小津映画では、人、物、街、風景が、そのままの姿で自らを※¹啓示する。
ヴィム・ヴェンダース(ドイツの映画監督)
ちなみに、改めて
※¹啓示とは、神または超越的な存在から、真理や通常では人間が知りえない知識・認識が開示されること、とある。
『そのままの姿を啓示する』とは、「あるがまま、ないがまま、そのまま」ということだろうか。
または、人やものが、ただ「ある」ということかも知れない。
だとすれば、日本のNature「自然」、「自ずから然り」に通じるものがあり、
意訳すると、人もまた自然の一部だということがよくわかるような描写ということだ。
小津の散歩道 新湯の森
母親が中井貴一の父、佐田啓二の大のファンで、
弟の名前啓二はこれにちなんでつけたと聞いている。
佐田啓二は、小津映画の二枚目役としてよく出演している男優である。
(佐田啓二の別荘の写真)
蓼科高原で佐田啓二の別荘を見たとき、ここはひょっとして自分と繋がりのある地かもしれないと思った。
そして、母親が老いたら蓼科高原の高齢者福祉施設に行こうかと視察をしたこともある。
(円覚寺)
小津安二郎のお墓は、鎌倉の円覚寺にあるが
墓標には名前がないらしい、ただ「無」と刻まれている。
(蓼科の無藝荘の写真)
「無」、「禅」と関係しているのであろうか、
円覚寺の近くの縁切寺は、「無」「禅」の巨人の西田幾多郎の墓があるという。
「禅」は日本人が求めてやまない心とそのあり方である。
2017年だったか、JR東日本が小津安二郎の散歩道をあるくツアーを企画したことがある。
無藝荘で知り合った地元の名士の方のご紹介で、ツアーガイドと参加者の女性と一緒に小津の散歩道を歩いた。
(一緒に歩いた時の写真)
若い旅行客に何故、小津映画が好きなのか聞いたところ、
きっかけは、海外でも高く評価されているからだ、と言っていた。
「瞑想」に対する「マインドフルネス」、「日本食」に対する「マクロビオティック」のように新たなコンセプトで、海外でリニューアルされて逆輸入された影響もあるのか。
ツアーガイドさんが片手に持っていた本『蓼科日記』
(蓼科日記)
映画「東京物語」は2012年に英国映画協会の「サイト&サウンド」誌で、
「映画監督が選ぶ史上最高の映画」の第一位に選ばれた。
世界中の358人の映画監督が投票した結果で、「2001年宇宙の旅」や「市民ケーン」を抑えての快挙だった。
平山周吉著『小津安二郎』より
何故、世界で『東京物語』はこんなにも受け入れられるのだろう。
イギリスでの上映は1957年だが、
映画評論家リンゼー・アンダースンによれば「この映画には※²”禅”がある」だった。
難解なので日本人でもよくは理解していない「禅」の世界が『東京物語』にはあるらしい。
※²禅とは、精神を統一し、無我の境地に入って物事の真の姿を求めること。
(新明解国語辞典 三省堂)
『仏教の真理を言葉によらず師が弟子へと伝えていく営み』
(仏教思想家 ひろさちや)
2023年「東京物語」にちなんで尾道で行なわれたイベント
ロケ地の竹田家の女将は、『いま宿泊客の8割以上が20、30歳代の東京物語ファン。
若い人がどうして、と不思議だが、ありがたいことです』といっている。
偉大な世界的女優原節子について
1936年、16歳の時、第7回出演作品『河内山宗俊』撮影中に見学にきたドイツのアーノルド・ファンク監督の目にとまり、初の日独合作映画の大ヒット作となった『新しき土』のヒロイン役に抜擢されている。
そんなに大女優だったのだ。
自分は、「昭和のよき家族のつながり」とものがない時代にあった「本当の幸せ」が描かれていていると思っている。
小津映画は何故、若い人にも人気があるのか、これからも探求していきたい。