ちょっとK-POPアイドル追っかけブログみたいになってますがめげずに<KARA>からもう一本…旅情タップリの江陵(カンヌン)を舞台に今カノと元カノに翻弄される情けない男を描いて秀作…「2つの恋愛」

 

脚本家ユンジュは事務所の資料棚から日本の雑誌を手に取る。そこには恋人の監督インソンのインタビュー記事が出ている。そこへインソンが現れ飯に誘う。メウンタンをつつきながらインソンは、早く自分の脚本を書いてくれ、と頼みこむが、ユンジュは週明け締め切りのキム社長からの依頼脚本の結末が決まらず苦しんでいる。しかも今夜そのキム社長との会食なのだ。そんなインソンの携帯に日本語テキストが届く。元カノの在日二世ミナで週末の江陵(カンヌン)への取材旅行のアテンドを頼まれているのだ。インソンは「宿はこちらで準備する」と日本語で返す。脚本に苦しむユンジュには、一人で江陵(カンヌン)へ行く、と嘘をついている。翌日、空港でミナをピックアップし、インソンは江陵(カンヌン)へ車を走らせる。宿は、元両班(ヤンバン)の屋敷だという古めかしい風情だ。こうして元カノとの取材旅行が始まるが、思いもよらぬ事態に陥ることを、インソンはまだ知らない…

 

映画監督チョ・インソンに、「アンティーク」での奔放なゲイ役が印象的な芸達者二枚目キム・ジェウク、今カノのシナリオ作家チョン・ユンジュに、2000年代に主演作たくさん松嶋菜々子似の相当な美形チェ・ジョンアン、雑誌記者で在日二世ミナに、<KARA>リーダー正統派美形パク・キュリ、古民家ゲストハウス主人チフンに、硬軟自在ペク・トビン、メウンタン屋女主に、いつも笑える芸達者イ・ボンリョン。

 

正直、中盤までは、リタイアも考えるほどつまらない、と観てましたが、ところがある事柄が起きてからは俄然輝きだし、クスクス、ニヤニヤが止まらない、という変化球作品だったわけです。改めて考えなおすと、前半のダラダラした酒食と会話はあのホン・サンス作品を思い出させますし、後半は、言い過ぎでしょうが、シェークピア恋愛軽喜劇のような面持ちだと思えたりします。巧いと思います。監督は、後にやはりキュリ主演で甘ったるい猫映画に見せかけて実は…という「サヨナラの伝え方」という逸品を撮ることになるチョ・ソンギュですが、またもや騙されたわけです。つまらない前半にばらまかれた、越後湯沢、日本語、ホンオ(臭い発酵魚)、骨董鍵、”魂の年齢”、とかの伏線が後半で光り輝くのは魔法を見るように爽快だったりします。役者陣も好感です。”甘ったるい役柄”との予想を跳ね除け、いつも辛口チェ・ジョンアン、ちょっとした”棘”を隠し持つパク・キュリ、オタオタ右往左往二枚目キム・ジェウクが光ってますし、すっとぼけたペク・トビン、笑えるイ・ボンリョンが良い隠し味になっているでしょう。

 

逆にいうと”お洒落”なロマンスを期待すると激しく裏切られるということなるわけで、その辺りは気をつけた方が良いでしょう。余りの意外感に、前半ホン・サンス、後半シェークスピアの五つ星、との思いもよぎりましたが、ちょっと買い被りのような気もして思い直します。でも、辛口好きの観客には心地よい映画だと思います。

 

ちなみに、キム・ジェウクとパク・キュリの会話の8割は日本語ですが、見事です。キム・ジェウクは幼い頃に韓国語より日本語を先に覚えたという育ち方ですし、パク・キュリは日本進出を果たし映画の4年前には『URAKARA』(結構熱中しました)という日本ドラマにも出ていたので納得です。ただ、パク・キュリが日本語ネイティブ、という設定は若干無理があるかもしれません。

 

恋愛に関する名台詞が盛りだくさんですが一つだけ。辛口脚本家チェ・ジョンアン曰く、「恋愛は蜃気楼だ。諦めれば近づいてきて、手を伸ばせば逃げる」。なるほど…

 

楽曲では、エンドクレジットで流れる曲は主演パク・キュリの歌う「春の雪(봄눈)」。物語の辛口な後味を洗い流す爽やかなバラードになっています。