SALAMAT
サラーマットは’94にアルバムデビューしたヌビア人のバンド。活動は主にカイロ。カイロにはアスワンハイダムによって故郷を追われたヌビア人が約100万人住んでいる。既に紹介済のヌビア人アーティスト、ハムザ・エル・ディンもアリ・ハッサン・クバーンも出身はスーダンとエジプトの国境付近だが、活動拠点はカイロだった。
〇NUBIANA
このアルバムは1996年にリリースされた3rd。サラーマットは固定されたメンバーのバンドではなく、リーダーのマムード・ファドルとシンガーのサルマ以外はアルバム毎に異なる、いわばカイロのヌビアン・コミュニティ・オールスターズ的な集団のようだ。当初、サラーマットはアリ・ハッサン・クバーンのバックバンドという触れ込みだったような気がして、それが切っ掛けで購入した覚えだが、今改めて解説書を読んだらそうではなかった。それはさて置いて、サラーマットはアリ・ハッサンのヌビアン・ダンスミュージックと、ハムザの抒情性と、アラブの要素をも兼ね備えた、柔軟なバンドという印象。と同時に、なんとも掴みがたいサウンドだった覚えだ。最近は聴いてなかった。まずは1曲。ヌビアの音頭調で、これがサラーマットの典型的なサウンドと思われる。
良い。アリ・ハッサンほどにファンクしていないが、まったりとした跳ねる4拍子のダンス・ミュージックに良い加減で体が温まる。この日本の音頭にも通じる感覚は、ヌビア人の出生地をはじめとして、スーダンからエチオピアにかけて特有のもので、どういう顛末でかの地にこの型が生まれたのか興味深い。興味深いだけでそちらへ踏み込んでいないが。
前にも書いたがヌビア由来の楽器は元々タールという太鼓しかなく。カイロでバンドを作ったヌビア人の多くは、西欧の楽器構成に、若干の中東地域の民俗楽器を加えてアンサンブルを成した。この曲は、おそらくヌビア民謡のメロディラインを楽器に置き換えたフレーズが主体になっていると思うが、ベースギターだけが妙にあか抜けてファンクしているのが面白い。ヴォーカルはヌビアのベテラン、セリム・シャラーウィ。。。と書いてあるが存じあげない。ベテランらしい堂に入った歌唱だ。続きまして、アルバム中一番好きな曲。
良い。なんとも不思議なサウンド。まったりと緩和しているかと思えば、なんか端々に若干の緊張感も感じる。ベースレスでアコーディオンとキーボードと12弦ギターのアンサンブル。ギターが完全に西欧仕様で面白いな、と思ったら、弾いているのはプロデューサのヒジャズ・ムスタファだった。3ムスタファズ3の創設メンバーで生粋の英国人だ。ちょっと残念。
ヴォーカルはサラーマット固定の歌姫、サルマ。素晴らしい歌唱にバックが寄り添ったりバックに徹したりの距離感が実に良いし、引き算の感覚が西欧や日本のそれとは全然違うな、と、遠い目になる。これで由とする英国人プロデューサにも一応敬意を表するか。この手の曲は他にも数曲あって、それがこのアルバムを何とも形容し難い逸品に押し上げている。じゃ、最後にもう1曲。
良い。ヌビアの民謡よりもソリッドなサウンドで、むしろマグレブ諸国を連想するストイックな曲調。メインの楽器がウードというのもそう感じる要因だが、このサウンドだからウードを持ってきたということだろう。しかしやはりヌビア特有のまったり感は隠すことができない。マグレブのアーティストが演奏する古い歌謡は緊張しかないが、この曲は緊張2:緩和8。これがサラーマットの、ヌビア人の個性だ。素晴らしいし羨ましい。
久々に聴いたが、まったりとしつつ、実に充実した良いアルバム。でも広く、特に西欧で受け入れられるのは無理だろうな。喜んでいたのは3ムスタファズのメンバーくらいなものだったろう。
サラーマットはその後どうなったのか?私のいい加減なアンテナでは、このアルバムを最後に日本では紹介されなかった気がする。今ネットでザっと調べたら、1998年のアルバムは確認できた。サラーマット自体を紹介する記事は見つけられなかった。

