今日は2ヶ月ぶりのN響定期で、NHKホールでした。代々木公園のイベント広場は「アースデイ」で混んでましたが、5月のN響Aプロの時は「タイ・フェスティバル」で大混雑が予想されるので、↓のように、原宿方面からの来場の場合の臨時の迂回ルートと北側ゲートの案内がありました。こんな特別措置があるのは知りませんでしたが、相当混みそうですね。該当する方は是非、お気をつけください。

今日のコンマスは、昨シーズンまでヤノフスキが首席だったドレスデン・フィルの第1コンマスのヘントリヒで、ヤノフスキとの関係が良好だったのでしょう。ヘントリヒは、人柄が良さそうですし、マエストロに忠実そうな感じがします。ヤノフスキはコンマスと摩擦が起きることがあるので、N響はヤノフスキのためのコンマス繰りが大変なのではと察します。彼はウィーン・フィルの定期やザルツブルクのコンサートに出たことは無いですし、ベルリン・フィルとも20年以上共演していなかったのはそれなりの理由があります。ベーム、カラヤンらの大巨匠のもとで演奏していた奏者からすると、ヤノフスキの淡白な解釈には腹落ちしない部分があって、オケとの亀裂が起きやすいとベルリンの楽団員から聞いたことがあります。このような背景があり、ヤノフスキには賛否両論があると、先日のブログでも書きました↓。


今日のプログラム・ノートは、何度か指摘している横浜国立大教授の意味不明な解説ですが、明日、行かれる方はWikipediaなどを参照された方が良いです↓。

https://www.nhkso.or.jp/concert/phil24April.pdf

あまりにも話にならない解説なので、今月のBプロとCプロの解説も先取りして読みましたが、こちらは作曲背景と各曲の構成がきちんと構造的に書かれて、新たな発見と読後感があります。しかし、Aプロのp.19に書いてある「青春の炎」の意味がよく分からないですし、ブラームスが交響曲を作曲した時は青春期ではないと思います。読んでも混乱するだけのプログラム・ノートなので、読まないほうが良いですし、横国大生が改めて可哀想と申し上げたいです。特にシューベルトの交響曲の解釈は間違いだらけだと思います。もういい加減にこの教授の解説はやめてもらいたいです。アカデミックなアプローチで、この教授の査読無しの論文や論考などに対して、数十頁以上の反証を書く自信があります。


前半のシューベルトの「悲劇的」は作曲家本人が付けた標題ですが、昔からこの曲を聴いていて、どの点が悲劇的なのかよく分からず、調べても、きちんとした説がありません。この曲の作曲時期も不明とされているので仕方ないですが、19歳当時のシューベルトがベートーヴェンを強く意識していたと言う俗説が多く語られていますが、今日のプログラム・ノートの「古代ギリシャ悲劇を基調とする」は話にならない議論です。第1楽章の序奏のみ悲劇的な感じがしますが、その後は明るい旋律で、「悲劇的」というタイトルの意図が理解不能なので、今度、ウィーンあたりで偉い先生にこの点を聞いてみたいと思います。第1楽章の序奏以降は、モーツァルトの交響曲のような明るい曲想とベートーヴェンのようなオーケストレーションとなっていて、学生の時にこの曲を初めて聴いた時から古典派の交響曲のような印象を感じていました。ウィーンにいたシューベルトはモーツァルトとベートーヴェンの音楽に影響を受けて、この時は古典派のようなアプローチで、徐々にロマン派の扉を開けていったのでしょう。特にシューベルトはベートーヴェンを敬愛しており、葬儀にまで参加したと聞いたことがあります。ヤノフスキはスコア無しで、第1楽章から必要最小限の指示で、力まずにソフトな指揮ぶりで、軽快に進めていきます。第2楽章のアンダンテは楽園のような情景で、この楽章もややスピーディーでした。第3楽章でも明るく快楽的な演奏ですが、ヤノフスキが笑顔で指揮しているくらいですので、やはり、この曲が「悲劇的」とされている意図が分からないです。第4楽章ではVnセクションから綺麗な主旋律を出させて、端正な演奏で締めくくりました。この曲はベートーヴェンのようなドラマティックな展開はないので、このような演奏で良いと思いました。

