(2)living room


この頃は新聞に挟みこまれている多様な広告の中の不動産関係のものに、建て売り住宅のものが目につく。そういう広告の中には、住宅の間取りが示されていて、その中心に「リビング」と書かれているものがある。これは日本人の好きな省略形であって、英語でなら living room と示すところである。

living roomに関して、私には面白い体験がある。それをここで紹介してみたい。

私が初めて英国を訪れたのは、確か昭和48年(1973年)の8月のことであり、ロンドン南部郊外のCroydonというところであった。そこの the Carrington family 宅にホームステイしたのである。

UNESCOから旅費、宿泊費、研究費が支給されていた関係で、まずパリに行き、その後イタリアを覗いて(ローマ、フィレンツェ、ピサ、ミラノ)、イタリアから英国ロンドン郊外の Gatwick Airportに着き、迎えてくれたキャリングトン夫人の自動車でお宅にチェックインしたわけで、夕方になっていたので、早速 welcome dinner であった。 今でも憶えているのは、生まれて初めて鹿のスープ、鹿肉のステーキを頂いたことであった。食後のアイスクリームを食べた後、コーヒーが入って、ホステス役の Mrs. Carrington が切り出したのである。


C: Now, our dinner is over. Let's move into our front room and get relaxed. We can atch TV there..

O: That's a good idea. Let's move.

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O: It's a nice room. You said, “front room.” I have been to the United States and stayed with local American families a couple of times. You call this the front room. I find your front room is the same as the living room in the United States. So I've got a usage question.

You call this room a front room. Is there any other name?

C: Yes. We also call it a parlour.

O: Don't you call it a living room?

C: Oh, that is the word used among the working class people.

O: What about a sitting room?

C: The upper class or upper middle class people use the word “a sitting room.”


このようなわけで、滞在第一日の夜から、早くも私は英国の伝統文化の一つである階層社会とその関連の言語表現というか語彙の用法について体験できたのであった。

と同時に、米国人たちは英国の労働社階層の語であるliving room を日常使っていることが分かり、 新大陸である北米大陸に、階層社会で窒息しそうな英国の底辺階層から脱出するために、新大陸に移住した英国人のことが思い出されたのである。



(1)slippers


「スリッパ」というものは、もちろん英米から渡来したものであるが、私の教えた大学生たち(帰国生を除いて)に、「欧米の普通の家では、スリッパ(slippers)が置いてあるとすれば、家の中のどこにあるか、と訊いてみると、その答えがふるっている。「玄関のドア(front door)をあけて入ったところにそろえておいてあるのではないですか?」と言うのである。これはまさに日本の家の玄関の状況のことである。

その時の学生と私とのやり取りを再現してみる。


O:なぜ玄関のドアを入ったところに置いてあると思うのですか?」

S:外から帰って来て、まず靴を脱いで。スリッパに履き替えるのでしょう。

O:欧米の人は、帰宅したら、多くの家庭では靴のままいえにあがるでしょう。この「家の中にあがる」とくのも日本的で、欧米では、玄関の内部に段差などないし、front doorの底辺と同じレベルで、そこから板の間なり、carpetが敷かれていますから、「あがる」感じは無いでしょう。

S:そうでしたね。では、靴はどこで脱ぐのでしょう?

O:自分の個室(bedroom)まで行って、そこで脱いで、スリッパに履き替えるか、あるいは一日中履きっぱなしの人もいます。またこのごろは、家を裸足で動き回っている人もいます。とにかく、slippers は bedroom との連想があるようです。



32.「うさぎ小屋」に住んでいる?


戦後、あの愚かな大戦で打ちのめされた日本とドイツは、国民が勤勉な性格であったことや、科学技術立国として復興しようとして、それをやり遂げたということもあって、戦勝国であった国々から驚きの目をもって見られていたのであった。そこにはまたやっかみの感情もあって、何かと皮肉られもした。

その中で、ヨーロッパのある国(フランスあたり?)の見識者が「日本人はエコノミックアニマルになってしまって稼ぎまくっている、金を貯め込んでいる一方で『うさぎ小屋』のようなところに住んでいる」とコメントしたことが、当時報道された物である。そしてこれには後日談もあって、当時の大蔵省当局が、フランスや英国あたりの民家の平均的広さを調べ、また日本の家の平均的な広さと比べて、その差は大きいものではない、「うさぎ小屋」と呼ばわりされるのは心外だ、と発表したりしたものである。

この騒動のおかげ(?)で、私のことだから、そもそも「うさぎ小屋」というのは英語でどう表しているのか、まず知りたく思ったのである。数人の英国人の友人、知人に訊いてみると、rabbit hutchesと呼んでいるとのこと、rabbit houseとかrabiit hutとは言わないことが分かったのである。


そこで私は、なぜhutchesと普通は複数形で表しているのかと訊くと同時に、「うさぎ小屋」の絵を描いてみて欲しい、と白い紙一枚と鉛筆をわたしてみたところ、概略次のような絵を描いてくれたのである。

これをあえて言えば、日本の学校の出入口にある生徒の靴置き場に似た形の棚状の箱で、数十という各々の箱の中に「うさぎ」が一匹ずつ入れて飼育されているのである。


日本人の多くは(一部の農家は別として)うさぎを飼うという時、それは小さな篭か金網の檻の中に1匹なり2、3匹飼っている。しかもペットとしてであって、食用とか毛皮を取るためではない。私が1973年頃初めてフランスにUNESCO関係のことで訪れた時、街の肉屋の店頭にも、毛皮を剥いだピンク色をしたうさぎが数匹ぶら下がっていたもので、フランス人はうさぎ肉を食べ、またうさぎの毛皮(ラパン、lapin)のコートを着る人がいることを知ったものである。