特集 2014東京都知事選

 投開票が2月9日(日)に迫った東京都知事選挙。細川護熙氏が立候補したことにより、今回の選挙では、数ある争点の中から「脱原発」が最大の争点としてクローズアップされている。

 原発といえば、エネルギー需給の側面から語られることがほとんどである。「脱原発」のシングル・イシューで今回の選挙を戦う細川氏は、再生可能エネルギーの活用によって、「原発ゼロ」を達成すると繰り返し主張している。

※2014/01/22 【東京都知事選】細川護熙氏が立候補を正式表明 ~脱原発、新しい経済・生活の形態を訴える

※2014/01/28 【東京都知事選】細川護熙氏が外国特派員協会で会見 宇都宮健児氏との一本化の意志を改めて否定

 しかし、原発は、エネルギーの観点からのみ語られる問題ではない。原発は、軍事と安全保障の問題と密接に関わっているのである。

 日本政府は、原発で出た使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出し、それを再び原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」をエネル ギー政策の柱として採用している。この「核燃料サイクル」は、原子力に関する技術を日本側が包括的に運用することを認めた、1988年の日米原子力協定に よって可能となったものである。現在、高速増殖炉「もんじゅ」の運転停止により、この「核燃料サイクル」の実現見通しは立っていない。

 「核燃料サイクル」によって生み出されるプルトニウムは、核兵器の原料として転用可能なものである。日本には現在、既に44トンのプルトニウムが 蓄積されており、長崎型原爆4000発を製造することが可能であると言われる。「核燃料サイクル」技術を維持し、「兵器級プルトニウム」を蓄積すること は、核兵器を潜在的に保有することに、ほぼ等しい。

 こうした日本の原子力/核政策を規定しているのが、日米間で締結されている日米原子力協定である。

 1955年、米国から日本へ濃縮ウランを貸与する目的で、日米原子力協定が締結された。これにより日本は、「原子力の平和利用」の名の下、核に関する技術を運用することが可能となり、原発を稼働させることができるようになった。

 しかし、この日米原子力協定は当初、日本側の核運用に関する細かい「箸の上げ下ろし」まで、米国側の許諾を得なければならないものであった。そこ で、「核燃料サイクル」を構築して「兵器級プルトニウム」を蓄積し、独自の「核技術抑止力」を保有することを求めた日本側は、米国に対し、核の「包括的な 運用」を求めることになる。それを認めたのが、1988年に改定された日米原子力協定だったのである。これは日本に30年間にわたり、「フリーハンド」を 認めるものだった。

 この、日本に潜在的な核保有を許している日米原子力協定が、2018年に期限を迎える。この期限を見越してのことか、1月27日、非常に重要だと思われるニュースが飛び込んできた。

 共同通信が伝えるところによると、冷戦時代に米国が研究用として日本に提供し、東海村にある日本原子力開発機構が保管してきたプルトニウム331キロについて、米国側が日本政府に対して返還を要求している、というのである。

※米、プルトニウム返還を要求 オバマ政権が日本に 300キロ、核兵器50発分 / 背景に核テロ阻止戦略(共同通信、2014年1月27日

 日本は戦後、「原子力の平和利用」の名の下、原発を導入した。しかしそれは、岸信介元総理や佐藤栄作元総理などの発言からも分かるように、「平和 利用」という大義名分を盾に、原発から出るプルトニウムによって核技術抑止能力を持つための手段であった。戦後の日本は、「原子力の平和利用」「非核三原 則」を顕教、核技術抑止を密教とし、そのどちらが日本の本音なのかを明らかにはしないという「あいまい路線」、すなわち「中庸」を取ってきたのである。

 しかし、靖国神社への参拝や集団的自衛権の行使容認といった安倍政権の暴走、そして2018年に迎える日米原子力協定の期限切れを前に、米国は日 本に対して、従来の「中庸」路線をもはや許さないのではないか。そして、今回のプルトニウム返還要求は、そのことを伝える米国からの政治的メッセージなの ではないか。

