コロナが5類になってはじめての花見シーズンのためか、昨日の上野周辺が花見客で大変混んでいて、さらに文化会館の1階のトイレが花見客で大行列で混乱気味でした。そのため、今日の「ワーグナー・指環・ガラ・コンサート」に行くのをやめて、家内のパソコンを借りてネット配信で見ることにしました。この公演は今回の春祭の中でもかなり人気の公演で完売に近かったそうです。しかし、春祭の「20周年記念」と書いている割には、曲数も少なく、歌手も地味だと思っておりました。指環の各幕のフィナーレ部分を4曲セレクトされていますが、これだけでは少し物足りないです。また、先週まで「トリスタン」で歌っていたのはアイフェ(バリトン)だけで、他の歌手は帰ってしまったようです。トリスタン出演組のスケルトンやゼーリヒに加えて、来週から春祭に登場するルネ・パーペあたりを出さないと20周年記念にはふさわしくないと思いました。テノールのヴォルフシュタイナーとソプラノのパンクトラヴァは線の細い歌手でワーグナー、特に指環向きではなく、新国立劇場のような中途半端なキャスティングでした。内容的なボリューム感もN響の定期演奏会レベルです。あくまでもネット配信で観た感想ですので、実演をご覧になられた方には申し訳ないですが、結論的には今日は行かなくて良かったです。


今回のネット配信は1カメの映像だけですので、出演者の表情はよく見えませんが、4Kのため音のクオリティは比較的良かったのと、指揮者登場の直前にサスペンダーおじさん(M氏)が遅れて最前列に座るところはよく見えました(^^)↓。

このM氏は会場には15分くらい前に到着しているのに、わざわざホールスタッフが焦るようなギリギリのタイミングで入ってくる目立とう精神が強い人です。40年以上目立ってますが、そろそろご引退された方が良いと思います。札付きのクレーマーで、彼が日本の音楽事業者を脅していたりしていて、かなりの迷惑人です。約10年前に弁護士の友人と2人でN響定期に行った時に、彼が最前列の私の席に座っていて、隣の弁護士の席に彼のリュックが置いてあり、周りのご夫人が「この人、いつも違う席座ってるのよ!」とお怒りになっていて、弁護士と私も「チケットを見せてください」と言ったら、彼はブツブツ言って、チケットを見せず、真後ろの席に戻り、真後ろの席から「落とし前つけてもらうからな」と我々に言うので、ホールスタッフを呼んで、サスペンダーの彼を追い出したことがあります。それ以降、彼が近くに接する機会がなくなりましたが、今度、同じようなことがあれば、弁護士と共に彼を指環のようなエンディングに持ち込みたいと存じます。彼は昔からの不動産持ちで仕事をせず生きているので、あえて指環で例えるとハーゲンみたいなキャラクターでしょうか(^^)。


N響の演奏は、低弦セクションや金管・木管は予想以上にうまくて、素晴らしかったと思います。一方で、Vnセクションからの音が弱く、美しい主旋律がうまく描かれていないのがとても残念でした。このアンバランスや音楽的に感動できなかったのは、おそらく指揮者のヤノフスキのせいでしょう。彼の指揮の特徴は筋肉質で無駄を省き、高速で演奏する点ですが、「トリスタン」や「指環」ではこのアプローチは好ましくないと思います。ワーグナー音楽の荘厳性・官能性・情動性が剥ぎ取られてしまい、例えば、ラインの黄金のヴァルハラのシーンでは神々しい音楽に聴こえませんし、黄昏のブリュンヒルデのフィナーレも早すぎて、ソプラノのパンクトラヴァがついていけていないように思えました(彼女はドイツ語の発音にもやや難がありました)。そのため、今日のガラ・コンサートは完成度の低い公演に思えました(通常の評価ですと、★★レベルです)。


実は先月のヨーロッパで、ある大物指揮者とお茶をしていた時に、「今、東京では春の音楽祭をやってだろ。何をやっているんだ?」と聞かれ、「今頃、ヤノフスキ指揮のトリスタンとイゾルデをやってますよ」と私が答えたら、そのマエストロが笑いながら「彼の音楽はいつもは早すぎるだろ。何を伝えたいのか、よく分からないんだよ。」と言ってました。その後、私が「ヤノフスキの『第九』も約60分間くらいでしたね」と言うと、「そうだろ。60分間でベートーヴェンの伝えたいことが表現できるのか?」と疑問を呈されてました。ヤノフスキはサヴァリッシュの弟子として、日本では人気がありますが、ヤノフスキの経歴をみると、フランス放送フィルやドレスデン・フィルのような来日公演でお客様があまり入らないようなニ、三流オケのシェフしか務めていません。客演しているオケはバラエティに富みますが、シェフとしてのネーム・バリューはあまり高くないようですし、ヨーロッパでは賛否両論の指揮者だと思われます。ヤノフスキのワーグナーは昨年のマイスタージンガーのような軽めのストーリーであれば合っているのですが、トリスタンや指環は向いてないと思います。今回の20周年は良い区切りなので、再来年あたりからは別のワーグナー指揮者に代わった方が良いのではと個人的には思います。例えば、A.コーバーやP.ジョルダンあたりです。A.コーバーはバイロイトにはヤノフスキ以上に登場してますし、ウィーンでは2回指環をやってます。筆者は2022年5月にウィーンでA.コーバー指揮の「ワルキューレ」(スケルトン、ステンメ出演)を鑑賞しましたが、例えばラトル指揮のウィーンでの指環よりは、はるかに優れていました。P.ジョルダンも抜群のワーグナー指揮者なので、この2人のどちらかが、このワーグナー・シリーズの後継者になって欲しいと願います。ヤノフスキは頑固なので、コンマスとよく不仲になることがあります。キュッヒルさんが春祭のコンマスを下ろされているのはヤノフスキの影響と聞いてます。一方で、上記の2人の指揮者であれば、ドイツまたはオーストリアから素晴らしいコンマスを連れてきてくれると思います。今回の春祭で来日しているクラシック音楽界のドンであるホーレンダー監督にうまく調整してもらいたいです。


出演

ヴォータン*:マルクス・アイヒェ(バリトン)

フロー*:岸浪愛学(テノール)

ローゲ*、ジークムント**、ジークフリート***:ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー(テノール)

フリッカ*:杉山由紀(メゾ・ソプラノ)

ヴォークリンデ*:冨平安希子(ソプラノ)

ヴェルグンデ*:秋本悠希(メソ・ソプラノ)

フロースヒルデ*:金子美香(メゾ・ソプラノ)

ジークリンデ**、ブリュンヒルデ****:エレーナ・パンクラトヴァ(ソプラノ)

森の鳥***:中畑有美子(ソプラノ)

 

指揮:マレク・ヤノフスキ

管弦楽:NHK交響楽団(ゲスト・コンサートマスター:ウォルフガング・ヘントリヒ)

音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

曲目

舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』より

 

序夜《ラインの黄金》より第4場「城へと歩む橋は……」〜 第4場フィナーレ*

 

第1日《ワルキューレ》より第1幕 第3場「父は誓った 俺がひと振りの剣を見出すと……」〜第1幕フィナーレ**

 

 ~ 休憩(20分)~

 

第2日《ジークフリート》より第2幕「森のささやき」〜フィナーレ***

 第2場「あいつが父親でないとは うれしくてたまらない」―森のささやき

 第3場「親切な小鳥よ 教えてくれ……」〜第2幕フィナーレ

 

第3日《神々の黄昏》より第3幕 第3場ブリュンヒルデの自己犠牲「わが前に 硬い薪を積み上げよ……」****