった。
前回自転車で水戸に到着した証拠写真として駅前の広場で写真撮影をしたのだが、ここでは人が多くて 自転車を組み立てるのは迷惑だ。階段を下りて人がまばらなデパートの前まで自転車を運ぶことにした。 今日は日差しがとても暖かい。上着を2枚脱いだ後、袋から自転車を取り出し組立て始めた。この作業は今回で3回目となるのだが、それでもまだ恥ずかしかった。 組立て終わると気まずさもあり、その場を颯爽と走り出す。
今日は本当に暖かく薄着になった今でもまだ暑さを感じてしまう。 国道6号沿いに北を目指して順調に漕ぎ続ける。通り沿いのコンビニで休憩しようと考えているのだが、なかなかコンビニに出会えない。休憩なしで1時間半も走ってしまった。 ようやくセブンイレブンの看板を見つけ、自転車を駐車場へと入れる。隣にサイゼリアがあることに気づき、早いけれどももう昼飯を食べてしまうことにした。
ペペロンチーノのダブリュサイズに温泉卵を乗せたもの、それにドリンクバーを付けてゆっくりとお昼 の休憩をした。 店を出ると辺りの天気は一変していた。空は黒い雲に覆われ始め、冷たい風が吹き抜ける。
「雨が降ると嫌だな…」
上着一枚羽織ると急いで自転車に跨った。 寒いといえども上り坂を全力で漕いでいると額にうっすら汗をかく。軍手でその汗を拭うと、軍手の隙間から冷たい風が入り込み手が悴んでしまう。太股も筋肉痛と寒さから痛み始めた。
コンビニの隅で休憩していると、近所のおじさんが「寒くないか」と声を掛けてきた。もちろん寒い。温かいコーンスープを飲み干すと、すぐに出発することにした。 本当はしばらく休みたかった。だけれども寒さのため外で休憩するのはとても辛い。徐々にスピードが落ち始めダラダラと走る悪循環に陥ってしまった。
雨がポツポツと降り出した頃、通り沿いにホームセンターを見つけた。寒さと雨に気持ちは耐え切れず中に入ることにした。 入り口に都合良く木でできたベンチがあったので、少しその場で休ませてもらう。カバンから上着を一枚取り出す。今日の朝は暖かかったのだが、気づけばすでに脱いだ服は全て着ていた。一日のうちでこうも気温差があるものなのか。
「ようこそ福島へ」の文字に気づき自転車を止める。いつの間に福島に入っていたのか。県境で写真を撮りたいと思っていたのに撮れなくて残念だ。 県の境目というだけでなく、福島県に入ったということは東北地方に入ったことでもある。後ろを振り返り、東北と関東を分けると言われる鵜ノ子岬を感慨深く見つめる。
「さらば関東…いよいよ東北に突入だ!」
言葉に出してみても東北にやってきたという事実だけで、特に今までと何が変わる訳でもなく、道路の 左端を同じように黙々と漕ぎ続けなければならなかった。
曇に隠れていた太陽が西に沈む頃、ひさしぶり顔を出した。鮫川に反射するオレンジ色の光がとてもきれいで思わず立ち止まる。もう今日の宿である健康ランドに近いこともあり、とても気持ちが楽だった。 こうしたちょっとした瞬間が好きだ。毎日のように繰り返される瞬間ではあるのだが、旅に出ていないと味わえない瞬間でもある。見慣れない風景に見慣れない太陽が沈む。まだ東北にやってきた実感はなかったのだが、こういった光景を見ていると遠くまで来たという感覚が 少し湧いてくる。
太陽は沈み、ついに真っ暗になってしまった。折りたたみ自転車にはライトがついていないため、リュックからヘッドライトを取り出す。 いわきサンシャインロードはバイパス状になっており、人気が全くない。歩道には落ち葉が積もり、雨で塗れた路上をより一層滑りやすいものにしていた。先がほとんど見えない道をただ走る。
まだ着かないのか… ひょっとしてもう健康ランドを通り過ぎてしまったか… そのような不安を感じ始めた矢先、ローソンの脇に健康ランドの看板を見つけた。健康ランドは山の上にあるため、自転車を押しながら登ることにした。ついに健康ランドに到着した。 駐車場は車でいっぱいだった。自転車でふらふらと健康ランドの周りを走る。しかし駐輪場が一向に見つからない。ひょっとして駐輪場というもの自体ないのかもしれない。こんな場所まで自転車で来る奴はいないのだろう。悪戯されにくい場所を探し自転車を止めた。 風呂に入った後、食堂でレバニラを食べながらテレビでサッカーの世界クラブ選手権を見る。東京の国立競技場では雪が降っていた。どおりで今日は寒かった訳だ。
東関東チャリ旅 (神栖⇒水戸) 2005年11月12日
出発の準備を済ませ玄関に向かう。 外は雨が全てを薄黒く染めていた。朝から雨が降っていると心理的にとても辛い。 これから雨に塗れるために、わざわざ外へ出ないといけないのだ。パッキングを済ませたザックを開け、渋々雨具を取り出す。