 今回の東京都知事選で最大の争点となっている「脱原発」は、このような軍事と安全保障の観点から捉える必要がある。

 日本が取るべきなのは、国際的な孤立を強いられてでも核武装に踏み切る、「核武装独立路線」か、核保有の技術も、プルトニウムの貯蔵もすっぱりと あきらめる「絶対平和主義」か、あるいは、そのどちらでもないのか。2011年3月11日の福島第一原発事故直後から、「原発とは、核を抱えている社会の 問題だ」と主張してきた京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏に、話を聞いた。

※2014/02/03 岩上安身による京都大学原子炉実験所助教・小出裕章氏インタビュー

◆原発は電気のためではなく核兵器を作るために導入された◆

岩上安身「ジャーナリストの岩上安身です。私は今、京都大学の原子炉実験所に来ています。小出裕章先生にこれからお話をうかがいたいと思います。小出先生、よろしくお願いいたします」

小出裕章氏(以下小出、敬称略)「よろしくお願いします」

岩上「今、都知事選のまっただなかで、そういう状況で発言をすることは少し控えたいと言っていらしたところに押しかけまして、本当に申し訳ありません。申し訳ないと思うんですが、どうしてもこのタイミングで、小出先生のお話をうかがいたいと思いました。

 多くの人が、今回の都知事選の喧騒に飲み込まれてしまって、非常に重要なニュースを見逃しているのではないかと思います。それは、私にとって大変気になることなんです。その件について、ぜひ先生のご見解をお聞きしたいと思っています。

 その重大なニュースとはいうのは、アメリカがプルトニウムの返還要求をしてきている、というものです。1月27日に共同通信が一報を流しまして、 各紙がそれを載せました。我々は、これは大変なニュースなんじゃないかと思いまして、外務省に連絡したんですね。外務省の担当課は、否定はしないんです。 まあいろいろ申し上げられないこともある、というように、ぼかしているんですけれども、否定はできないということは、事実なんだろうと思います。

 文芸評論家で早稲田大学の教授の加藤典洋さんが、3.11以降に『死神に突き飛ばされる』という本を書かれて、その中に、「国策と祈念」という論 文を書いていらっしゃいます。日本の原発の平和利用において、それとワンセットで、核の技術的抑止というものが目指されてきたのだということを指摘されて います。

 ところが、もしこのプルトニウムを返還しろということを言われたのであれば、日本の核開発の目的というのは水泡に帰す。これは実は大きな選択を迫られるというお話なんですね。そういう分析をされています。

 核技術抑止論と言ったり、潜在的核保有論と言ったり、いろいろな言い方はあると思いますが、こういうことを近年、石破さんとか、あるいは安倍さん、麻生さんも、発言をされていると思います。

 しかしこうなると、周辺諸国、とりわけ中国との関係において牽制するということはできなくなります。曖昧な戦略ができなくなる、ということです。 そうなると、もう核兵器を持ってしまうか。それともまったく諦めるかという選択を迫られるのではないか。このように分析しているんですね。

 こんなに脱原発の議論が都知事選絡みで盛り上がっているにも関わらず、この話題が全然議論の遡上にあがらないんです。

 そこで、先生にお話をうかがいたいなというふうに思っております。日本の原発の平和利用と言っても、裏側に核燃サイクルと抱き合わせで、このよう な核兵器保有のための準備をし続けてきたというのは事実であり、そして、このプルトニウム返還要求が、そうしたものの断念を迫られる可能性があるという点 について、どのようにお考えでしょうか?」

小出「日本という国は、原子力の平和利用というような言葉を作って、あたかも日本でやっている原子力利用は平和的だとずっと装ってきたわけですけれども、もちろんそんなことはありません。

 ずいぶん前でしたけれども、野坂昭如さんが、技術というのは、平和利用だ、軍事利用だと分けることが出来るはずがないとおっしゃっていました。そんなものはないと。もしあるとすれば、平時利用と戦時利用だということでした。

 平時に使っている技術でも、戦時になればいつでもまたそれが使える、ということです。日本が原子力をそもそもやり始めたという動機も、先程から岩上さんがおっしゃってくださっているように、核兵器を作る潜在的な能力、技術力を持ちたいということから始まっていました」

岩上「そもそも核保有が出発点であり、電気のためではなかった、と」

小出「もちろん、そんなのは違います。核兵器を作る力を持ちたかったということで、日本の原子力開発が始まっているわけですし、単に技術力だけではなく、平和利用と言いながら、原爆材料であるプルトニウムを懐に入れるということです。

