アマプラ謎のチョ・ソンギュ監督特集を続けますが…この監督にしては珍しいサスペンス・スリラーなんですが、果たして映画職人の腕が発揮できているんでしょうか…「失踪2」

 

草木の生い茂る山中をリュックを背負った登山服姿のソニョンが必死の形相で逃げている…ソニョンは今日もアウトドア・メーカーの就職面接だ。面接官の反応はいま一つだが、ソニョンは韓国の山の高さを次々と諳んじてみせて必死だ。帰り路に病院に寄るが、医師からこれ以上治療費の滞納が続くと治療を打ち切ると責められる。姉が交通事故で全身麻痺なのだ。家に辿り着くと人相の悪い男が待っている。借金の取り立てだ。男は勝手に上がり込み、風俗で働けだの、麻痺で寝たきりの姉に不届きに及ぼうとするなどやりたい放題だ。耐え切れなくなったソニョンは包丁を手にする…薄暗い倉庫でブンダン(盆唐:ソウルの隣接地域)署の刑事ソンホンが若い男を殴りつけている。山分けするはずの大金を持って逃げたチャンの行方を吐かせようとしているのだ。そこへ電話が入る。アメリカに留学中の娘だ。母親に変わると”頼んでいた5万$を早く送れ”と矢の催促だ。ソンホンは”ギロ(雁)アッパ”なのだ。やがて耐え切れなくなった男は”ウォルタ山にいる”と白状する…ウォルタ山の山道をドライブする男女がいる。伸び悩む若手俳優アジンと所属会社の妖艶なユン代表だが、マスコミの目を避けて逢引するためだ。ユン代表はヤク中だったアジンを俳優に育てた恩人だが、アジンは他の若手の台頭もあって不満が多い。やがて口論が始まって…ウォルタ山入山管理所前。あのアウトドア・メーカー役員の前に大きなリュックを背負ったソニョンを含む若い男女5人が集まる。例の入社試験の登山選抜試験で、どうやら選抜基準は登頂時間だけではなさそうだ。やがて6人はウォルタ山腹の寺院ソンウン庵を目指して山に入っていく…

 

麻痺の姉を抱え借金に苦しみ入社試験に邁進するソニョンに、かつてのビジュアル系ガールズグループの代表格<T-ara>初代リーダー美形ハム・ウンジョン、大金を持ち逃げした男を必死で捜すブンダン(盆唐)署の悪徳刑事ソンホンに、90年代からあの度迫力の顔と図体で活躍する名脇役イ・ウォンジョン、焦る若手俳優アジンに、「サヨナラの伝え方」「長い一日」などチョ・ソンギュ監督お気に入りなんでしょう本来は爽やか系二枚目ソ・ジュニョン、アジン所属会社ユン代表に、「長い一日」にも登場昔から応援するキム・ヘナ。

 

まずはこの映画の良い所を二つ。一つ、序盤が巧い。全く無関係の三人が様々な思惑や動機を抱えてウォルタ山に集まってくるつかみ部分はさすがで、サスペンス映画の序章としては期待を否が応でも高めていきます。上に書いた”つかみ”では表せていませんが三つのエピソードをカットバックしてこれから起きる悲劇の背景を巧みに観客に擦り込んでいると思います。二つ。終盤の展開が巧い。密室三人劇といえば天才パク・フンジョン「血闘」に尽きると思いますが、そこまでいかなくても美女・二枚目・巨漢”三人”の生み出す緊張感はなかなかです。とまぁ企画はさすが映画職人と思う部分もありはしますが、正直、曖昧な作風が魅力の監督は、綿密な論理性が必要なサスペンス・スリラーにはちょっと不向きか、というところです。男女模様とか映画論とかグルメならOKでしょうが、どうも犯罪劇としては不自然な挙動や不可解な台詞が多い感じが否めません。このジャンルには合わない監督かもしれないなぁ、といったところです。

 

とはいえ、元アイドル美形ハム・ウンジョンのスリラー演技、イ・ウォンジョンのド迫力(二枚目ソ・ジュニョンの悪役ぶりはちょっと無理無理感あり)を見逃すのは惜しい気がしますし、ウォルタ山という山を密室に仕立てる辺りを楽しむ観客も少なからずいるかもしれませんが、曖昧さや不条理を得意とするチョ・ソンギュ監督好きも、本格的なサスペンス・スリラー好きも、共に、一定の距離を置いた方が良いように感じます。個人的には、巧く並び立っているとは思えないわけです。

 

ちなみに、タイトルが「失踪2」となっていますが、じゃあ「失踪1」は何処にあるんだろうか、と探しましたがなかなか見つかりません。そしてNaverで見つけたいくつかの”紹介記事”によると、2009年「失踪」をオリジナルとしているようです。ムン・ソングンという大名優を主演とした猟奇スリラーなんですが、チョ・ソンギュ監督とは縁も所縁も見つかりませんし、スリラー好きとして、片や猟奇系、片や密室系、と全然違うジャンルに属していると感じられるので、ここも今一つ納得感の得られない所だったりします。