国道124号を走り、昨日休憩をしたマクドナルドまで戻る。途中でやめてしまった伊豆へのチャリ旅を除けば、雨の中まともに走るのはこれが初めてだった。強い雨に打たれながら黙々と自転車を漕ぐ。通りを歩く人達は当たり前だが、傘を差し極日常的な生活をしている。俺は雨の中、ただ北へ目指しひたすら走り続けなければならない。
走り続けなければならない…
そうは言っても無理をして走り続ける必要はない。訓練でなければ、義務でもない。もちろん応援してくれる人もいる訳ないし、自分自身で決めたことだった。時折自分が何をやっているのか分からなくなる。そんな嫌気にも似た気持ちが、心の奥底で度々生まれてきた。
木滝交差点で左折し、鹿島神宮へ向けて走る。 鹿島神宮近くまで来ると閉まった商店の店先で雨宿りをしながら地図を広げる。せっかくだから鹿島神宮の中を通ろう。鹿島神宮は雨がシトシト降り注ぎ、樹木に囲まれている砂利道がとても幻想的だった。 境内を自転車を押しながら歩く。中は雨のせいか人もまばらで、木々から滴る雨音だけが響き渡っていた。 拝殿の前で自転車を止め、写真を撮った。こうしたちょっとしたイベントがチャリ旅に彩りを添える。 今回の旅の安全を祈り、鹿島神宮を後にした。
鹿島サッカースタジアムを通り過ぎ、トンネルを潜り鹿島灘に出る。トンネルを抜けた瞬間激しい風が吹き抜けた。 ペダルが突如重くなり、前に全く進まない。
「ググッ雨の次は風かよッ!」
風が強いのは雨以上に難関であった。なんせ今まで進んでいた距離の半分しか同じ時間で進めなくなるのだ。自転車で走っていると言うよりも、その場に止まっていると言った方が正しいのではないかと思えるほどの低速で走る。
こんな過酷な状況にあるにも関わらず、顔は自然と笑っていた。 頭にはとある曲の歌詞が浮かんでいた。
広い宇宙の上を歩いてゆく
遠い遠い自分に出会うために
カッコ悪い道を選んだ男
カッコ悪い夢を選んだ男
(爆風スランプ「旅人よ~The Longest Journey」より)
何でこんなに苦しくカッコ悪い思いをしているのに、このチャリ旅を続けるのか。 その理由が何となく分かった気がした。 ただ純粋に自転車で日本を縦断したい。その一見無意味に思える行為が忘れかけていた自分、つまり子供の頃に感じていた気持ちを呼び起こすのだろう。 そんな遠い昔の自分、そしてゴールした瞬間の遠い未来の自分に出会うために、俺はこのチャリ旅を始めたのかもしれない。今の時代ガムシャラにやることがカッコ悪いとされているが、そのカッコ悪さが俺にとっては好きだった。
気がつけば雨は止んでいて、晴れ間さえ見られるようになっていた。 今日はひたちなか市まで走ろうと考えていたのだが、雨や風の影響であまり進めなかったから、水戸で今回のチャリ旅を終えることにした。コンビニで休憩を取りながら、海岸沿いを北上した。
大洗を通り過ぎてついに水戸に到着する。水戸駅が次回チャリ旅を始める拠点となるため、自転車をエレベーターで駅の改札階まで運ぶ。そして人が行き交う改札前を通り過ぎ、駅の正面で写真撮影をした。するとその様子を見ていたオジサンが声を掛けてきた。
「どこから来たの?」
千葉からだと答えると驚いたように笑っていた。千波湖沿いに続く県道50号はとても綺麗だった。夕焼けが今回の旅のゴールを祝福してくれた。自転車を通りに止め、芝生の上に座りながら沈み行く太陽を眺める。湖沿いには紅葉が夕焼けに照らされ一層オレンジ色に輝いていた。そしてその光景を見ている自分もオレンジ色だった。
普段建物の中でモノクロの生活を強いられているため、鮮やかな色が心地よかった。
「さてそろそろ行きますかな。」
名残惜しいが今日の宿であるユースホステルに向けて出発することにした。ユースホステルでは外国の方と相部屋になり、面白かった。次の朝、偕楽園をブラブラと散歩して帰路についた。充実した3日間だった。
東関東チャリ旅 (千葉⇒神栖) 2005年11月11日
早朝まだ薄暗い街並み。聞こえる音は千葉駅に押し寄せるサラリーマンの足音と、改札の通過音、そして走り去る電車の音のみ。街全体がまだ寝静まっているかのようだった。そんな中、一人大きな輪行袋を抱え駅の隅っこに立っていた。ここから北海道の最北端の地である宗谷岬まで自転車で行く。
“自転車で行く”と言うととてつもなく大きな野望に聞こえるが、残念ながら一気に宗谷岬まで行くわけではない。本心は一気に北上したかったのだが、もうやりたいことを好き勝手にできる年齢ではないため、ただ限られた時間をうまく使い走ることしかできなかった。行けるところまで自転車で走り、時間があるときに再びそこから始める。つまり断続的な走りをすることになる。
