次に目が覚めたのは夕方だった。

とはいっても、窓がない為外が明るいのか暗いのかよく分からない。


電気の消えた真っ暗な部屋の中で自分の携帯電話をたぐり寄せ、龍を起さないように時間を確かめる。

お昼頃から寝ていたので睡眠時間としては十分な時間だ。



心配していた親からの連絡もない。

これは本当に意外だったが、うちは共働きなのでまだ仕事中なのだろうと納得できた。


携帯を閉じて小さくため息をつく。

勢いで龍の所に来たはいいものの、今までちゃんと話をしていないままこうしてきてしまった。

この後ちゃんと話ができるだろうか…。

またいつものように流されてしまうんじゃないか…。


意志の弱い自分のことだ、龍に言いくるめられてもおかしくはない。

ただ別れるにしても別れないにしても、ちゃんと話をすることに意味がある。

龍が起きたら話をしよう…。



頭の中で決心を固めていると、龍がまだ眠そうに起きだした。



龍「おはよ」


私「おはよ」


龍「親から連絡あった?」


私「ううん、ない。たぶんこれからだと思う」



ふーん…と一人で納得した龍はあくびをしながらシャワーを浴びに行ってしまった。

なんとも呑気な男だガーン


残された私はおもむろにテレビをつける。

別に何か番組を見たかったわけでもないが、やることもなくて静かな部屋に音が欲しかった。

ボウっとしながらテレビに映し出された映像を見ていると、龍がシャワーからあがって出てきた。


続いて私がシャワーを浴びに入る。

私も呑気な女だガーン



シャワーからあがると龍はベッドに腰掛けて、私がつけたままのテレビを眺めていた。

一通り身支度を整えて龍の横に座る。


龍はテレビから目線を外さなかった。

テレビには面白おかしい芸人さん達が映っているのに、笑いもせずに目を向けている。

きっと真剣に見ているわけでもないのだろう。

龍自身もどうしたらいいのか、何を(何から)話したらいいのか分からないのかもしれない。


私『今話さないと…』


さっき決心した私はどこへやら…。

必死で自分を奮い立たせてみるけども、緊張感が増すだけで一向に言葉が出てこない。


「ちゃんと話をしよう」


それを言い出せればきっと何らかの流れはつくはずだ。

その為に来たのだから。


落ちつく為に深い深呼吸をしてみる。

こんなことをしても落ちつくなんてことはないが、勢いにはなってくれるだろう。


吸った空気を静かに吐き出すと、龍の横顔を見つめて話を切り出した。



私「龍、あのね…わたし…」


ピリリリリ携帯

ピリリリリ携帯


言葉を遮るように私の携帯電話が鳴った。

私も龍もその携帯電話に目を奪われ、しばらく動けなくなっていた。

ペタしてね

部屋に入った私達は何をするわけでもなくベッドに潜り込んで眠りについた。

まさしく龍の言っていた「寝るだけ」を実行したのだ。


昨夜からの私達の睡眠時間は明らかに足りず(推定3~4時間)、昨夜興奮状態でいた私も流石に限界だった。


ホテルは通常フリータイムがある。
平日は長い所で昼から夜までいられる所もある。
料金も通常料金より確実にお得だし、食事も頼めるし、お風呂も綺麗でベッドも大きい。
行き先のない私達(寝不足)にはもってこいの場所だ。