 そしてもうひとつは、ミサイルに転用できるロケット技術を開発しておかなければいけない、ということです。両方を視野に入れながら、科学技術省というものを作ったわけですね。今はなくなりましたけれども。

 科学技術省は、原子力と宇宙開発をやるわけですけれども、まさに原爆を作るためのものです」

岩上「なるほど。ひとつの役所が、まるごとそのために生まれたようなものだと」

小出「そうです。日本人は、日本は平和国家と思っているかもしれませんけれども、国家のほうでは、戦略的な目標を立てて、原子力をやってプルトニウムを懐に入れて、H2ロケットやイプシロンなど、ミサイルに転用できるロケット技術を開発してきたんですね。

 しかし、日本のマスコミは、例えば、朝鮮民主主義人民共和国が人工衛星を打ち上げると、ミサイルに転用できる、実質的なミサイルであるロケットを 打ち上げたという。しかし、自分のところが打ち上げるH2ロケット、イプシロンについてはバンバンザイという、そんな報道しかしないわけですね。
 
 もちろん北朝鮮だって、ミサイル開発と絡んでいると思いますけれども、同じように日本だって、軍事的な目標を見ながらやってきたわけです。

 ただし、日本の思惑というものが貫徹できるかどうかということは、現状では、完全に米国が握っているんですね」

岩上「これは、日米原子力協定というもので、拘束されている、と。これはどういうものなのでしょう」

◆米国の属国だからこそ可能だった日本の原子力政策◆

小出「日米原子力協定では、米国の同意がなければ、核燃料をどう扱うかということすら、日本では決められないというようになっています。米国がどう 考えるかということで、日本の原子力開発の動向が左右されているわけですね。日本は米国の完璧な属国ですよね。そうであるかぎりは、米国は日本に一定程度 の自由を許してやるということになっているわけです。

 原爆を作るための技術というのは、核分裂性のウランを濃縮するというウラン濃縮という技術。それからプルトニウムを生み出すための原子炉。それから、生み出されたプルトニウムを取り出すための再処理という三つの技術があります。

 その三つが原爆を作るための技術です。そして、現在の国連常任理事国である米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の五カ国は、その三つの技術を持っているのですね。

 三つの技術を持っていて、核兵器を持っているから、常任理事国として、世界を支配できるということになっている。その5カ国は、自分たちだけはそ の技術を持ってもいいけれども、他の国には、絶対持たせないということで、IAEAを作って、国際的な監視をするということにしたんですね。

 ずっとそういう体制が続いてきたのですが、その核兵器保有国5カ国の他に、例えばインドとかパキスタンとか、あるいはイスラエル。朝鮮民主主義人 民共和国は、私はまだ首を傾げていますけれども、まあまあ、実質的に核兵器を作ったとしても、例えば、インドは原子炉と再処理は持っていますけれども、ウ ラン濃縮技術は持っていない。パキスタンは、ウラン濃縮技術は持っているけども、原子炉も再処理も持ってないんですね。イスラエルはもう米国が容認してし まっています」

岩上「黙認という形ですね」

小出「そうですね。原子炉も持っているし、再処理も持っているわけですね。朝鮮民主主義人民共和国は、どこまで持っているのか私は分からないけれども、どの国も原爆製造三技術は持ってないのです。

 ただし、核兵器保有国5カ国のほかに、世界で1カ国だけ、この三技術を持っている国がある。それが、日本なんですね」

岩上「なるほど。これは核燃料サイクルと深く結びついているわけですね」

小出「もちろんです。ですから、日本は核燃サイクルを実現して、原子力を意味のあるエネルギー源にするというようなことを言ってきているわけですけれども、実はそれはもう原爆と作るための技術を持ちたいという、そのことで来ているわけです。

 日本だけがその三技術を持つことができたわけですけれども、それも日本が米国の属国であるから、米国がかろうじて、ウンと言ったという、そういう状態なのです。

 でも、今のように安倍さんのような、私から見ると『この人、病気だな』と思うような人が出てきてしまって、世界情勢を見ることもできないわけです ね。そうなると、米国からみても、やはり不安になるでしょうし、これまでは属国として許してやってきたけれども、このまま野放しにするのは危ないかなと思 い始めるということはありそうだし、むしろ当たり前と言ったほうがいいかもしれません。

