週刊新潮 2020年10月15日号より「国際ロマンス詐欺」被害女性たちの体験談① | パキスタン人旦那と共に歩む人生

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主に在日パキスタン人を観察しています。

国際ロマンス詐欺。

今では、誰でも知っている犯罪だと思う。

加害者被害者ともに日本国内在住であり、被害事実が深刻であると認められれば、刑事事件として警察も動いてくれるかも知れないが、国をまたいでしまえば結局、泣き寝入りだろう。

 

ネット上では、国際ロマンス詐欺師についての情報交換の真面目な掲示板もあったが、中には詐欺師に騙されたフリをして、そのあきれた実の姿を晒すサイトなどもあり、こんな風に悪い奴らの情報を共有できたら、どんなにか気持ち良いだろうと思ったことがある。

 

テレビ番組で国際ロマンス詐欺について報道される時、実情を知る人物としてよくコメントしているのは新川てるえ氏だと思う。アマゾンで書籍や電子書籍なども出している。

元アイドルで、3度の結婚・離婚・再婚の経験を生かし、作家、家庭問題カウンセラー、国際ロマンス詐欺ジャーナリスト、NPO法人理事長と多才な経歴をお持ちだ。

「国際ロマンス詐欺被害者実態調査」は、ざっと見ただけだったが、半分近くが独自に調査したアンケートの結果や分析だった。

私としては、被害者の生々しい経験をできるだけたくさん読みたかった。

電子書籍の方では、期待できるのだろうか。いつか読んでみたいと思う。

 

「他人事だと思わずに気を付けてほしい」

新川氏が編集後記にこう書いていた。

人間生まれながらに悪い人間はいない。誠心誠意を以って接すれば、相手も必ずわかってくれる。同じ人間だから。

そのような性善説に育てられたような日本人は、外国人だからといって初めから疑って付き合うわけではない。

その上、差別は良くない。多文化共生だの多様性だの

と刷り込まれ、ネット普及でタッチひとつでいくらでも世界中の人とコンタクトできるようになり、国際恋愛や国際結婚も増えた。

だが、一見、ドラマチックに見える外国人との恋愛や結婚にも、この国際ロマンス詐欺で知られるような犯罪、配偶者ビザや永住許可狙い、外国人家族・親族呼び寄せ移住、財産・死亡保険金狙い、婚姻関係の破綻に伴う子供の連れ去り、離婚問題、子の面会交流、ストーカーまがいの付きまといなど、こちらの方もグローバルなリスクや落とし穴が多々ある。

それらを私にはまったく関係のない話、他人事だとはどうか思わないで欲しいと思っている。

 

 

 

週刊新潮2020年10月15日号では、ノンフィクションライターの水谷竹秀氏が国際ロマンス詐欺に遭った被害女性にレポートしている。

被害に遭った女性たちも、よくぞ告白して下さったと思う。

今回も記事を転載したいと思う。

 

*****

恥を忍んで告白 「なぜ私は騙されたか・・・」 SNS世界の徒花!

「国際ロマンス詐欺」 被害女性たちの体験談    

 ノンフィクションライター 水谷竹秀

 

見たことも話したこともない海外の男性に心を奪われる。SNS上での甘い言葉に騙されて---。

国際ロマンス詐欺。現代を生きる女性の「心の隙間」に入り込む手口とは。

そして、どんなタイプが罠に嵌まりやすいのか。

被害者たちの証言からその「本質」に迫る。


 

 「これで私の人生は変わるんだ!」

 それは彼女にとっての純愛だった。彼らから連絡が来るだけで自然と頬を涙が伝い、異国の「まだ見ぬ貴方」に心を奪われていた。

 その後、確かに彼女の人生は変わった。

夢に描いていた薔薇色の未来とは真逆の、孤独感に深く苛まれるという変わり方で----。

 

 その出会いはフェイスブックを通じて送られてきた友達申請から始まった。

相手のアカウントのプロフィールには、さっぱりした短めの髪に、優しそうな微笑みを浮かべた欧米系の中年男性が写っている。

恰幅の良い体軀に、迷彩柄の軍服姿で、左胸には「U.S.ARMY」、右胸には「RAMOS」(ラモス)と黒い刺繍が施されている。

 申請を承諾した都内在住の独身女性、現在51歳の純子(仮名、苗字表記なしは以下同)は、簡単な挨拶を交わし、年齢や既婚か否かなどの質問に英語で答えた。

 

 相手のラモスは当時51歳で、米イリノイ州シカゴ出身。

妻が出産時に死亡してしまい、どの時に生まれた息子は12歳になり、イギリスの学校に通っていると、その後のメールには説明されていた。

「僕は現在、アフガニスタンに派兵されている。紛争は終結したけど、この国の治安当局を支援する任務に就いています」

 現地の子供たちと一緒に収まった写真も添付され、純子は彼のことを信用してしまった。

 

 翻訳サイトを使いながら数回、メールを重ねるうち、ラモスはこんな言葉を掛けてくるようになった。

 「あなたは私の人生に突如として飛び込んで来た天使のようだ。私たちに幸福をもたらすために、何でもする覚悟はできている。あなたへの愛を阻止するものはもはや何もない」

 メールの最後には、色鮮やかな花束の写真。

続くラモスからの返信は、愛情表現がさらにエスカレートしていく。

 「私はあなたを永遠に愛する。妻になって欲しい」

 「ハニー、あなたと一緒に甘い一時を過ごしたい」

 「星を見ながら、あなたの顔を思い浮かべている」

 

 純子はその時、無職の身。

職探しは行き詰まり、都内にある家賃5万5000円のアパートで1人暮らしを続けていた。

空虚な毎日に、今後の生活を考えると募るのは不安ばかり。

そんな矢先に訪れた僥倖だった。

 

 だが、時間を追う毎にラモスの態度は徐々に変わっていく---。

 

 

「メールは内密に」

 

 新型コロナウイルスの影響により、職場や飲み会などでリモート化が進んでいる。

こと恋愛においてもマッチングアプリを多用するなど同様の傾向が見られる。

 それは確かに便利ではある。しかし利便性の裏には常にリスクがついて回るものだ。

 

 都内の喫茶店で取材に応じた純子は、細身で背が高く、控え目な感じの女性だった。

どんな細かい質問にも素直に答え、人の好さがにじみ出ている。

好すぎると言ったほうが正確かもしれない。

 

 そんな純子は、ラモスとメール交換していた当時の心境を、はにかみながらこう振り返った。

 「何かにすがるものがなかった私は、本当に信じ込んでしまいました。こんなに私のことを思っているんだと、優しい言葉の数々に救われたんです。目の前にハートマークがたくさん飛んでいましたね。今まで『I LOVE YOU』とか情熱的に言われたことがなかったので。日本の男性はそんなことを言ってくれないですよね?その落差にハマりました」

 

 途中、電話で声を聞きたいとか相手の映像を観たいといった考えには及ばず、返信メールが届くだけで嬉し涙を流し、舞い上がっていたという。しかし、友達申請を受けてから約1カ月後、ラモスからの返信内容に微妙な変化が生じる。

 

 「愛しの純子へ これから送るメールは内密にして欲しい」

 こんな書き出しで始まったメールは、ラモスが米軍を近く退役し、生涯のパートナーとして、純子に会うために来日すると綴られていた。その際米軍は、給付金を支払うことになっているが、ラモスの口座が凍結されているため、振り込みができない。そこで現金を管理するため純子に送りたいと言い出し、ラモスの「代理」の米国人男性からメールが届くようになった。

 

 その代理人は、「エジプト航空と国連の関係機関で働いている」と言い、パスポートの写真も送ってきた。

 「ラモスから、"荷物″(現金の意)を預かっている。それを日本に届けるため、インドを経由した。ところが税関で必要証書を取得しなければならず、手数料が3850ドル(約41万円)かかる。それを支払ってくれば、すぐに日本へ届ける」

 

 金の話が飛び出したため、不審に感じた純子は「返答を1日待って欲しい」と返信。家族に相談してまで工面しようとしたが、さすがに慎重になってさらに1週間の延期を伝えると、代理人は支払いの催促をしてきた。ここでラモスからさらなる愛のメッセージが届く。

 「私のために尽くしてくれてありがとう。あなたは私の人生で重要な役割を果たしている」

 「インドの税関で保管されている荷物が心配だ。私は税関を信用していない」

 

 それでも支払いをためらった純子がネットで検索をすると、同様の手口による国際詐欺案件がヒット。疑いを強めた純子が「騙しているの?」と問い詰めると、「そんなわけないだろう。どうして信じないのか?」とラモスは怒ったように否定した。だが、不信感は拭えなかった。

 

 すべては金のために弄ばれていたのか---。傷ついた純子は最後にこう吐き捨てた。

 「あなたは詐欺師ね。あなたとの疑似恋愛を楽しめて良かったわ。Bye!」

 以降はラモスのアカウントが閉鎖され、音信不通になった。純子は金銭的被害こそ免れたものの、「好きな人に裏切られた」という精神的ダメージからしばらく立ち直れなかった。

 

 これは「国際ロマンス詐欺」と呼ばれる。

独立行政法人国民生活センターが今年2月に公表した資料によると、SNSやマッチングアプリなどインターネットで知り合った外国人と親しく連絡を取り合ううち、送金を迫られる詐欺被害のことだ。

  

 同センターに寄せられる相談は年間10件程度にとどまっていが、後で触れるように水面下では少なくとも何百件という単位で国際ロマンス詐欺が発生しており、新聞やテレビでも特集として取り上げられるなど被害は深刻化している。中には数百万円、多い額で5400万円という被害額が報告されている。

 しかも日本の警察へ届け出ても、犯人が海外にいる以上、多くの場合泣き寝入りするしかないのが実情という。

 

 手口の中で多いのが、純子のケースのように、荷物等を送るので代わりに受け取って欲しいと言われ、通関料などを請求されるパターンだ。

 被害者に支払わせるため、犯行グループは話の中で、生死にかかわる事故、窮地に立たされる事件に巻き込まれるなどの緊急性を装い、被害者に考える猶予を与えないのも特徴だ。

 

 犯人のプロフィール写真は、犯人がネットから引っ張ってきた別人で、被害者が実際にやり取りをしている相手ではない。写真は実在する人物で、端整な顔立ちをした欧米系の白人男性が多いが、中にはアジア系も含まれる。職業は軍人、医師、ジャーナリスト、実業家などだ。

 

 詐欺撲滅を目指して活動するサイト「ストップ!国際ロマンス詐欺」を運営する新川てるえ氏が解説する。

 「犯人は、ナイジェリアやガーナなど西アフリカを舞台にグループで活動しています。写真を盗んで偽のプロフィールを作り、それを信じさせるために偽造した身分証明書を見せたり、電話で話をしたりもします。最初は気軽にコンタクトを取ってきますが、次第に被害者心理を操ってマインドコントロールしてくるのです」

 

 日本貿易振興機構(JETRO)などによると、この手の犯罪は、1980年代にナイジェリアを舞台に世界的に広がり、同国の刑法419条に抵触することから「419詐欺」と呼ばれた。当時の連絡手段は手紙や電話が中心だったが、近年はSNSやメールへと多様化している。

 

 被害の実態を新川氏が調査したところ、次のような属性が浮かび上がった。

 「被害者は中年層に集中」