中学の戦争―フランスの学校選択の結果【2】 | PAGES D'ECRITURE

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フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。

前回の 中学の戦争―フランスの学校選択の結果【1】 の続きです。

今回は原文 の N. O.Cet assouplissement entraîne-t-il une concurrence entre les établissements ?  で始まる段落からです。


『学区:巨大再分配
中学の戦争』 (つづき)

Carte scolaire : la grande redistribution

La guerre des collèges


(つづき)

N. O. 今回の学区緩和で、学校間の競争は起こっていますか?

C. Courdès (collège Danielle-Casanova, en centre-ville). – 特定の保護者、いわゆる「策士」の消費者意識を助長することになることを、私は特に恐れています。自分の買い物をし、状況を分析する時間を取らない人たちです。彼らは、「先生がうちの子を扱うときのやり方に同意していない」とか、「うちの子は、先生の学校では成績が悪い」などと言い、大急ぎで学校を変えようとします。ところが、環境、教員、同級生を変えることが生徒を不安定にすることが多いのです・・・


N. O. 定員の変化にどのように適応していますか?

C. Caillet (collège Jules-Vallès, en ZEP). – 容易なことではありません。中学校は少し不安定にされています。別の学校に行くのは優秀な生徒で、クラス内で牽引的な役割を果たし得る生徒たちです。教員も、恐らく少し不安になっているでしょう。しかし私たちは自分の仕事を続けていくしかありません。たとえ私たちに関わる状況がどのようなものになっても。私は教師たちが計画をめぐって士気が高いままでいられるように援助しなければいけません、学校に残る生徒を成功させるために・・・ 教育相が、私たちが講じられる手段を減らさない限り。


N. O. 公式には、今回の学区制緩和の目的は学校内により大きな社会的混成を導入すること、です。ヴィトリーではどうなっているでしょうか?

C. Courdès (collège Danielle-Casanova, en centre-ville). – ヴィトリーのような庶民的な自治体では、この目的には意味がありません。社会的拘留がありません。少なくとも不安を抱いている限り、豊かな家庭であればあるほど、公立校には行きません。子供たちを私立校に入学させるという、最も単純な形の特例を選びました。しかし、一般的な方法では、学校の社会学的状況は地区のそれを反映します。学校における社会的混成という問題は特に、居住環境と都市の人種隔離に関する政策に属しています・・・

C. Caillet (collège Jules-Vallès, en ZEP). – ・・・あるいはそこで、生徒を移動させなければいけないかもしれません。ヴィトリーの生徒が隣のより豊かな自治体で教育を受けられるようにし、逆もまた同じで。学校では社会的割り当てを課すこと。 (二人とも笑う。)しかしそれは、SFの中のお話です!


Propos recueillis par CAROLINE BRIZARD



出典

LE NOUVEL OBSERVATEUR 2257 7-13 FÉVRIER 2008

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2257/articles/a366044-.html

学区撤廃(緩和)がもたらす結果は、学校側の混乱と保護者のconsumérisme 消費者意識の増大でしょうか。

以前、英国の事例を取り上げた記事を引用しました(筆者は今回の聞き手と同じ CAROLINE BRIZARD)。

当時、まだこのブログのフォーマットが定まっていなかった時期で、対訳形式にしています。

楽しく(?)フランス語を フランス人が見た英国の学校選択制(1)
楽しく(?)フランス語を フランス人が見た英国の学校選択制(2)
楽しく(?)フランス語を フランス人が見た英国の学校選択制(3)
楽しく(?)フランス語を フランス人が見た英国の学校選択制(最終回)

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バカロレア「廃止論」に関して

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フランスとは直接関係なく、中学ではなく高校の話ですが、日本の東京都ではまた、奇怪な事件が起こっています。2007年7月14日の 東京都で起こっている教育に関する不気味な事件【続】職員「会議」の怪   で言及したような、職員「会議」での挙手・採決の禁止という、わけのわからない都脅威教委の通知が、今もなお生きていて、しかも学校の評価に「利用」しているとか。

村野瀬玲奈の秘書課広報室|教育行政が職員会議の挙手や採決を禁じる意義と権限は何?

発言や採決を禁止するなら、まず「会議」という呼称をやめたらいいでしょう。「会議」での採決を禁止し、違反したら厳重注意などと言う人は、まず小学校の国語からやり直していただきたい。

そもそも、日本の「校長先生」に、極端に決定権を集中させるべきなのでしょうか。アメリカの「校長」は基本的に教育学博士号を持っており、採用時から校長になるべく別コースを歩みますが、日本やフランスでは、校長は一般の教員が職歴の中で資格を取得したりしてなるもので、教員の代表者であるはずです。校長の「権威」だけを日本に持ち込むのは無理があるでしょう。アメリカの教育制度にも問題はありますが、博士号取得者は逆に就職が困難になるような低学歴社会・日本(日本の「高級官僚」は、世界でも稀に見る「低学歴」であり、大卒止まりで修士すら皆無です。外務省など「東大中退」が「大卒」よりもふんぞり返っています)と違って、上位の学位を取得した人はそれなりに優遇されます(ただし、その取得機会が能力に応じて開かれているかどうかは知りません)。明らかな違いを認識せずに表面だけ見て、(権力側にとって)都合のいいところだけ日本に持ち込もうとするのは、連中お得意のダブルスタンダードのなせる業でしょう。