そういえば書いていないことで思いだしたことがある。

話が前後してしまうんだけれど…。



高校3年になってから、私はクラスに馴染めないままだった。

仲の良い友達はみんな離れてしまい、クラスで唯一仲良くしてくれた友達は中退してしまうなどで結果的に一匹狼のような立場になっていた。


クラスの人たちとは一応話はするけども、つるんだり群れたりすることもなく一定の距離を保っていた。

辛くはなかったが楽しくはない。

お昼休みに仲の良い友達のクラスに遊びに行ってはしゃいではいたけれど、馴染めないクラスで過ごさなくてはいないのは億劫だった。


そんな毎日を過ごしているうちに、知らず知らずのうちにストレスが溜まって体に現れるようになってしまった。


学校を終わる頃、毎日のように39度の熱を出す。

大抵は一晩で治る事が多かったが、一か月に一度は一週間起きられないくらいに寝込んでしまっていた。

もちろん医者にも行ったけれど診断はいつも【原因不明】。

保健室は常連として扱われていた。



そんな私の状況を知っていながら龍はいつも私を笑っていた。


龍「お前、また倒れてるのかよ!?本当に弱っちいなビックリマーク(笑)」


こんな言葉を幾度となく投げつけられる。

少しは心配してほしいものだけれど、そんなこと龍に期待したところで無駄手

倒れている私を無理やり連れ出したことさえある。

自分の欲望のままに…。



ある日、私はいつものように39度の熱を出していた。

この体のだるさと熱っぽさは間違いなく39度汗

悲しいくらい計らなくても分かってしまう。


学校が終わり、さぁ帰ろうと思ったところで携帯が鳴る。



龍「俺」


私「分かってるよ、何?」


喋るのも億劫だ。早く帰って早く横になりたい。

電話に出なければいいのだが出なければ後で龍はうるさい。

自分は連絡しても出ない時なんてザラなのに、私が出ないと怒りだして責める責める…。

それも嫌なので龍からの電話は無視できないのだ。



龍「今からこいよ」


私「熱があるの。だから今日は勘弁してよ」


龍「来いって言ってるだろ」



どうやら龍はご機嫌斜めらしい。


放課後はこれまた毎日のように龍の住む街へと呼び出されていた。

(当時電車で1時間かかる街に住んでいた)

毎日のようにとは言っても龍から連絡がある日だけ。

連日呼びだされる時もあれば、3日連絡が来ない時だってある。



私「39度の熱があるの。無理だって…」


龍「うるせぇな、来いって言ってるだろ!?



