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「消す(2)」―effacer

昨日に引き続き「消す」という語と概念について考える。

昨日は oblitérer「抹消する」を取り上げて、「消す」という概念の始まりは「文字を消す」ことだったのではないかと考えてみた。

今日は oblitérer の同義語 effacer「消去する」を取り上げるひらめき電球

英語の efface, 仏語の effacer は言うまでもなく接頭辞 e- + face
ラテン語由来の接頭辞 e- は分離や剥奪を表したり、状態の変化や達成を表す。ここでは「分離」の意。face は、portrait figure を意味するラテン語 facia から。

消すは消すでも effacer は、「こすって消す・ぬぐい去る」こと。以下用例。

1. 痕跡を残さないように消去する
effacer un trait à la gomme線を消しゴムで消す
effacer le tableau 黒板を消す
黒板自体を消してしまうのではなく、黒板を「拭う」という意味。日本語の「黒板を消す」と同様だ!
2. 忘れさせる
On ne peut tout à fait effacer de sa mémoire la chaleur d'une émotion. 「人は熱烈な思いを記憶からすっかり消し去ることができない
3. 目立たなくする、影を薄くする
effacer ses collègues par son intelligence知性において同僚を凌ぐ

effacer は 事物の形 (figure) を拭って痕跡を消去すること
しがたって oblitérer が letter を抹消して意味やメッセージを無効なものにしてしまう観念的な抹消であるのに対し、effacer は影や形を消去するヴィジュアル的な消去であると言えるのかも知れない。形ある物いつかは滅ぶ…

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effacer を語るに外せない詩がある。
シャンソン『枯葉』より(ジャック・プレヴェール作詞, 1945年)
Mais la vie sépare ceux qui s'aiment tout doucement sans faire de bruit
だが運命は、愛し合う者を静かに音もなく別々にするハートブレイク
Et la mer efface sur le sable, les pas des amants désunis
そして潮は砂の上の、離れた恋人たちの足跡を消し去るあし

「思い出してくれるかい」「君が歌ってくれた歌をぼくは忘れはしない」と思い出を誘うように歌い出しながら、浜辺の上に残された、もはや別れた恋人たちの足跡が、波にかすめられ薄まり消えて行く…そしてこの歌自体が足跡の消去する潮騒のうちに儚く消えて行く波

昔から好きな歌音譜。高2の夏休みに聞きまくってたと思う。その夏に黴びたパン食パンを食べてしまって、この歌を聴くたびカビの味を思い出す…しょぼん