 これまでのような形で日本にフリーハンドを与えないで締め付けを厳しくするということは、たぶん世界の政治のレベルでは、ありうるだろうなと、私は思います」

◆「安倍おろし」の可能性◆

岩上「日米原子力協定が結ばれた経緯、出発点は、日本が核兵器をいつか保有したいという欲望からスタートしている、ということでした。

 他方、アメリカは冷戦体制下で、日本だけではなく、自分が傘下に納めている国々が、まかり間違ってアメリカ側からソ連側のほうにいくことは避けた い。できるだけ自分たちの陣営を固めておきたいし、日本はとりわけ東アジアにおける『反共の砦』というような形にしておきたい。

 それで、日本に再軍備をさせ、あるいはA級戦犯の容疑者だった岸信介を釈放して、再利用するというようなことが行われたりしてきた。

 そのプロセスのなかで、ビキニ岩礁での水爆実験で第五福竜丸が被爆し、大変な反核運動が盛り上がった。その結果としての核アレルギーを鎮めるためにも、日本に飴玉を提供するということで、原発を提供したという経緯があると言われています。

 ここには、さらにいろいろ思惑もあるんだろうと思います。日本が独自核技術を持つくらいだったら、アメリカのパテントで全部最初から与えてしまって、コア技術は開発させないで、アメリカが握り続けるという計算もあったのだろうと思います。

 先生のおっしゃるように、ずっとコントロールされてきた。箸の上げ下ろしのようなことまでうるさく言われるものだった。ところが、これが包括協定 というのが1988年に結ばれました。言うことはなんでも聞くんだなということが分かってきたので、少し信頼できるようになったから、細かいことは言わな いというようなことになってきた。その包括協定が、2018年に期限が切れるのですね」

小出「そうです」

岩上「そこで、今回、プルトニウム返還要求が起きているということは、安倍政権の成立を見据えて、これは危険だと米国が思い始めたということでしょ うか。包括協定の30年間の期限の切れるタイミングと、安倍政権の成立のタイミングに合わせて、米国が言って来たという意図はどういうことなんでしょう。 日米関係はこれからどうなるとお思いでしょうか?」

小出「よくわかりません。安倍さんのような首相がいつまで政権の座にいることができるのかも、私にはよく分かりません。しかし、安倍さんのような人 がいる限りは、やはり米国としては、コントロールを強めようと思うでしょう。日米原子力協定の期限が2018年に切れますので、これまで以上に、またタガ をはめてくるということはあるでしょう。原子力関係者からみれば、それをされると困るからといって、安倍さんを降ろすという動きも、ひょっとしたらあるか もしれません」

岩上「安倍総理は衆議院選挙、参議院選挙で大勝して、いま大変強い権力を持っています。今回の都知事選候補を見渡してみると、田母神さんのような方を石原さんがかついでいる。これは方向性としては、安倍さんと同じですよね」

小出「そうです」

岩上「そして、安倍さんが一生懸命我慢している本音をあらわにしているような人だということも言えると思います。田母神さんは、はっきり安倍さんを支持しているとおっしゃっているくらいですから、安倍さんの別働隊、より本音をあらわしているのではないかなと思うんですね。

 自民党内部で、安倍さんのやっていることに公然と反旗を翻す政治勢力は、いまのところ見当たらないように見えます」

小出「そうですね」

岩上「そこに小泉さん、そして細川さんが現れた。小泉さんは、総理を辞めているけれども、自民党を辞めたわけじゃないので、隠然たる影響力のある、人気のある方です。

 そういう方が現れて、脱原発を唱えられた。この動きについては、今おっしゃられたような、安倍さんのような動きだとアメリカに警戒されるから、受 け皿を用意しておこうかというふうにみなすことができるんでしょうか? それとも、何かまた別の動きだというふうにお考えですか?」

小出「それは、政治に詳しい人に聞いてください。私は、政治のことはよく分からない。ただし、いま岩上さんがまとめてくださったような政治のなかの力学というのは、私はありうると思います」