しかし場所が場所だけに一瞬、龍が求めてきたらどうしようと頭をかすめたが、龍は意外にも大人しく眠りについた。

私と同じように寝不足なのと、普段仕事が夜勤なこともあって昼夜逆転の時差ぼけみたいなことになっているのだろう。

万年発情期の龍でも限界はあるらしい。

経験から拒絶不可なのは理解しているので腹をくくっていたのだけど、どうやら取り越し苦労だったようだ。

あまりに意外で驚いたが(普段が異常なもので…)安堵感はそのぶん大きかった。


こういうところで自分が龍のことを信用していないことがハッキリ分かる。

別にソレに対して落ち込んだり悩んだりはしなかった。
今までされたことを思えば、逆に龍の何をどこを信用できるというのだろう。


じゃぁ何で一緒にいるのか、一緒にいたいと今現在足掻いているのか。

自分で何度も考えてみるが答えはいつも曖昧だった。

一つ上げるとすれば、やっぱり「好き」なのだ。
思い出や色んな感情はあるけども、まとめてみれば「好き」だから一緒にいたい。

どんなに嘘つきで最低な人だとしても。


信用がなくても一緒にいたいと思えるのならそれでいい。

嫌いな人とはいたくないけれど、好きなのだから諦めたくない。

それが曖昧の中から無理矢理捻り出した私なりの結論だった。



ベッドに潜り込んでからゴロゴロと落ち着きがなかった私だったが、龍が私の体に絡み付くような形で眠り始めた為、ようやく瞼を閉じた。

龍はいつも私と眠る時はぴったりくっついて眠るのだ。
いつものことなのだが、今回別れ話をした相手(私)にするのはどうかと思う…。

などと考えてはいたけども、私的には嬉しくて暖かい気持ちで眠りに落ちた。
ペタしてね

目が覚めたのは朝の9時頃だった。


寝たんだか寝てないんだか分からない。


朝の光が目にしみるし、変な気持ち悪さがあって頭がクラクラする。




いつもと違う天井を見て、昨夜の出来事を思い出した。


隣ではまだ龍は寝息を立てている。


別れ話をしに来たのに何とも呑気なものだ。




とりあえず体を起して携帯電話の電源を切った。


夜中に家を抜け出して学校をサボろうとしている私に電話がかかってくるのは時間の問題だ。


怒られることぐらい覚悟はしているが、今は邪魔されたくはない。




そうしているうちに龍が目を覚ました。




私「おはよ」




龍「…おはよ」




しばらくボーッとしていた龍だが、急にハッと気付いて身支度を始めた。




龍「同居人が帰ってくるから出るぞ」




バタバタと荷物をかき集めてアパートを出た。


どうやら私がいては不都合らしい。
友人の家に勝手に上がらせてもらったのだから仕方ないのだろう。

しかしどこへ向かうのか相談などまったくしていない。


お金もないし、朝に開いているお店は限られている。


それに、これからいつまで一緒にいるのかも分からない。




私達は何も話さないまま歩き始めた。




龍は私に歩幅を合わせながら前を歩く。


何を考えているのか分からない…。




私は着いて行くしかない。


龍が最初に入った場所は駅前のマックだった。


まずは腹ごしらえということだろう。




そこでも何も話さなかった。


話をしたくても龍のムスッとした顔を見ていると怖くて何も言えない。


押しかけてしまったこともあって私から強く言うことができなかった。






そうこうしているうちに時間は11時を回った。



きっと今頃親は必死に私と連絡を取ろうとしているだろう。

罪悪感が襲ってきたが、なんとかそれをはね除ける。
今はそれより大事なことがあるんだ…。


再び歩きだした龍の後を追いかけると、ある建物の前で足が止まった。


住宅街にあるソレは一見オシャレなデザイナーズマンションに見える。

だが看板にでかでかと書かれた文字が住宅街にそぐわない建物だと主張していた。


龍はなぜ私をそこに連れてきたのか理解できなかった。
しかも今、こんな時に。


足を止めて呆然としている私を龍は早く来いと急かした。

龍「寝るだけだよ」


寝るだけ…。
そんなことの為にここにきたの?
話し合いは?

言葉にならない言葉が喉元で渦巻いている。


私から話し出せば龍は応じてくれるかもしれない…。
でも別れを告げられるのはやっぱり怖い。

早く終わらせたい気持ちと、少しでも一緒にいたい気持ちが戦っている。



頭の中を整理できないまま、龍に言われるがままに入り口の自動ドアに滑り込んだ。
ペタしてね