(今回も、私小山田の感じたことを雑多に綴っていきます)


49.there構文にtheや固有名詞が来る場合

前回there構文について書きました。繰り返しになりますが、通常は以下のように、単数複数に関わらず「新情報」の存在を表わすシグナルとして使用されます。

a.There is a book on the desk.
b.There are three books on the desk.
c.*There is the book on the desk.

一方、存在文でも旧情報が文頭に来る場合は、there構文は使用しません。

d.*A book is on the desk.
e.*Three books are on the desk.
f.The book is on the desk.

ただし、久野&高見(2004)によると、

g.The book is there, on the table.

の倒置形として、次の文は可能です。

h.There is the book, on the table.
(ほら、そこにその本があるよ、そのテーブルの上にね)

というように、「そこに」の意味で使用される場合です(onの前のカンマは無くても可)。
また、同書には次の対話例も掲載されています(p157)。

Speaker A: I'm hungry. Is there anything to eat?
Speaker B: Well, there's the leftover apple pie from last night.

この場合、the left over apple pieは「残り物のアップルパイ」で、話者Aが考えていなかった、いわば新情報として提示する場合には定冠詞を伴う名詞をthere構文で使用可能です。

固有名詞でも、次のような対話では可能です(大西、2011:110)。

A: I can't think of anyone to take Anna's place(代わりができる人), can you?
B: Ah! There's Heather!

へザーと言う人物のことがAの念頭に全くなかったという点で、固有名詞であっても新情報の名詞としてthere構文で使用可能です。

このように、there構文は、定冠詞や固有名詞が来る場合もあり、特に会話などで聞き手が未知の情報だと確信している話者の発言に多いと言えます。


参考:
久野暲、高見健一 (2004)『謎解きの英文法 冠詞と名詞』くろしお出版.
大西泰斗、ポール・マクベイ(2011)『一億人の英文法-すべての日本人に贈る「話すため」の英文法』ナガセ.
(今回も、私小山田の感じたことを雑多に綴っていきます)



48.there構文とは

前回、be動詞が「何らかの場に存在する」、つまり、be動詞は「いる」「ある」という根本の意味があることを述べました。

そこで、「いる」「ある」と言えば、there構文が思い出されます。

a.There is a book on the desk.

「このthereは何だろう」と考えいたことのある学習者も多いはずです。thereには、「そこに」という意味もあり、次のような文もありえます。

b.There is a book there.

ところが、次の文は非文とされます。

c.*There is the book on the desk.

日本語では、

a1.一冊の本が机の上にあります。
b1.その本が机の上にあります。

のように言うことは可能です。
さらに、次のような違いがあります。

d.There is a book on the desk.(=a)
e.*A book is on the desk.
f.*There is the book on the desk.(=c)
g.The book is on the desk.

以上の4文からわかることは、次の4つです。
(1)「there+be動詞」に続いているのは、「不定冠詞a+名詞」
(2)「there+be動詞」に、「定冠詞the+名詞」は続けられない
(3)文頭に主語として「不定冠詞a+名詞」を置くことは出来ない
(4)文頭に主語として「定冠詞the+名詞」は置けない

これはなぜかというと、文の流れには「旧情報から新情報へ」という原則があるからです(久野、1978)。概略、「旧情報」とは既に先行する文脈や場面でわかることで、「新情報」は初めて出て来た話題です。

eのように、定義文(注1)でもない限り新情報から始まると唐突なので、dのようにthereを冒頭に置くことで、「これから新しい情報(話題)を話します」というシグナルになります。
一方、fのように既に分かっている旧情報の文でthereに使うのは、特殊な場合を除いてありません(注2)。gのように主語として通常の文を作ればいいのです。


注1:定義文とは、「A pen is an instrument for writing or drawing with ink.(ペンとは、インクを使って文字を書いたり絵をかく道具である)」というように、「~とは」という説明文。

注2: There was the tallest student in my classroom at the party last night.(昨夜のパーティーに私のクラスで一番背の高い学生が来ていました)のように、最上級でのtheがついた名詞でも文脈から予測出来ずに新情報となる場合など、there構文でもtheが使用出来る場合もある(久野&高見、2004)。


参考:
久野暲(1978)『談話の文法』大修館書店.
久野暲、高見健一 (2004)『謎解きの英文法 冠詞と名詞』くろしお出版.

(小笠原先生からの新しい原稿をまだ頂いていませんので、私小山田自身が感じた内容を雑多に書き綴っていきます)


47.be動詞とは

次のような文法上の間違い(error)(注)を含んだ英作文をする学生がいます。

a. *I am play baseball.
b. *He is like(s) soccer.
(*は、文法的にはない非文)

「be動詞と一般動詞は、ing形やed形以外と一緒に使えない」という規則が身についていないからですが、なぜそのような間違いをするのか疑問でした。ある日、そこそこの英語力がある学生からこのような質問を受けて、その謎が解けました。

「be動詞って、「~です」「~ます」という意味ではないんですか?」

確かに言われてみれば、次のように英語と日本語の各1語1語が対応しています。

c.This is a book.(これは本です)
this→これは, is→です, a book→「(1冊の)本」

そう考えてみると、例文aとbも、次のような日本語から英訳したと考えられます。

a1.私は野球をし「ます」
b1.彼はサッカーが好き「です」

そこで、その学生にも言いましたが、be動詞は本来「存在」を表わすものだということを理解していなかったようですし、間違いをする多くの学習者はそれに気付いていないと思います。
be動詞を含む最も基本的な文は、次のようなものでしょう。

d.I am here.
e.He is happy.
f.They are running.
g.The window is broken.

この4文では、特にdの「私はここにいる」の「いる」という意味こそが、be動詞の「コア」の意味(根本的な意味)となります。つまり、「A be B」というのは、AがBという「場」に存在している、ということで、この「」は物理的な場所に限らず、eのように「心の状態という場」に「いる」というように意味が広がっていきます。
また、fのように進行形やgのように受身で使用されるbeでも同様で、fの場合は「走っているという躍動感のある場」に「いる」ことになるし、gの場合は「壊されたという状態の場」に「ある」ことになります。また、be動詞によって現在か過去かがわかります(佐藤&田中、2009)。

このようなbe動詞の根本的な意味を知っておけば、be動詞と一般動詞をingもedもつけずに並べることを避けられるのではないかと考えられます。


(注)error(誤り、誤用、誤答)は、体にしみついている間違いで、正しい知識を身につけていない場合が多い。一方、mistake(うっかりした間違い)は、正しい知識は見についているが、話したり書いたりする時に、うっかりミスをすること。


参考:佐藤芳明、田中茂範(2009)『レキシカル・グラマーへの招待―新しい教育英文法の可能性』開拓社.