ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』 | 文学どうでしょう

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吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)/東京創元社

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ブラム・ストーカー(平井呈一訳)『吸血鬼ドラキュラ』(創元推理文庫)を読みました。

吸血鬼と言えばドラキュラ、そしてドラキュラと言えば吸血鬼ですよね。

よく混同されることも多いのですが、吸血鬼=ドラキュラではありません。吸血鬼=ヴァンパイアで、ドラキュラというのは、個人名です。

吸血鬼自体は、元々数々の伝説があり、そうした伝説を元にした先行作品もあります。しかし、吸血鬼のイメージを決定づけたのは、何と言っても今回紹介する『吸血鬼ドラキュラ』でしょう。

鏡に映らず、血を欲し、太陽の光とにんにく、十字架を苦手とするドラキュラ伯爵。ヴァン・ヘルシングとその仲間たちは、恐るべきドラキュラ伯爵に戦いを挑んでいき・・・。

『吸血鬼ドラキュラ』は何度も映画化され、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』に登場する怪物と並んで、有名な怪物になりました。

もしも『吸血鬼ドラキュラ』の映画化作品が観たいと思うなら、ぼくはフランシス・フォード・コッポラ監督の『ドラキュラ』をおすすめします。

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まず何と言っても、とにかくキャストが豪華なこと。ドラキュラ伯爵を演じる、ゲイリー・オールドマンの他、キアヌ・リーヴス、ウィノナ・ライダー、アンソニー・ホプキンスとすごい顔ぶれです。

原作にはない恋愛の要素が少し入っていて、多少設定は違うんですが、原作にかなり忠実に作られている映画だと思います。

原作の大きな特徴として、色んな人物の手紙や手記からなっていることがあるんですが、そうした「誰かが書いている」ということまでしっかり描いている映画でした。

あとはですね、『吸血鬼ドラキュラ』の設定を大胆にアレンジした映画に、ヒュー・ジャックマン主演のアクション映画『ヴァン・ヘルシング』があります。

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原作ではヴァン・ヘルシングはおじいさんで、早い話がエクソシスト(悪魔払い)みたいな人ですが、この映画では若々しく、様々な武器を使ってモンスターと戦いをくり広げる、謎めいた人物として描かれています。

『ヴァン・ヘルシング』は個人的にはそれほどおすすめな映画でもないのですが、フランケンシュタイン、ドラキュラ、狼男が一堂に会しているので、その点だけでも観る価値はあるかも知れませんね。

いやあ、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』は古典的な小説ながら、やっぱり面白いですよ。興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。500ページちょっとあるので、少し長いですけども。

小説で言えば夢枕獏の『陰陽師』シリーズとか、マンガで言えば荻野真『孔雀王』とか、得体の知れない存在と戦う物語って、すごく面白いと思うんですよ。

人間を越えた存在に、人間は単純な力では到底適わないわけですから、何らかの術を使ったり、或いは知恵を使ったりするわけですね。

『吸血鬼ドラキュラ』は、複数人物の手記からなっているので、物語の進み具合はなんともまどろっこしい感じです。

それがまたじわじわ恐怖を掻き立てるわけで、面白いところでもあるんですが、まあ基本的には本の半分くらいまでは退屈だと思ってください。

物語がいよいよ動き出して、ドラキュラ伯爵との対決に向かっていくと、どんどん面白くなっていきますよ。

作品のあらすじ


物語はジョナサン・ハーカーの日記から始まります。

イギリスの弁理士である〈自分〉は、イギリスに家を買いたいというドラキュラ伯爵と色々な打ち合わせをするために、トランシルヴァニアへやって来ました。

住民たちは、〈自分〉がドラキュラ伯爵の城へ向かうつもりだというと、必死で止めようとします。それを訝しく思いながらも、仕事ですから、行かないわけにはいきません。

城で出会ったのは、全身黒ずくめで、白いひげを長く垂らした老人でした。この老人がドラキュラ伯爵です。

ドラキュラ伯爵に歓迎されて、〈自分〉は何不自由なく過ごしますが、朝になるとびっくりするようなことが起こりました。

顔を剃ろうとおもって、ひげ剃り鏡を窓ぎわにかけて、ひげを剃りだしていると、ふいに肩に手がさわって、「おはよう」という伯爵の声がした。自分は思わずギョッとして目をみはった。自分が仰天したのは、ひげ剃り鏡のなかに、自分のうしろの部屋の全景は映っているのに、伯爵の姿がそのなかに映っていないからであった。おやっと思った拍子に、自分は剃刀でちっとばかり顔を切ったらしいが、その時は気がつかなかった。(45ページ)


流れる血を目にしたドラキュラ伯爵は、「まるで悪魔が狂いだしたように目をらんらんと光らして、いきなりこちらの咽喉笛めがけて飛びかかって」(46ページ)来ます。

しかし、〈自分〉が首にかけている十字架に気が付くと、すぐ元のドラキュラ伯爵に戻りました。

〈自分〉は徐々に色んなことがおかしいと気が付き始めます。しかし、この城は断崖絶壁に建てられていて、窓からは逃げられませんし、扉という扉には鍵がかけられてしまいました。

そう、〈自分〉は囚われの身となってしまったんですね。はたして、その運命は?

