イ・ソムのデビュー作を探していてAmzonPrimeのチャンネル”Channel K”に行きついたのですが、そこには「2つの恋愛」「サヨナラの伝え方」という癖のある映画を撮ったチョ・ソンギュ監督のインディーズ風作品が並んでいて驚いた次第です。ますます”100選”は遠のきますが彼の作品を…量子論で重要な物理定数をタイトルにして、「エヴエヴ」で話題となったマルチバース、多次元時空間に想像力を掻き立てられ作った、みたいに冒頭に掲げられますが、要するに下半身系シュール・ギャグ・オムニバスでしょう…「プランク定数」

 

【ep.1 1mm】美容室。キム・ウジュ(宇宙)は美しいシャンプー担当に連れられシャンプー・ブースに向かう。彼の視線は彼女の極端に短いタイトスカートとそこから伸びる美しい脚にくぎ付けだ。彼女にシャンプーされながら彼の魂は虚空を彷徨う…【ep.2 Refill(お代わり)】洒落たカフェ。ウジュはPCを開き”1mm”のラストを読み直す。美しいスタッフにアイスアメリカーノを注文するが、彼女の美しい容姿はまたもキム・ウジュを妖しい異次元空間へと誘う…【ep.3 Seat(座席)】映画館では映画”Refill"の上映が終わり”The End"マークが流れる。ウジュがロビーに出ると、そこでは女流監督が求められたサインに応じている…【ep.4 冬山】映画の上映が始まると何故かウジュは主演男優として全羅北道ワンジュ(完州)仏明(プルミョン)山にある華岩(ファアム)寺を目指して山道を登っている。そして美しい女性と道連れになって…【Epilogue】始まったのはTVショッピングなのだが…

 

主演キム・ウジュに、監督作「2つの恋愛」でも主演を務めた二枚目キム・ジェウク、<以下は殆ど初めての俳優ばかりなので名前だけ>【ep.1】妖艶なシャンプー担当に、キム・ジユ、【ep.2】美しいカフェ店員に、チン・アルム、【ep.3】女流監督に、チョン・ウォン、劇場スタッフに、イ・セビョル(「フランス映画のように」でもキュートさが光ってたような…)。

 

”プランク定数”という量子論のアイテムを題名にしているからには高尚な文芸系かと思い最初に手に取ったわけですが、要するに、主人公ウジュ、つまりチョ・ソンギュ監督のいかがわしい下半身系妄想のマルチバースを彷徨うだけの作品だった、というオチです。この監督の作品はともかく一筋縄で理解できない凄まじい癖球を投げてくるわけですが、本作はその最たるものでしょう。とはいえ洒落ていると感じることもないわけではありません。エピソード間に論理的な整合性があるようには見えませんが、劇中の女流監督の言葉にあるように”メビウスの輪”的に裏になり表になりながら物語を進める辺りは巧いといえるかもしれませんし、全編をビバルディ”四季”の様々楽章を使い分け彩る辺りも良く考えられているともいえるでしょう。

 

だからといって、公式観客数592人という実力を甘く見てはいけないと思われます。たまたま”Channel K”の無料体験期間中だったので何とか無事に観終わりましたが、そうでなければどんな悲劇が起きたか、想像するだに恐ろしい、といったところかもしれません。十二分にご留意願います。

 

ちなみに、【ep.2】で主人公が女子高生と奪い合いになるDVDは、「愛おしき隣人」という2007年ロイ・アンダーソン監督のスウェーデン映画です。また映画の台詞に”小説「ダメージ」のスティーブン”というのが出てきますがジョゼフィン・ハートの小説で翌年ルイ・マルが映画化した作品のことなんだろうと思います。不倫のお話だそうです。