Text or Nothing -108ページ目

4人が横たわるシーン - 『リア王』と『ゴドー』

シェイクスピア『リア王』第5幕3場の最終部分、舞台上には4人の死体が横たわる。
リア王、ゴネリル、リーガン、そしてコーディリアの一家4人である。

ベケット『ゴドーを待ちながら』(以下『ゴドー』)第2幕で、舞台上に4人が転んで横たわるシーンがある。
目が見えなくなったポッツォが、口の聞けなくなったラッキーにしがみつくとラッキーが倒れ、それに続いてポッツォが倒れ、ポッツォを起こそうとしたヴラディミールが、そしてヴラディミールを助けようとしたエストラゴンがやはり転んで地に倒れる場面。

おもしろいのは『ゴドー』で倒れた3人を目にしたエストラゴンが

I'm going. (もう行くよ)

と、立ち去ろうとするところ。行く先もないのに立ち去ろうとする…

いっぽう『リア王』のケントもまた、立ち去ろうとする。

Kent :
I have a journey, sir, shortly to go;
My master calls me, I must not say no.

ケント:
私は旅立たねばなりません、すぐにも。
ご主君がお呼びです、否とは申せません。

『ゴドー』では人物は死んでいないため起き出すが、再起不能たる「王手」の雰囲気を、舞台に横たわるだけの脆弱な肉体で表す点は、両作品に共通するといえるだろう。『リア王』の悲劇はコーディリアの nothing に始まり、『ゴドー』の喜劇は nothing to be done に始まる。時代も作風も異なる両作品ではあるが、本質的に似ている。それは『ゴドー』が演劇についての演劇であることのしるしだろうか。