日本の技術者の危機(ル・モンドの記事) | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

日本では、理系を希望する学生の減少が言われています。OECDの調査では、15歳の時点で、理数系の職業を希望する割合は8%程度でしたか。大学時代に苦労して勉強した割には将来の給与体系で圧倒的に不利となれば、これだけの割合で理系を志望する人がいる、ということは逆に感動的でさえあります、と皮肉の一つでも言いたくなるような、惨憺たる日本の有様です。

ご丁寧にも、フランスの新聞『ル・モンド』が、技術者減少による日本経済の危機を、警告しています。しかし、お政府が取れる対策が、インドや中国、韓国からの技術者移転というのは情けない。国内の教育の充実(大学への予算をせめてOECDの平均並にするとか)には目も向けられない。


『技術者のひどくなる欠乏は日本経済にとっての脅威となる』

La pénurie croissante d'ingénieurs devient une menace pour l'économie japonaise

LE MONDE | 19.06.08 | 14h19 • Mis à jour le 19.06.08 | 14h27

TOKYO CORRESPONDANCE



その未来を知識とハイテクに賭ける時に、日本は頭脳、殊に技術者の減少に苦しんでいる。

SRAなどの複数の企業活動を既に不利にしている現象である。Yoshinori Akoはソフトウェア開発専門のこの会社の技術者である。「各プロジェクトはチームごとに行われる」と説明する。「人数が足りたことは一度もなく、補うために外部の参加者に呼びかけなければならない。この部門の会社は全て、同じ問題に直面している。」 状況は、SRAが時に注文を断らなければならないほどになっている。

人口の減少と、若者の工学に対する興味の相対的喪失に、1947年から1949年に生まれたベビー・ブーム世代の退職も加わる。2006年3月、大学のこの分野では433377人の学生がいた。2001年には467162人だった。

2007年に実施された調査で、週刊誌『東洋経済』は、若者が働きたい会社が、航空会社ANA、良好代理店JTB、あるいはメディアやレジャーの企業であることを証明した。産業や技術部門のグループは格付けの終わりのほうにあった。次第に多くの学生が、報酬の点でより利益があると認識される、銀行や金融系列を重視してきている。

この状況下で、未来の技術者たちは本当に企業に「追い求め」られている。2007年、彼らはそれぞれ、大学を出れば4.26のポストから選ぶことが保証されていた。他の学部の卒業者が平均0.98だったのに対して。新規採用はしばしば、大学課程修了の1年前に行われる。企業は、競争相手に行くのを避けるために、人事担当者との面会と大学への訪問を増やして未来の学卒者に専念する。


RIVALITÉ DES PAYS ÉMERGENTS

(新興国の競争)


技術者の不足が明らかになっているとしても、その傾向を反転させるための解決法が実施されるのは遅い。「現在、工業部門の企業はまだ、基本的に過去と同様の仕方で動いている」、慶応大学の清家篤教授は記す。「昇給は常に、年功によっている。」

企業は、政府の支援とともに、科学を学ぶように促すために高校生との面会を増やしている空しい。彼らに提供される就職口は魅力に乏しいままである。

同じ時期、新興国の経済の競合関係は次第に差し迫ってきている。中国では毎年40万人の技術者が養成され、インドは才能の育成の場を整えている。日本の技術者はこの高い水準でもっと安い競争相手に苦しんでいる。複数の企業は既に、開発活動を国外に移転することを選んだ。日産は今から2011年までにインドとベトナムで4000人の技術者を採用すると予告した。IHIはベトナムに船舶のデザイン・センターを設置した。松下と東芝は中国での開発活動を強化する。

日本で作られる空洞化を代償するために、移民は一つの解決のように思われている。就職斡旋所は次第に多くの韓国人技術者を採用するようになっている。今日、母国で高い失業率に直面して、日本でチャンスを得ようという気になっている、若い学卒者の状況を利用している。

より一般的に、政府は、日本で雇用される、高度の資格を持った外国人学卒者の数を2015年に30万人にしようと望んでいる。2006年には15万8000人だった。経済産業省は、アジアの才能のある人のために、日本語での教育とアジアの学生の研修を提供するために、毎年3000万円(18万ユーロ)を与えられた基金を創設した。

日本は、相当数の外国人技術者がいるシリコン・バレーのようなモデルを目指すことができたかもしれない。しかし、企業がその働きの方法を変えなければ、政府の意志は空文になるかもしれないと、清家教授は判断する。


Philippe Mesmer

Article paru dans l'édition du 20.06.08





教育問題などに関して、フランスが必ずしも手本になるとは限らないと感じています。この記事に付いたコメントを見ると、フランスでも起こっていることだという指摘があります。ただし、日本の場合はこれからも一層深刻な少子化が続くことは確実であり(見かけ上、合計特殊出生率が増えても、母集団が減っているのだから改善していない)、また、欧州では存在しない、法外に高額な大学の授業料という壁があります。今後、日本のお政府さまお得意の「受益者負担」なる掛け声のもとに、国立大学の理系の授業料が文系に比べて高額になった場合、理系で学ぶ意欲のある学生がやむを得ず文系を選択するという状況も危惧されます。無策どころか、逆行するような政策を取り続けている限り、日本人による日本の技術の未来は危ういかもしれません。

出てくる対策が、中国やインドや韓国の技術者の「移民」というのも情けない。一般国民に「愛国心」を矯正する側の考えていいこととはとても思えません。

文中に出てくる清家教授(慶應義塾大学商学部!)が、どちらよりの人物なのか。わかっているのかいないのか、なぜこの人に意見を求めるのかもよくわかりません。