一方、ジョナサン・ハーカーの婚約者ミナ・マリーは、愛するジョナサンから何の連絡もないのでとても心配しています。続いて物語は、ミナの日記を通して描かれていくことになります。

〈私〉は友達のルーシー・ウェステンラの所を訪れました。ルーシーは3人の求婚者の中からアーサー・ホルムウッドという素敵な男性を選び、幸せいっぱいです。

ところが、ルーシーの様子が次第におかしくなっていくんですね。夢遊病になり夜中になると歩き始め、朝になると覚えていないというんです。〈私〉はルーシーのことで心を痛めますが・・・。

ルーシーの求婚者の一人であり、医者のドクター・セワードは、蠟管蓄音機に日々の記録を吹き込んでいます。そこでの〈私〉はドクター・セワードになります。

〈私〉はルーシーの様子が何だかおかしいと知り、診察をしますが、ルーシーの状態は、自分の手には負えないと考えるようになりました。

そこで、アムステルダムのヴァン・ヘルシング教授に連絡を取ります。

「精神病学では世界的大家だし、現代のもっとも進歩的科学者であると同時に、深遠な哲学者でもあり、しかも人物はまことに気のおけない、闊達な人」(175ページ)であるヴァン・ヘルシング教授は連絡を受けると、すぐさま駆けつけてくれました。

ルーシーの体はひどく弱っています。原因はよく分かりませんが、体中の血液が足りない様子です。

早速輸血の手配をしますが、〈私〉とヴァン・ヘルシング教授は、ルーシーの首元に点のような穴が2つ開いていることに気が付きました。一体この傷は何なのか?

ヴァン・ヘルシング教授は、ルーシーににんにくの花輪を渡し、いつも身に着けているように指示しました。

そんなヴァン・ヘルシング教授の迷信じみたやり方に、〈私〉はやがて反感を覚えるようになっていきます。一体何の必要があってそんなことをするのか分からないからです。

「先生、先生のなさることには確たる理由があることは、ぼくも知ってますが、これはしかしどういうんですか? さっぱり見当がつきませんな。疑うわけじゃありませんが、まるでこりゃ魔除けのまじないでもなさっているようですな」
「うん、たぶんな」と教授はおちつき払ったもので、ルーシーの首にかける花輪をせっせと編んでいる。(204ページ)


ヴァン・ヘルシング教授はただ一人、ルーシーの身に何が起こっているかが分かっているようです。

やがて、町ではおかしなことが起こり始めます。動物園からは狼が脱走し、子供たちが行方不明になる事件が多発します。子供たちの首もとには何者かが噛んだ跡が残されていて・・・。

幽閉されてしまったジョナサン・ハーカー、そして、日々血液を失い続けるルーシーの運命はいかに? そして、ヴァン・ヘルシング教授が暴いた怪奇事件の真相とは!?

とまあそんなお話です。ヴァン・ヘルシング教授と、ルーシーの3人の婚約者、アーサー・ホルムウッド、キンシー・モリス、ジャック・セワードが中心となり、恐るべき強敵に立ち向かってゆくことになります。

物語は、ジョナサン・ハーカーとミナ・マリーの日記、ジャック・セワードの録音が中心となって進んでいき、色んな人物の手紙や新聞記事なども挿入されるというスタイルです。

三人称で書かれた小説ではないだけに、独特の読みにくさはあるんですが、そうした古典的なスタイルもこの作品の大きな魅力でもあります。

最初は老人の姿で物語に登場したドラキュラ伯爵が、やがてはどんな風に変化を遂げていくのか、そんな所にもぜひ注目してみてください。

怪奇小説の古典的名作であると同時に、今読んでも面白い小説ですよ。興味を持った方は、ぜひ読んでみてくださいね。

おすすめの関連作品


『吸血鬼ドラキュラ』に関連しているようなしていないような映画を一本紹介しましょう。

吸血鬼を描いた映画はたくさんありますが、ぼくはひねくれ者なので、あえて吸血鬼ものではない映画を選んでみました。

ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演という黄金コンビの作品に、『エド・ウッド』という映画があります。

エド・ウッド [DVD]/ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

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実在した映画監督エド・ウッドを描く一種の伝記映画です。映画を撮りたいと思うけれど、なかなか撮らせてもらえない、そんな映画作りの大変さが垣間見える映画。

この映画の中に、ベラ・ルゴシという、実在した俳優が登場するんですね。ベラ・ルゴシ役を他の人が演じているということです。

かつて『吸血鬼ドラキュラ』の映画化作品でドラキュラ伯爵を演じ、スターになったベラ・ルゴシ。エド・ウッドと組んで、再起を目指すのですが・・・。

女装癖があったりもするエド・ウッドの変人ぶりをジョニー・デップが演じるわけですから、これはもうはまり役なわけですよ。興味を持った方は、こちらもぜひぜひ。

明日は、夏目漱石『それから』を紹介する予定です。