中学の戦争―フランスの学校選択の結果【1】 | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

学力の低下が云々されているのは、日本だけではありません。公教育がサービス業と化して、企業広告に侵食され尽くしているアメリカは言うまでもなく、現大統領が「アメリカ化」を進めるフランスも例外ではありません。

最近、フランスの学校では生徒の暴力が激化し、また教師による生徒に対する平手打ちが大問題になり、親(憲兵)が裁判に訴えて、国全体の教職員を巻き込む大論争に発展しています。この事情については、週刊誌Le Nouvel Observateur の今週号(2008年2月21-27日、通巻2259)に詳しいので、時間と能力があれば紹介します。今回は、その2つ前の誌面に掲載された記事であり、フランスの学校が暴力に巻き込まれることになる、遠因が浮かんでくるように思います。日本で言われる、「モンスター・ペアレンツ」に近い状況がフランスでも起こりつつあるようです。

家族の「選択の自由」を名目にした学校選択制の帰結として、親の「消費者」意識、「サービス」の「受益者」としての意識の増長があるようです。今回の記事は、親に「選ばれる」学校と「逃げられる」学校の、それぞれの校長(ともに女性)の対談です。


『学区:巨大再分配
中学の戦争』

Carte scolaire : la grande redistribution

La guerre des collèges



シャンタル・カイエは都市部の中心にある中学を指揮している。コレット・クルデは都心の中学校の校長である。前者は優秀な生徒をひきつけることができない。後者は生徒を受け入れる十分な場所がない。



家庭の選択の自由という名目で、学区制は消滅しつつある。パリでは廃止されたばかりだし、フランスの他の地域では、非常に緩和されている。この小さな革命の開始から6ヵ月後、人々はどうしているだろうか?現場ではどのようなことが現れているだろうか?パリの古い赤いベルトという共産主義の最後の拠点の一つ、Vitry ヴィトリーには82000人の住民がいて、10の中学校がある。繁華街の学校は今日、人々が殺到している。反対に、郊外の学校は増加する離反に直面している。Danielle-Casanova ダニエル・カサノバ中学の校長コレット・クルデColette Courdès が登録申し込みの下で崩れかかっている一方で、Jules-Vallès ジュール・ヴァレ中学の校長、シャンタル・カイェChantal Cailletは優秀な生徒が去る事態に直面している。二人の校長がそれぞれの状況について話し合う。


Le Nouvel Observateur. – 新学期から、ヴァル・ド・マルヌの視学官が扉を開けました。中学の段階で昨年度の2倍の特例を認めました。お二人の学校ではどのような事態になっていますか?

Chantal Caillet (collège Jules-Vallès, en ZEP). – ジュール・ヴァレ中学は、バルザックの市街近くにあり、477人の生徒がいます。私たちは役職を兼任しています。ZEP(優先教育地区)は、微妙で暴力防止対策の地区です。毎年、自分の子供をジュール・ヴァレに入学させないために特例を求める家族が十くらいあるのが普通でした。しかし、2007年の新学期には、不幸にもさらに十人の生徒を失いました。私たちの学校に既に登録した第6学級と第5学級の生徒でも、そして最後の瞬間に他の学校に行ってしまう生徒もいました。


N. O. 新学期から、ヴァル・ド・マルヌの視学官が扉を開けました。中学の段階で昨年度の2倍の特例を認めました。お二人の学校ではどのような事態になっていますか?

Colette Courdès (collège Danielle-Casanova, en centre-ville). – 私たちは逆の事態に直面しました。24人の生徒を追加で受け入れなければいけませんでした。第6学級の特例による登録だけでなく、他の学級でもあり、これまで経験したことのないことです。原則として、子供たちが一つの中学に入学したら、そこに留まります。それ以上受け入れることも可能だったかもしれませんが、しかし私たちは最大でも1クラス27人という上限を決めていたので、それを守りました。今年は509人の生徒がいて、廊下も食堂も狭過ぎて、共同生活は既に十分に込み入っています。私たちは壁を押しやることはできません!


N. O. 特例の要求を拒否するか受け入れるかするために、どのような基準に基づいていますか?

C. Courdès (collège Danielle-Casanova, en centre-ville). – 備考欄です。中学の校長は書類に意見を付しますが、決断を下すのは死が区間です。毎年、通りの向かい側に住んでいるが、学区による分断という事実によって子供が別の学校に割り当てられている家庭から申し込みを受けます・・・ いつもは、それらを検討することもしません。最優先的特例(医学的理由、奨学金、兄弟姉妹の接近、通学路・・・)の後に承認されます。ところが、教育省による学区制緩和の発表後は、地理的に近いという名目の申し込みは全て受け入れられました。


N. O. それにしても、ダニエル・カサノヴァにこれだけ流れ込んで来るのは何故でしょう?他の学校よりも本当に良く働いているのでしょうか?

C. Courdès (collège Danielle-Casanova, en centre-ville). – そうは思いません。こういうことはみな、主観、街のイメージの問題です。ここは、教会に近い都心です・・・ 恐らく、住民は他の中学よりも(人種も社会階層も)入り混じっているでしょう。なぜなら、「いわゆる」恵まれない階層の生徒が48%、「いわゆる」恵まれた階層の生徒が10%いて、その割合は毎年増加しているからです。しかし、休憩時間に校内を一回りしてみてください、どこも似たようなものです。そして私たちの学校教育上の要求はどこでも同じです、ヴィトリーにいる限りは。それを必要としています、なぜなら私たちの生徒は困難な状況にあるからです。

C. Caillet (collège Jules-Vallès, en ZEP). – ジュール・ヴァレで、全ての学級がうまく機能しているとも、ちょっとした喧嘩がないとも、主張するつもりはありません。しかし、私たちは全ての生徒に成功させるように努力しています。ルイ・ル・グラン高校に入学させたような、優秀な生徒もいました。そして教育省が採った一部の施策により、労働状況が改善されています。例えば、教育的付き添いaccompagnement éducatif、教員に指導されながら、生徒が学校で宿題をすることができる、放課後の2時間。あるいはスポーツや、演劇の選択など・・・ しかし保護者は地区から逃げ出します。前より簡単に別の地区の学校に登録できるので、私たちは、保護者と連絡を取ったり、情報を伝えたり、安心させたりするためにずっと多くの努力をしなければならないでしょう。特に、中学を紹介するために区域の学校を回るときには。


(つづく)

Propos recueillis par CAROLINE BRIZARD




出典

LE NOUVEL OBSERVATEUR 2257 7-13 FÉVRIER 2008

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2257/articles/a366044-.html

次回、中学の戦争―フランスの学校選択の結果【2】 に続きます。

今回のこの記事は、しばらく前、 あるアメリカ人作家の大統領選挙観(Obsの記事)【1】 の前に用意していたものですが、大事件が立て続けに起きて、機会を見失っていました。

最近、フランスの学校で教師に対する暴力が頻発し、教師による生徒の平手打ちが告訴されて大問題になっているという状況を知り、掲載することにしたものです。


今回引用した記事は、2月17、18日の

あるアメリカ人作家の大統領選挙観(Obsの記事)【1】
あるアメリカ人作家の大統領選挙観(Obsの記事)【2】

の元となった記事が掲載されている雑誌と同じ号に掲載されていますが、今回引用した方の記事は、日本で発売されている国際版には掲載されていません。いわゆる『電子版 』で読むことが出来ます。


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