・・・・・・汗こうなったらどうしようもない。

熱でクラクラする頭を抱えながら、返事をして電話を切った。

選択肢は一つしかないんだ。


それから友達に心配されながら電車に乗り込み、龍のいる街へと向かった。

座席ではぐったりと背もたれに寄りかかり、到着するまで目を閉じてやり過ごす。

熱のせいで思考回路が遮断されてしまっている。普段であれば怒りの感情が湧いてくるはずなのに…。

でもこれはこれで楽かもしれない。



龍の住んでいるアパートまでは駅から徒歩で20分。フラフラと千鳥足でアパートへ向かった。

当り前のように龍は駅まで迎えになんてこない。来るはずがない。

機嫌がいい時しか動こうとしない人なんだから。


途中、歩くのも辛くなって道端に座り込んだ。

こんな風になるのは初めてかもしれない…。

龍の携帯に電話をした。



私「もしもし、あのね、すぐそばまで来たんだけど、ちょっと歩くの辛くて…」


龍「そう」


私「休んでから行くね」


龍「わかった」



それだけで電話を切られてしまった。

涙が出る。なんでこんなに頑張ってるんだろ…。

ここでこうしていても龍は迎えになんてこない。分かっているけど一言心配の言葉が欲しかった。

「迎えに来てほしい」と言えばいいのかもしれないけれど、拒絶されることを考えるとそれは言い出すことができなかった。

期待できないと思っていても期待してしまう…そんな自分が悲しくて悔しかった。


膝を抱え込んでいると、一人のお婆ちゃんが声をかけてくれた。



お婆ちゃん「あなた…大丈夫??救急車呼ぼうか??」


私「大丈夫です…すいません、ありがとうございます」



救急車の言葉に反応して私は出来る限りの笑顔で答えた。

救急車なんて呼ばれたら、親に私がここにいることがバレテしまうじゃないか。

親は私達の付き合いに反対しているんだから、こんなことがバレたら二度と龍に会うなと怒られてしまう…。


もう少し休んでいたかったけれど仕方がない。

私はダルイ体を無理やり起こして立ち上がった。


お婆ちゃんは心配そうにしてくれたが、私が再び歩き出すとどこかに歩いて行ってしまった。

申し訳ない気持ちがしたけれど、とにかく今は龍の所に行かなければ…。

私は重い足を引きずるようにしてアパートまで急いだ。

ペタしてね

柵に登った私はバランスを取るために隣のベランダとの間に立ててある壁に手をついた。


下を見ることはしたくなかった。

恐怖で足がすくんでしまうかもしれないから。


強い風が吹いていないのが幸いかもしれない。

狭い柵の上をじりじりと隣のビルに向かって足を進める。

制服のスカートがひらひらと邪魔だ。


龍はそんな姿の私を心配そうに見ている。

というか、見ているだけだし…ううっ...なんで私がこんなことしなきゃいけないんだろう…。


私は隣のベランダに入らないように柵だけをつたった。

不法侵入をするのは嫌だったので苦肉の策だガーン

隣人が留守だったのは不幸中の幸いというところかもしれない汗

本当にすいません…ダウン


隣のビルに手がついたのは思ったよりも早く、時間にすれば5分くらいなものだった。

だけど実際に感じた時間はもっとずっと長く感じた。

安堵感でため息が出る。



龍「ハル、気をつけてな」



身を乗り出してこっちを見ていた龍は、私がビルに辿り着いたのを見届けると、そう言って部屋へ入って行った。

私はそのまま隣のビルへ乗り移り、ビルの裏側へと歩いた。

少しでも人目の着かない所へいかないと、誰かに通報でもされてしまったらたまらないからだ。


奥へ進むとさっきまでいた部屋の玄関先が見えた。

そこには少し大柄の男性と、細身の綺麗な女性が立っている。



ドンドンドンドンドンッ!!


???「おいっ!!開けろよっ!!


男性はまだ玄関のドアを叩いて大声を出している。

龍はまだ何のアクションも出していないようだ。


男性の顔は見えなかったが見たことのない人だということは分かった。


しばらくぼーっとその様子を眺めていると、そのうちに女性の方が私に気付いた。

女性は驚いた顔をして男性の肩を叩いている。


それはそうだ。

マンションの屋上で更にフェンスよりも外側にいる女子高生を見たら誰だってビックリする汗

自殺だと間違われても仕方がないだろう。


男性がこちらを見る前に私は走ってマンションの裏側に行き、フェンスを登ってマンションの非常階段を駆け降りた。

見つかりたくはないし、関わりたくもない。

龍のことは心配だけど、これ以上迷惑をかけられるのは嫌で仕方がなかった。



そのまま駅まで振り向かずに走る。

とてもイライラするむかっ

勝手に連れてこられてあんな危ない目にあわされて…なにやってるんだろうしょぼん


電車に乗り込んで学校へ着いても気持ちは晴れない。

結局3時間目には間に合ったけれど、1・2時間目をサボってしまった。

朝から嫌な気分だ。



学校が終わっても龍から連絡はなかった。

私から連絡をしても返事はない。


あれからどうなったのかも分からないが、きっと龍のことだからいろいろ言い訳をして難を逃れたに違いない。

口だけは達者な男だからムムム

一度くらい痛い目あったらいいのに…。


そんなことを思いながらも心配な気持ちには勝てない。

ほとほと自分に呆れてしまう。

嫌いになれれば楽なんだけどな…なんて、どこかの歌の歌詞みたいなことをよく考えた。

何かにがんじがらめにされているように龍から気持ちが離れない。

自分が一番分からないのかも…ううっ...



それから龍から連絡が来たのは夜中になってからだった。

ペタしてね

ピンポーン…



静かな部屋にまたチャイムが響く。

私は龍をずっと見つめていたが、張りつめた空気に身動きが取れずにいた。


こんな表情の龍なんて見たことがない。

龍は私の前ではいつだってヘラヘラしていて、機嫌の悪い時はムスッとしているけれど、こんなに怯えるような焦りのような表情を見せたことなんてなかった。


それを見て考えられることは…同居人が帰ってきてしまったということ。


同居人が誰なのか、どんな人なのか、聞いてもどうせ分からないだろうから今までも聞かなかったけれど、多分龍の上司的な立場な人で、この焦り方を見ると相当ヤバい人なんだと予想できる。



龍「静かに…」



龍は私に駈け寄ると、耳元で小さくそう言った後にキョロキョロと部屋を見回した。

どうやら隠れる場所を咲かしているようだ。


しかしこの1Kの部屋に隠れる場所なんてものはない。

一時的に隠れることができたところで見つかるのは時間の問題だ。



ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン…


ドンドンドンドンドンッ!!ビックリ


???「おいっビックリマークいるんだろ!?開けろっ!!むかっ


その声にビクッと体が震えた。

ドアを叩く音は大きくて激しいもので、顔も知らない人の怒りの感情が露わになっている。

どうやらいよいよヤバそうだ…。



龍「ハル、こっち」



龍は私を窓際に連れて行くと、音を立てないようにスルスルと窓を開けた。



龍「ハル、ここから外へ出ろ」


私「ここから…って、ここ4階だよ!?」


龍「このベランダの柵をつたって隣のビルの屋上へ移れ」


私「この柵を…?無理だよ!!」


龍「時間がない!行け!」



龍が言う通り隣のビルの屋上は今いる階と同じ高さでビル幅もそんなにはない。

ベランダをつたって行けば行けなくもないが…ベランダの柵をつたるなんて…。


さらにここはマンションのど真ん中の部屋。

行くとすれば隣人のベランダもお邪魔しないといけない。

そんなの…不法侵入じゃないか叫び!!



ドンドンドンドンドンッ!!ビックリ


???「開けろっ!!おいっ!!聞いてるんだろ!!むかっ


ドアの向こうでは男性の怒りが更にヒートアップしたらしく声を張り上げている。

これは考えている暇なんてないかもしれない…。



龍「大丈夫、ハルならやれるよ」



…な・に・が大丈夫なんだむかっ

4階のベランダから落ちてコンクリートに叩きつけられたらただじゃ済まないのにガクブル

でもここから出なければそっちだって十分ヤバいかもしれない。

そして私の学校も行けなくなるかもしれない叫び


しばらく考えた後、私は意を決してベランダの柵に登った。

ペタしてね