偽クレモンのブログ

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ようやくCD棚Ⅰの一列目終了。こりゃタヒんでも完了しないな・・・さ、そんなこと気にせず

Rachid Taha:マグレブの根っこをガッシリ掴んだロッカー

ラシッド・タハ(1958~2018)は、アルジェリア出身のシンガー、ソングライター。独立戦争真っただ中のオランに生まれ、10歳の時(独立後)に、両親と共に独立元のフランスに移住している。移民のナイトクラブでロック・バンドとして活動を開始し、虐げられた移民の怒りをパンク、レゲエに乗せて叫んでいたようだ。1991年にスティーブ・ヒレッジのプロデュースでソロデビュー。デビューからしばらくは、いかにも新進気鋭のアラブ・ロッカー然とした作風で、デジタルビートとアラビックなパーカッションに乗せたアラビックな歌唱がカッコ良く、日本のクラブでも重宝されていたと記憶する。しかし単なるアラブロッカーではなく、今風(’90当時)を装ってはいるが自身のルーツの根っこはしっかりと握っている印象で、私も気に入って部分的にフォローしていた。

 

さて、今回紹介するアルバムは、ラシッド・タハがナイジェリアで過ごしていた頃に周りに流れていた古の大衆音楽を、今の演奏と今の録音でブラッシュアップした意欲作、その弐だ(その壱は未入手)。この盤は本当に素晴らしく、単に子供の頃の流行歌を再現したノスタルジー等では全然片づけることができない手強い逸品だ。ラシッドが子供の頃に周りで流れていた音楽と言えば、まずは、ポップに成り下がる前の”ライ”、ライと共通点の多い”ガルビ”、ライほどストイックでなく、日常の風景を西欧の要素を取り入れたサウンドで織り成す歌謡”シャアビ”、そして”アラブの歌謡”、等々だ。それらをカバーだけでなく、自身の新曲として再現する力の入れよう。2006年にリリースされたこの盤は、個人的にはベスト・オブ・ラシッドで、2006年のワールドミュージック部門No.1だ。

DEWANⅡ

本当は全曲聴いてほしいが、そうもいかないので3曲に厳選する。まずは”ライ”。先に書いたように、ライがポップ化・多様化する前の”原ライ”の再現だ。それをカバーでなく自作新曲で再現しているのが、全くもって素晴らしい志。痺れる。じゃ、どうぞ。

Joséphine

 

はい、素晴らしい。まずは”ライ”とは?ベドウィン歌謡を源泉としたアラビア語(オラン地方方言)で歌われる音楽。元は1モードで延々と歌われトランス感を醸す類の民謡歌謡だったが、ラシッドの幼少期である’60には西欧の影響を受け、ギター、アコーディオン等の伴奏楽器が付き、市場性を獲得した。しかし良い意味でのストイックさ、トランス感は失われていない硬派なダンス音楽だったはずだ。それが’80年代になって、シンセや打ち込みを導入した”ポップライ”が登場する。別にシンセや打ち込みが悪いとは思わないが、”ライはシックでないと・・”等と下らん寝言を嘯くアーティストも出るほどに、ライの魂は失われていった。

 

それを踏まえて、この曲は実に’60の頃のライの魂を損なわず、且つ、フレッシュな演奏を良い録音で残す、という、温故知新の見本のような曲。楽器編成は、打ち込み&パーカッション、エレキベース、アコースティックギター、そして、上物として大活躍している”Gasbar oranais”という葦笛だ。ポップライのところでも触れた”打ち込み”については、打ち込み自体がダメというわけでない。要は使い道、というか、使う者の精神性の問題だ。凛とした者が使えば、ダラシナイポップスに成り下がることはないのである。くどい様だが、このストイックで硬派な古仕様のライを新曲で提示する心意気や大いに由。全てのライ・アーティストはこの精神を見習うべきであった(現状、そうなならなかったようだ)。

続きまして、市場性のあるライが生まれる前にオランで流行した、言わばライの兄弟分にあたる”ガルビ”を。これは新曲ではなく、ブラウィ・フーアリという人のカバー。

Rani

 

いや、カッコいい。ライの原型ほどストイックではなく、アラブの影響を受けた歌謡性も聴いて取れる。しかし聴衆にひよった歌謡性ではなく芯の通った硬派の歌謡だ。ストトト・ストトトと感じるリズムは、原ライと共通の”トラビ”と呼ばれるものだ。ライの兄弟分といったところだろう。楽器編成は、リズムはやはり打ち込み&パーカッションで、そこにエレキベース、アコギ、マンドーラ(マグレブのマンドリン系ギター)、ウード(アラブ、マグレブ圏の枇杷系のギター)、ネイ(葦の笛)、そして、ストリングスアンサンブル。西欧の便利でシャープな道具と、アラブ/マグレブの伝統と、アラブ的なストリングスの融合で、市場性はタツプリ。且つ、伝統の根っこはしっかり掴んで西欧にひよっていない。これぞワールドミュージック。

じゃ、最後に、より歌謡性の強い”シャアビ”の曲を。

Maydoum

 

良いよい。シャアビは、ライとは生まれが異なり、アラブ-アンダルース音楽が元で、そこにピアノ、ギター等の西洋の楽器を取り入れ、日常的な歌詞を謡い、ライが台頭する前のアルジェリアで大い流行った大いに流行って大衆歌謡だ。ライのストイックさとは違う華やかさがある。アラブ-アンダルース音楽とは、スペインのアンダルース地方がアラブに統治されていたときに生まれた文化・音楽。そこにはユダヤやトルコの文化も加わり、混血の度合いは極まって、実に豊穣なサウンドに仕上がっている。その影響は北アフリカ、スペインに留まらず、地中海全域に及んでいる。カヌーン(?)によるイントロに地中海の風を感じないだろうか?私は感じる。シャアビの全盛は’30~’40なので、その音楽性の豊さとは裏腹に、残された成果物は、どうしても音質・バランス等を脳内で補正して聴く必要があった。それを新しい演奏・感覚・録音で新しい世代が聴くことができことの意義は、とてつもなく大きい。本当に良い仕事を残してくれたラシッドに礼しっど!(ドラゴンズの助っ人レーシッチが大活躍した時の中日新聞の大見出し、「レーシッチに礼シッチ!」を真似てみたが、上手くないな)

 

ラシッド・タハは2018年に就寝中の心臓麻痺で鬼籍に入った。享年59で、年齢的にはもうちょっとやれたはずだが、晩年は寡作になっていたので体調が悪かったのかもしれない。以上。

 

台風一過で秋がやってくるかな?