〈追記〉4/15

あるブロガーさんのご指摘で、2021年のムーティ指揮・ウィーンフィルの来日公演で「悲劇的」が演奏されましたが、この時のプログラム・ノートにオットー・ビーバ博士による解説で、なぜ「悲劇的」というタイトルになったのかについて詳細に書かれていました。作曲当時の社会不安(インドネシアの噴火によって、ヨーロッパにも粉塵などか覆いつくし、作物の収穫が減り、物価高などの不安に満ちた年だったそうです)によって、シューベルトが楽譜の表紙に「悲劇的」と書いたそうです↓。ビーバ博士は、「音楽の歴史において、同時代の出来事がこれほどまでにその成立と性格を決定付けた例は極めて少ない」と結んでいます。

(オットー・ビーバ博士によるプログラム・ノート)


後半のブラームスの1番は、半年前のパーヴォ指揮・トーンハレ管の革新的な演奏が記憶に新しく、この演奏との比較になってしまいますが↓、今日の演奏はスマートで標準的な演奏と言えるでしょう。

第1楽章の序奏は弦楽セクションに重きを置いた演奏で、VaとCbのメンバーがベルリン・フィル並に揺れていました。教科書的なクセのない演奏ですが、時折、ファゴットを際立てさせたりと、ヤノフスキの独自のテイストが見られました。第2楽章はヤノフスキにしてはやや遅いテンポで始まりましたが、徐々にスピードを上げていて、ここでもスマートなN響の演奏が見られました。コンマスのソロはピュアで綺麗な音でこの楽章はうまく終わりました。第3楽章ではヤノフスキが機嫌が良かったのか、コンマスと笑顔でやり取りしながらの優雅な演奏でした。第4楽章の序奏部分のホルンはとても綺麗に決まっており、その後の甲斐さんのフルートのソロも素晴らしく、N響の演奏能力の高さが伺えます。その後のベートーヴェン風の第1主題はスピーディーでしたが、2回目はややテンポを遅くして演奏していたのが印象的でした。終盤になると、ヤノフスキは第九の時の指揮のように、ティンパニを強調したり、弦楽セクションに対しては緊張感を高めながら、コーダの前からアッチェレランドでエネルギッシュな大団円でした。N響による、とても整った演奏でしたが、ブラームスらしい重厚さや濃厚さはあまり感じられない点が残念でしたが、会場はブラボー喝采でした。ヤノフスキファンが多かったのでしょう。この曲は、カラヤン/アバド/ラトル/バレンボイム指揮らのベルリン・フィルなどの超重量級のブラームスを聴いた経験があるため、判定が厳しくなってしまいがちです。↓のカラヤン指揮・ベルリンフィルの来日公演の映像を観れば、今日の演奏との違いはかなり明白です。


今日の演奏会もNHKが収録しているので放映が楽しみですが(特にヤノフスキの表情に注目したいです)、今週木曜日のルネ・パーペから4日連続でTVカメラの入った演奏会に立ち会えたのは珍しい経験でした。

(評価)★★★ 教科書的なスマートな演奏で、N響の演奏能力が素晴らしかったです

*勝手ながら5段階評価でレビューしております

★★★★★: 一生の記憶に残るレベルの超名演 

★★★★:大満足、年間ベスト10ノミネート対象

★★★: 満足、行って良かった公演

★★: 不満足、行かなければ良かった公演 

★: 話にならない休憩中に帰りたくなる公演 


指揮 : マレク・ヤノフスキ
シューベルト/交響曲 第4番「悲劇的」
ブラームス/交響曲 第1番