33.(6)a grandfather clockとは




昭和45年(1970年)頃のことであるが、私の知人で親しかった天野一夫先生(東京外国語大学、東北大学卒、千葉大学教授、故人)は、“a grandfather clock”を「おじいさんの時計」と訳されていたことがあり、これに対し、では “grandfather's clock” とどう違うのかと指摘されて立ち往生してしまったという一件があり、英語教育界の一部でちょっとした話題になったのであった。そもそも、、“a grandfather clock”とはどういうものなのか、今ではあまり見かけなくなっているようであるが、私は何回か見かけたことがある。どういう場所でか、2、3挙げてみる。





私は小学校の低学年の頃、冬は風邪をこじらせるとすぐ扁桃腺(へんとうせん)が腫れて苦しんだので、市ヶ谷駅近くの外科に連れて行かれ、除去してしまったのであるが、この立派な病院の正面入口を入った所に、背の高い木のケースの中で長い振り子が揺れている時計があった。今考えるとあれが、“a grandfather clock”であったのである。





大学生時代、私は御茶ノ水駅すぐ近くの眼科に家庭教師に行っていた。この眼科は皇室の侍医でもあって、その家の孫の男の子に英語を教えていたが、この家庭の応接間に“a grandfather clock”があって時を刻んでいたのであった。





33.(5)bathroomはトイレのことである


日本の個人の住宅では、よほどモダンな家なりマンションでもない限り、トイレと浴室は隣り合わせになっていても、同じ屋内に設置されているわけではない。しかし米国や英国、カナダ、オーストラリアなどでは浴室の中にトイレがあるのが普通である。だから bathroom も「浴室」とか「風呂場」と訳しただけでは不十分である。これに関わる興味深い誤解例を二つ紹介しておきたい。


私は30代の中頃、東京の神田にある東京電機大学大学院で言語工学を教えていたことがあった。その頃ちょうど米国のテキサス大学言語工学センターから助教授Bates Hoffer氏が大使を連れて東京に私と共同研究のため滞日するために来たので、電気大の電子工学科主任教授の中野道夫先生のお宅(世田谷区成城)で歓迎パーティーをして下さった。私ももちろんご一緒したのである。

しばらくすると、助教授夫人が中野夫人に何かささやいていた。中野夫人は、“I'll show you there. Follow me.”と言って、二人はリビングルームを出て行ったが、中野夫人は私のところに来て、「小笠原さん、何だか変なのよ。Hoffer夫人が bathroom はどこかって言うので連れて行ったら、“No, No”と言うのよ」と言うのである。私は、トイレのことを bathroom と言うんです、と教えたので一件落着となったのである。


もう一つの例は、新宿の大通りにある紀伊国屋書店の洋書部(4階)に私が買いに言った時であった。外国人の客が店員に、“Could you tell me where the bathroom is?” と訊いているのが聞こえたのである。次の瞬間、店員バッジをつけた店員が、“I'm sorry. We have no bathroom.”と言い、外国人が当惑顔を見せたのである。私は差し出がましかったが、思い切って、「店員さん、 bathroomって、トイレのことですよ」と教えたら、その店員は、「えっ、そうなのですか?ちっとも知らなかった。ありがとうございました」と苦笑いをしたのであった。私も家庭用語である bathroom を公共の建物の中で使っているのを知って、参考になったのである。


その後しばらくして、東京駅八重洲口側通路を歩いていたら、外国人旅行者が、“Excuse me. Where is the bathroom?”と訊かれたのであった。



(3)廊下に当たる英語は?


私の記憶をたどってみても、旧制中学校、旧制高校、大学で私が受けた英語の授業で「廊下」に当たる英単語が出てきたことはなかったように思う。建物の中の rooms の名称などは何回も出てきたのであったが、卒業後何かの機会に corridor という語に出会って、「廊下=corridor」という等式が私の頭の中に出来上がってしまったのである。

「廊下」のことを hall や hallway とも言う。いや、日常語ではこの方がより頻繁に使われていることを体験したのは、戦後数年都内に駐留していた米軍の関連施設や、米国時宣教師宅のバイブル・クラスに出席した時などであった。

front doorを入ったところが、いきなり living room である家もあるが、多くはそこがちょっとした板の間になっていて、そこがいわゆる entrance hall で、それが少し狭く細長くなって奥の間なり2階への会談へとつながっていくのである。

後に corridor と hall(way)との意味用法上の違いについてネイティブスピーカーに訊いてみたところ、 corridor は公共の建物の中の広くて長い廊下のことを指し、hall(way) は家庭の中や寄宿舎やホテルなどの廊下を指すことが多い、と言われた。

日本語では、「ホール」と言うと、「朝日ホール」「日経ホール」「草月会館ホール」「ダンスホール」など、大広間や講堂、広い催事場のイメージがある。


[付] go down the hall


これは本稿の後の回で正式に取り上げるつもりであるが、日常非常によく使われているにもかかわらず、私の教えていた大学の多くの学生たちは、意味が取れずにいたのである。

「(この)廊下をずっと行く」ということである。



(4)show you around in my house


米国で何回かホーム・ステイしたことがあるが、その家に着くと、ホスト役のご主人かホステス役の夫人が、“Here we are. Let me show you around in the house.” と言って家の中を一通り案内してまわるのである。中には、“Now, you will have a guided tour in the house.”とユーモラスに言う人もいる。