先生への手紙 (1)
故人に手紙を書きたいのだがどうしたものか。
さまよえる一匹の子羊のために惜しまず隣人愛を注いでくれた先生に、もう一度お礼を言いたい。さっき帰り道にそんな強烈な思いにかられたが、お世話になった人がもうこの世にいない。
こんなふうに感謝の念というのは、どこまでも一人歩きするものなのだろうか。口に出して云われることの無い届かぬ思いは、合わせ鏡の中に穿たれたどこまでも続く深淵のように、不在に向かって深化していく。
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高校3年生の1学期末。私のノートが消えた。その教科の試験は週明けの月曜日だったのに、土曜日の晩になっても見つからなかった。焦った。その夜はとにかく他の教科に専念した。
翌日曜日。睡眠不足というのは人を大胆にする…
私は学校の隣の修道院に電話を掛けた。もう一度この目で教室内を確かめたいと事情を話した。
電話に出たのは私の尊敬するM校長だった。朝のお祈りの時間を邪魔したのではないだろうかと心配したが、先生は学校の鍵を開けてくださると言う。まるで仏のよう(シスターなのに仏なんて…)。
超特急で髪を三つ編みにして学校へ向かう。7月上旬の、梅雨明けを先取りしたかのような暑い暑い日だった。袖も裾丈も長いあのシスターの服にベールといういでたちで、たった一人のために一緒になって、当の私以上に執念深く高校3年の教室をすべて回ってくれた。ベールの隙間から白髪の覘く先生の額は汗でいっぱいだった。
だが、ノートは無かった。
結局お友だちに電話をしてノートのコピーをもらうことにした。最初からそうするべきだった。自分のノートというものにこだわりすぎていたことに驚き呆れてしまう。その夜試験勉をしながら、校長先生にお礼と反省のお手紙を書いた。
(つづく)
さまよえる一匹の子羊のために惜しまず隣人愛を注いでくれた先生に、もう一度お礼を言いたい。さっき帰り道にそんな強烈な思いにかられたが、お世話になった人がもうこの世にいない。
こんなふうに感謝の念というのは、どこまでも一人歩きするものなのだろうか。口に出して云われることの無い届かぬ思いは、合わせ鏡の中に穿たれたどこまでも続く深淵のように、不在に向かって深化していく。
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高校3年生の1学期末。私のノートが消えた。その教科の試験は週明けの月曜日だったのに、土曜日の晩になっても見つからなかった。焦った。その夜はとにかく他の教科に専念した。
翌日曜日。睡眠不足というのは人を大胆にする…
私は学校の隣の修道院に電話を掛けた。もう一度この目で教室内を確かめたいと事情を話した。
電話に出たのは私の尊敬するM校長だった。朝のお祈りの時間を邪魔したのではないだろうかと心配したが、先生は学校の鍵を開けてくださると言う。まるで仏のよう(シスターなのに仏なんて…)。
超特急で髪を三つ編みにして学校へ向かう。7月上旬の、梅雨明けを先取りしたかのような暑い暑い日だった。袖も裾丈も長いあのシスターの服にベールといういでたちで、たった一人のために一緒になって、当の私以上に執念深く高校3年の教室をすべて回ってくれた。ベールの隙間から白髪の覘く先生の額は汗でいっぱいだった。
だが、ノートは無かった。
結局お友だちに電話をしてノートのコピーをもらうことにした。最初からそうするべきだった。自分のノートというものにこだわりすぎていたことに驚き呆れてしまう。その夜試験勉をしながら、校長先生にお礼と反省のお手紙を書いた。
(つづく)