岩上「安倍さんでは危険すぎて、アメリカから警戒されてしまうので、安倍さんを下ろして、また今までどおりの中庸で曖昧な戦略。そこに戻せるような政権を作り出そうという動きが、小泉・細川連合以外に、小出先生は見当たると思いますか?」

小出「私には見当たらないのです。ですから、私はそれが一番困ったことだと思っています。安倍さんの暴走を止める勢力が自民党のなかにいない。国民 のほうにも、選挙をすれば安倍さんが勝ってしまうというような、そういう流れというのが、かなりできてきてしまっています。安倍さんの暴走をどうやれば止 められるか。私は大変心配しています。

 ただし、今日、岩上さんがその話題を持ってきてくださったような、原子力をめぐる動きについて、世界的な動きがありますので、日本の原子力産業、 あるいは、軍事的な興味を持っている人たちのなかでも、米国との関係というのは、たいへん重要なわけですから、その関係を悪化させるようなことは、たぶん 望んでいない。自民党という政権の内部でも、望んでいる人は多くないと思うし、そのために修復の動きというのは、いつか出るんではないかなと私は思いま す。

 今はまったく見えませんけれども、まあ安倍さんは、もうダメだと、ポッと政権を放り投げた実績のある人ですから、なにか動きが出て、風向きが変わったら、安倍さんがまた、はい、もう辞めましたということだってありうるかなと思います」

岩上「わかりました。ただ、安倍さん個人が、小出先生の表現で言うと、病的なキャラクターであるということが仮に事実だとしても、彼さえ取り除け ば、自民党の右傾化、この国の右傾化、この社会の右傾化が止められるかどうか。その右傾化のなかに、核というものをどう扱うかというテーマが密かに内包さ れているわけですね。

 そしてさっきも言ったように、より本音の部分として、核武装独立をしようという『秘められた意志』がある。安倍さんや石破さんだと、核技術抑止論の段階に一応とどまっているけれども、田母神さんや石原さんは、核武装独立ということを公言するわけですね。

 核武装独立ということを言う人が一定程度の支持を得ているとしたならば、安倍さんひとりがいなくなっても、こういう衝動、こういう考え方を支持する人たちの流れというものは、止められないかもしれません」

小出「いま、日本の国のなかで、田母神さんとか石原さんのように、核兵器を持ってしまえ、という意見は、私は大きくはないと思います。自民党の中でさえ、そういう意見は大きくないと思います。

 もちろん、底流としてはずーっとあったわけだし、初めに聞いて頂いたように、いつでも核武装できるような技術的な能力は持っておかなければならな いということで、日本の原子力開発、いわゆる核開発が始まっているわけですから、考え方としては、いつ転んで核武装をするというほうに行ってもおかしくは ないですけれども、現在の状況を見る限り、すぐにそうなるとは私は思わないです。

 もしそうなってしまうと、米国との関係だって大変難しいものになるでしょうし、そうなると経済界もたぶん困る。そういう人たちが山ほどいるはずです。自民党がもしそちらに暴走しようとするなら、なにがしかの抵抗もまた起きるだろうと思います」

◆都知事選の「脱原発」論議を検証する◆

岩上「今、原発をめぐって議論をするということが再び盛んになっています。この都知事選に合わせてですけれども、脱原発の問題が、もう一度多くの人の意識にのぼるようになりました。

 もちろん、3.11以降、多くの人たちが、原発を続けるべきなのか、それとも原発をやめるべきなのか、考えたり議論してきました。

 小出先生には、3.11の直後にお話をうかがいましたけど、その時から、核の危険性、放射能の危険性ということと合わせて、こういうものを抱きかかえている社会の仕組みの危険性、安全保障との関わり、米国との関わりについて、指摘されてきました。

 ところが、こういうことをまったく切り離す方もいるわけですね。原発だけを論じろ、と。そして、安全保障の話や核兵器の話は関係ない、電力の供給システムとしての原発を論じればいいんだ、と。そういう方がたくさんいらっしゃるんですね。

 今回の都知事選に関しても、飛び交っているご意見の中には、若干首をかしげるものもあります。都知事選ですから、都政に関わる様々な問題は話さなくちゃいけないんですけれども、脱原発だけを話そう、と。

 さらには、脱原発を話すのなら、安全保障とか、日米関係とか、それから隣国との関係とか、靖国の参拝の問題であるとか、それらを全部切り離して、ただ『原発ゼロ』と言ってしまう。

