イム・スジョンのポスターが出てきたので…独身主義の二枚目エッセイ作家と小さな出版社の編集者が出会って、みたいなラブコメの名編…「シングル・イン・ソウル」

 

製本工場。次々と作られていく本を愛おしそうに眺めるのは小さな出版社で編集を担当するホン・ヒョンジンだ。すると携帯が鳴る。代表(社長)からだ。出版社に戻ると代表はまた緊急事態だと言う。健康本の作家は病気になり、法律本の作家は詐欺に遭い、今度は妊娠だ。彼らはソウル、バルセロナ、ニューヨークに住む都会の孤高を楽しむ作家に依頼して”都会の独身(Single in the City)"シリーズというエッセイを刊行しているのだが、ソウル担当の女流作家が妊娠したのだ…都心の進学塾では、二枚目パク・ヨンホがエッセイの読み書きを教えている。女子生徒の憧れの的だが、生徒や同僚の誘いも断りさっさと帰宅する。彼の部屋は、愛猫を筆頭に、好きな本、レコード、カメラなどで溢れている。他人との関係を断ち、すべてを自分に注ぐ孤高を楽しむ独身主義者なのだ…代表は彼のSNSを読み”シングル・イン・ソウル”を書かせてはどうか、とