脳内麻薬の続きを書きます。
前回の記事はこちらです。
[回想]
アンボワーズ城で育ったシャルルは、病弱だったので健康面が最優先された。
知性が低く物覚えが悪かったのでルイ11世は教育において熱心に時間を割けなかったようだ。猜疑心の強い父はアンボワーズ城を訪れる回数も少なかったようである。父のもとに届く監視係からの知らせは主に健康状態の報告だった。それ故に教育面に関しては万全ではなかったようだ。
「また負けた…強すぎる…。まだ一度も姉上に勝ったことがない
」
「お前がわざと負けてどうする?自分で学ばなければ何の意味もない。儂はシャルルが策謀の士になることを望んでおる!」
『頭使うの苦手。僕はフィリップ・オーギュスト(フィリップ2世)じゃないから無理だよ、馬鹿だから。向いてない…やだ…謀略嫌いだ…
』
才能が開花し謀略の天才になったのは姉だった。
自制心と冷徹さを兼ね備えた彼女は父から最も信頼された。
女性を軽視する父が認めた女性…それは姉が実力で勝ち取った称号だ。シャルルは父の愛を独占する姉を邪魔したくはなかった。
シャルルにとってアンボワーズ城での生活は、身体の休息には良かったが、精神的にはとても安らぎを与えるものではなかった。常に監視がつけられるし自由もない。体が弱く、そんな自分が嫌になる。父のせいで強制的に育児放棄する羽目になった母親の必死の懇願で、ようやく家庭教師が派遣されて読み書きを勉強することになったが、息子の行く末を心配する母でさえも息子のことを賢いとは決して言わなかった。
それだけ出来が悪かったということなのか…。
(どうしよう…興味のない本は全然読まないし、字もミミズの這ったような字だし、この子、王になったら本当に大丈夫かしら…)
知能が低いことも体が弱いことも根本的な原因は近親婚の繰り返しにあります。
シャルルは騎士道物語に没頭した。『ローランの歌』が彼のお気に入りで、次が『薔薇物語』だった。『薔薇物語』は13世紀に書かれた宮廷恋愛の本で、教会からは嫌われていたが、貴族階級を中心に熱狂的な人気を博していた。プレシ・ル・トゥール城から息子に会うために父親が稀に訪ねてきたときに投げかけられた不機嫌な言葉よりも、それらの親しみのある物語の方が、彼の心にずっと語りかけてきたのだ。
しかし、父親も姉も騎士道精神が大嫌いだった。
姉は意中の男性に騎士道精神を向けられれば熱狂的に支持しただろうが、それは実現しなかったので騎士道精神を馬鹿にしていた。
(僕は謀略の才能なんてありませんよ、父上。僕はカール大帝みたいになりたい。夢を追いかけたい…)
シャルルが憧れるカール大帝の真の姿はこういう人物です。
カール大帝は文盲です。ローマ教皇をはじめとする聖職者らにそそのかされ十分の一税を強制させてしまったという汚点があります。
ローマ教会側がこれを巧みに隠すためにカール大帝を神格化させたのです。そうすることで教皇が拠り所としていた「コンスタンティヌスの寄進状」を正当化させることもできます。西洋の君主たちは何も知らずにローマ教会が作り上げたカール大帝という偶像を崇拝していました。
また、カール大帝の父油塗り塗りのピピン3世も文盲であることがわかっています。簒奪王朝の正当化で宗教権威を利用しようと思ったら、教皇に利用されてしまった…それがカール大帝らのカロリング朝です。
「…とりあえず、読み書きはできるようになったみたいだが…。字が汚いのはまぁ、代筆があるからいいとしてだ…本を読むならば総合医学書だな…」
(はぁ…息子がこんなにも暗愚とは…やはり儂が長生きするしかあるまい。凄腕の占星術師と錬金術師はおらぬかのぅ)
父は気難しく陰険であった。多くの貴族を敵に回していた。滅多に褒めるタイプではなかった。父が息子の心に深い穴をあけたのは間違いないだろう。
ところが父の容態が悪化する。てんかんの発作が頻繁に起こるようになっていた。もう長くはないと悟ったルイ11世は長女を呼んだ。
父亡き後シャルルは13歳で王に即位したが、姉の傀儡となった。
ところが姉はいつまでたっても実権を手放さなかった。とっくに成人して、21歳になってもまだ姉の言いなりだった。21で親政を始めないのは流石に遅い…曾祖父シャルル6世ですら21で親政を始めたのだからそろそろ自立してもいい頃だった。
「私がずっと摂政の座にいる理由はわかる?あなたが頼りないからよ、のろまさん。」
王ではあるのに姉には逆らえない。自分が愚かで姉は優秀。絶対に勝てない相手だった。このまま一生操り人形なのか?
1488年、フランスとブルターニュが休戦中の最中、シャルル8世はローマ教皇の追手に追われパリのヴァセンヌ城に幽閉された一人の人文学者を解放した。そんな人文学者が確かこんなことを言っていた。
「人間とは小さな宇宙なのです。自由意思によって獣のようにもなることもできれば、神のようになることもできる無限の可能性を秘めています。」
シャルルは親政を始めるにあたって、決定的に欠けているものはわかっていた…それは自信だった。
厳格な父親と高圧的な姉のせいで自信が持てないシャルルにとってあらゆる助けが必要だったのだ。21のこの歳になっても。
しかし、シャルルは姉に唯一対抗できる女性が目の前にいることに気づいていたのだ。それがアンヌ・ド・ブルターニュだった。
揺るぎない自信というのは、彼が21年間一度も持ったことのないものだった。
彼女はシャルルの心の闇の深さが一瞬見えた気がした。心の中の悲鳴がアンヌを捉えて離さなかった。
彼女は悟った。彼をこの闇から救えるのは今自分しかいないのだと。彼に幸せをもたらし、良き王にさせることができるのは自分だけなのだということを。
彼女は決意する。
アンヌは悪魔術をかけられます。
「何を言っているの、シャルル。私はもうあなたの妻です。あなたを助けるのも妻の役目。私があなたを変えてあげる。」
シャルルは歓喜した。
「では今宵は君の身体とそれからこの身が朽ち果てるその日まで、君の信頼を俺にください
」
どうやら結婚初夜はお互いに満足したようである。
シャルルはアンヌに溺れていく…。
これは、最悪の最悪のパターンです。
1491年12月6日…結婚初夜
シャルル8世 ← 邪気 どっぷりとアンヌに依存
二村さんの『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』のP134、7-2「何のためにセックスをするのか」に大事なことが書いてあります。
セックスというのは、ただ体が接触するだけではなく「心の穴に触ってもらえて、それを一瞬ふさぐことができたような気がする」ことです。
その相手が、理想の女性であり惚れた女性でもあるのならどうでしょうか?脳内麻薬がバンバン出ているのは言うまでもないでしょう。
シャルル8世の頭の中を再現しました。キモイ絵になっちゃいましたけど。
波動を感知できる方は確認してみてください。
フワフワ~とした体感になっているはずです。これが脳内麻薬なんです。
寝室に配置された6人の証人たちは朝まで持ち場に留まり、その後、あまりにも下品な報告書を提出したため、アンヌ・ド・ボージューは圧倒された。
歴史家たちはこの報告を公表する勇気がなかった。
アンヌ・ド・ブルターニュなんですけど、両親に愛されて育っています。特に父親です。家庭教師との信頼関係も抜群で、良き相談相手だったようです。ただ心の穴をあけない親はいないので、心の穴は開いています。小さめの穴ですが。
一方シャルル8世は心の穴が大きすぎて重症なのです。
2人は正反対と言ってもいいのです。
通常なら、アンヌはシャルルに惹かれることはありません。相手にもしないでしょう。ですが、それを揺さぶることがもう既に対面の際に起きていますね。
逃げ道をすべて塞がれています。選択の余地がもうないのです。
アンヌを使って一発逆転とでも思ったのでしょうか、この王は。
二村さんの本の9-3『「甘やかすこと」と「受容すること」は、ちがう』にダメなカップル3パターンが出ています。アンヌとシャルルの場合、③の「愛そうとする女と、乗り越えようとする男」の恋愛に該当します。
アンヌが死んでもゲームオーバーでブルターニュの決定的な敗北である。
絶対に逃れることのできない悪魔術をかけられつづけて、ただただ生きるための選択を選ぶアンヌであった。
続きます。
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