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勢いでもう一本ムン・ソングン主演作品、強烈な猟奇サスペンス、「失踪」。

女優の卵ヒョナは役を得ようと監督のソンとドライブ中で、鄙びた山里にある古い鶏農家へ立ち寄る。小さなアパレルを営む姉ヒョンジョンは、無断外泊した妹ヒョナに怒って携帯を鳴らすが、妹は「ヤンピョン(楊平)の近くに友だちと鶏の水炊きを食べに来ている」と弁解する。鶏農家の主人パンゴンは、飼料を運ぶのを手伝って欲しいと、ソン監督を納屋に連れて行くと、突然、飼料を運ぶ彼の首を後ろから針金で絞め上げる。そして、監督を捜しにきたヒョナの目の前でシャベルを彼の頭に振り下ろして止めを刺し、恐怖で立ちすくむヒョナをクロロホルムで眠らせる。気がつくと、ヒョナは広い納屋に置かれた犬小屋の中に閉じ込められている。やがてパンゴンが現れ、彼女にマッチを一箱渡すと、納屋を真っ暗闇にして出て行く…一方ヒョンジョンは妹の失踪に気づき、最後の電話を手がかりにソルソン(雪城)派出所へやって来るが、所長に取り合ってもらえず…

冷血低俗サイコの鶏農家パンゴンに、韓国映画界の重鎮ムン・ソングン、アパレル経営の姉ヒョンジョンに、「死生決断」「美人図」などの正統派美形チュ・ジャヒョン、女優の卵の妹ヒョナに、妖艶な役が多いスタイル抜群チョン・セホン、タバンホステスのミジャに、キュートなファン・ウンジョン、パンゴンの母に、迫力のソン・ヨンスン。

言葉を選ばずに云えば、「殺人の追憶」にエロ・グロ要素をふんだんにつぎ込んだ、って感じでしょう。シナリオはしっかりしています。ポルノまがいの序盤、姉が登場してサスペンスと猟奇が交錯する中盤、スプラッター全開の終盤、と色合いもはっきりしていて、その手のB級映画好きには、ちゃんとした作りになっていると思います。特に舞台が見事で、平飼いの養鶏場、家畜用粉砕機、養犬場、などの極めて土俗的な舞台は、こういうサイコ・サスペンスにとっては実に当を得たものになっているでしょう。犬商人、タバンのホステス、欲望あらわな警官、寝たきりの老婆、などという登場人物の配置も、この手の物語としては上出来だと思います。それにしても、ムン・ソングンほどの役者がこの役を選んだことは、かなり意外です。冷酷なヤクザ役とか俗物なインテリ役とか30本近くは観てるでしょうが、記憶にある限りサイコ役は初めてです。やはり一度は演じてみたい役柄なのかもしれません。勿論、クールでタフな女主人公を演じるチュ・ジャヒョンの魅力も忘れてはなりません。そして映画美術として、主な舞台となる養鶏農家の、殺伐としていながらも猟奇的な事件にそぐわない牧歌的な佇まいも作品の価値に大いに貢献しているでしょう。

家畜や堆肥の匂いが充満し、エロ・猟奇・スプラッターが渾然となる作品に共感する観客がそんなに多いとも思えませんが、個人的には、上出来猟奇サスペンスだと思います。理由は全く想像できませんが日本版DVDも出ているので、気軽に試してみることが可能です。が、決して、お薦めしているわけではありません、念のため…