断続チャリ旅…
もはや野望とは恥ずかしくて呼べないとてもくだらない代物…だがそのくだらない野望をどうしても挑戦してみたい自分がいた。
旅のスタート地点は千葉駅からだった。今までチャリで走った明確な最北端の地は千葉駅だったのがその理由だ。当時は学生で房総半島を一周ママチャリで走った。日本縦断チャリ旅の予行練習のために行ったものが、まさか旅の一部になってしまうとは夢にも思っていなかった。
今年のゴールデンウィークに真鶴から名古屋まで自転車で走った。だから今回はその続きをしようかとも考えていたのだが、名古屋より先となると新幹線に乗らないとスタート地点まで行くことができない。今回は短い週末を利用しての旅なので、お金を掛けて遠出するよりも比較的近場から地道に攻めることにしたのだ。
輪行袋から顔を覗かせていたのは、真鶴から名古屋まで走った時と同じ折り畳み自転車だった。折りたたみ自転車のスピードの限界を改善しようと、カスタムについて考えていたのだが、適当なタイヤやパーツが見つからなかったためカスタムできずにいた。 本来ならばカスタムしてから旅を続けたかったのだが、「カスタムするのを待 っていられない」「何か熱いことをしたい」という気持ちに突き動かされて、急遽今回の旅が始まったのだった。
自転車を組み立て駅から一歩を踏み出す。千葉駅周辺は大きな道路が迷路のように行き交い、頭上にモノレールが走っている近代都市のような景観だった。国道51号に乗ってしまえば後はしばらく走り続けるだけなのだが、目的の51号が見つからない。以前房総半島一周チャリ旅をした時も、道に迷ったものだと思い出す。通りを歩くおばさんに声を掛け、何とか51号に出ることができた。
平らな道が続き、ペダルを漕ぐだけで距離が稼げる。 ウォーミングアップとしてはもってこいだ。体のエンジンが温まった頃成田に到着した。
国道295号に乗り換える。成田といえば外国との玄関である成田空港がある。空港の敷地付近では、地上擦れ擦れに飛行機が離着陸していく様子が見える。思わず写真を撮りたくなり、自転車を降りてカメラを構える。
空港に近づく度に、道路脇に駐車場が増えてきたように感じる。
初めは何で遠くて空港に歩いていけない場所に駐車場があるのか不思議だった。 だが考えてみれば納得できる。一日のうちに成田空港を利用する人は何十万人といるのだ。その全員が空港に駐車したら堪ったものではない。いつもと違った成田空港の一面を見た気がした。
県道44号に乗り換え東へ進む。お昼になり、どこかで昼食でも食べようと思うのだが、県道ということもあり店が全く見当たらない。そんな中、畑に周りを囲まれた小奇麗な道の駅くりもとがあった。自転車を止め、地元の特産物である野菜達を食べる。あまり休憩を取らずに来たから、疲れがどっと押し寄せるがなんとか気合を入れて再び出発することにした。
数時間走り続けると街が賑わってきたのが分かる。ついに今回初の県境である千葉県と茨城県の県境利根川に到着したのだ!なんだか橋を渡っていると、外国の国境にあるイミグレーションを通過しているような感覚に陥る。何気ない瞬間なのだが、その瞬間がとてもうれしい。ただ地名が変わること、それだけで今までとは違う新しい場所に来たという新鮮な気持ちになった。
今日は神栖町の健康ランドで泊まることにした。本当ならもう少し進みたかったのだが、この先しばらく気軽に泊まれる健康ランドがなかった。時間はまだ3時過ぎでいつもと比べ時間は早い。今日は健康ランドでゆっくりできそうだ。
国道124号に入ると、もう到着した気分になりイオン脇のマクドナルドに入ることにした。さてあとは健康ランドに行くだけだ。 雑誌と飲み物を買い、それらをハンドルに引っ掛けて走り始める。
辺りは暗くなり始めていた。道は直線なのだが、歩道は段差がありとても走りずらい。思い通りに進めないせいか、予想に反してなかなか宿に到着できないでいる。まだ着かないとはおかしい…コンビニに入り道を尋ねると、自転車で30分くらい過ぎ去ってしまったことを教えてくれた。無駄な労力を使ったことに愕然としながら、元来た道をトボトボと戻る。もう早く着こうという気力はなくなり、無心でペダルを漕いでいた。健康ランドに到着した時にはいつもとほとんど変わらない時間になってしまった。
風呂で今日の汗を流した後、食堂で中華丼を食べながら明日のルートを考える。できれば東海村あたりまで明日は行きたい。 思ったよりも距離を稼げないのがとてももどかしい。しかしそんなジレンマを感じながらも、あくまで断続チャリ旅なのだから、そう焦る必要はないのではないかと考え直すのだった。