とうよう師が選ぶ大衆音楽100選-9 M.M.誌創刊20周年企画’89 | 偽クレモンのブログ

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Criollo/Willie Colon<現時点(1989年現在)での断面図を見せる50枚、の5>

ようとう師は中南米カリブのダンス音楽は大好きだったが、サルサにはそれほど執心でなかった。そんな中で、サルサ界からウィリー・コロンを選定していたのは嬉しい。私も特にサルサ好きではないが、ウィリー・コロンは大好きだ。とうよう師がレビューで曰く、’サルサ界で唯一、時代をちゃんと掴んでいる人だ’。

 

ウィリー・コロンは1950年ニューヨーク出身のシンガー、ソングライター。サルサとは、ニューヨークに住むプエルトリカンやキューバンが自分たちの音を作るべく、キューバのソンをベースに米の大衆音楽の要素を取り入れて徐々に造りこみ、1970年頃に型が定着したダンス音楽。モヤモヤっとしたジャンルではなく、型がしっかりある音楽で、えてして、その型で窮屈な印象を受けることもある。が、ウィリー・コロンは軽やかに型からはみ出る本能を持っているところが、他と一線を画す由縁だ。私が中南米音楽に耳を向けた切っ掛けの人であり、サルサからはみ出て飛び出す要素があったからこそ、中南米初心者の耳をも捕えたのだろう。

 

とうよう師が選定したこのアルバムは、1984年にリリースされたが日本盤は出ていない。私の初ウィリーである’エスペシャルNo5’の前年の作だ。初めて聴く。じゃ、’核の時代’という曲を。

La Era Nuclear (youtube.com)

良い。明るい曲調で’だれかがボタンに指をかけたらそれでお終い。皆い一列に並んでギロチンに首を突っ込んでいるようなもの’と、かなり直接的に核批判をしている。とうよう師が数ある’80のウィリーのアルバムからこれを選定したのは、そんな姿勢に敬意を表しているからだ。スケベ歌謡サルサとは志の次元が違うということだ。

サウンドも、カリブのダンス音楽の伝統と現代性を実に巧みに融合している。リズムにサルサ感はなく、ほぼ2ビートの感覚だ。2ビートはカリブ黒人音楽の伝統的な基本である。サルサ特有のクラーベは感じ取れない。クラーベがあるからこそサルサだというのも判るが、先に書いたように型の虜になってしまっているのがサルサの限界では?と個人的に思っている。ちなみで、クラーベの基本パタンを下に示す。サルサファンじゃなくても、♪に合わせて手拍子を打ってもらえば、あぁこれか!とピンとくるはず。

ブラックミュージック伝統の2ビート感覚とは言え、パーカション、ホーンの豊穣なアレンジで現代性はタツプリ。ベースは頭打ち2ビートを基本としながら要所要所でシンコペートしてカッコいい。特にサビのベースは白眉だ。普通のサルサでは出てこないフィーリングだ。後半のモントゥーノ部もソンとは異なる新しい感覚で今でも新鮮。じゃ、もう1曲。

 

Noche Criolla (youtube.com)

良い。コローン流の汎サルサである。ベースパタンはサルサ特有の頭は打たずに一拍半遅れるサルサ流。だが、ところどころ破綻させさせ方が乙。途中、ベースソロまである。クラーベはアカラサマではないが、パーカション群は心に置いて叩いているかもしれん。無視しているかもしれん。

私がウィリー・コロンの水先案内でサルサを知ってから5年後くらいに、日本でプチ・サルサブームがあった。日本産サルサバンドが持て囃されて一般にも適度に知られるようになった。しかし、ウィリー・コロンのアルバム日本盤はプッツリと途絶えた(と

記憶する)。サルサっぽくない、と切り捨てられたのかな?英版wikiによると、’90も2000年代もアルバムはバンバン出していた。が、2013年を最後に途絶えている。まだご存命のようで73歳。ちょっと途絶えたのが早すぎる。