 アメリカは、民主党政権が一回原発ゼロと言ったときに、『原発ゼロということは、核燃サイクルをやめるってことは、プルトニウムをどう使うん だ?』というふうに言ったわけですね。核燃サイクルはプルトニウムを処理するための手段でもあるわけで、そうすると、ただプルトニウム貯めこんじゃうから 危ないじゃないかという話と結びついていると思います。

 だから、単純に『原発ゼロ』という議論に対する警戒も、アメリカのなかにはありますね。プルトニウムはそれはじゃあ余っちゃうのを返せよという今 回の動きにも結びついているのではないかと。こういう分析が、さきほど冒頭に言った加藤典洋さんの分析の中にも出てくるわけです。

 この『原発ゼロ』ということだけを論じてしまう論の建て方の危うさということについては、どのようにお考えですか?」

小出「当たり前のことだと思います。この世界のことは、すべてつながっている。原子力と日本で呼んでいるもの、私は核そのものだと言っているわけで すけれども、単に機械が壊れるか壊れないかとか、放射能が怖いとか怖くないとか、そんなことだけではなくて、核兵器の問題だってあるわけだし、それこそ米 国との関係、安全保障条約の問題、沖縄の問題、ぜんぶ絡んで、あるわけですから」

岩上「対中国の問題もそうですね」

小出「そうです。ですから、全体を見て、やはりものごとは考えなければいけないし、議論もしなければいけないと思います。ですから、今、岩上さんが 都知事選挙のことを話題に出されて、私はもう都知事選挙について、ものを言いたくないのですけれども、でも本当であれば、きちっと議論をしなければ、全体 について議論をしなければいけないと私は思います。

 今、『原発ゼロ』だけでいいかということを聞かれたので、ちょっとだけお伝えしたいと思います。米国が『プルトニウムを返せ』と言っているそのプ ルトニウムは、日本原子力研究所、今では日本原子力研究開発機構ですけれども、そこにFCAという実験装置があります。日本語で言うと高速炉臨界集合体。 そういう実験装置があって、それはたしか1967年から動いたのだと思いますが、それを動かすための燃料、プルトニウムを米国が提供したんですね。

 ただし提供したけど、ほとんど燃えてるわけじゃない。要するに、実験装置ってちいちゃなものなので、出力が2キロワットぐらいでしたかね。まあ本当にちいちゃなもので、プルトニウムはほとんど燃えてないんですよ。

 ですから、米国が提供したけども、結局、燃えてないんだから返せという、そういう要求なのです。まあ、日本としては返したくないでしょうね。せっかく懐に入れたんだから、返したくないと思いますけれども。でも、300キロですよ、いま米国が返せと言っているのは。

 でも、日本はすでに原子力発電所を長年動かしてきて、その使用済み燃料をイギリスとフランスに送って、再処理をしてもらって、日の丸のついたプルトニウムをすでに44トン持っている」

岩上「44トン!」

小出「はい。ですから、300キロぐらい返したところでなんてこともない。本当のことを言えば。米国としては、じゃあその44トンをどうするのかと いうことは、たぶんその先を睨んでいると思いますし、日本の原子力、いわゆる核開発を担ってきた人たちも、どこで防衛線を引くかということは、たぶん考え ているだろうと思いますが、日本の原子力発電所で生み出されたプルトニウムを『返せ』という要求はたぶんできない。米国としても。たぶんできないだろう と」

岩上「なるほど。これは最初にアメリカが提供したものだから、『返せ』ということになっていると。でも、この『返せ』と言っている要求は、いろんな政治的な意味やメッセージを含んでいるわけで、その次が当然ある。全然関係のない話ではないと。そういうことですね」

小出「そういうことです」

岩上「つまり、それをちゃんと理解して、このメッセージに対する対応を日本側がしないと、ことによると、いろんな方法があるよってことになってくると。次の展開がありうると」

小出「そうです。ですから、2018年に日米原子力協定が改定されますけれども、そのときにどういう交渉になるかということをたぶん日本の原子力関 係者は、もう今から苦悩しながら見ているだろうと思いますし、安倍さんの動きに関しても、かなり神経質になっているんではないかなと私は思います」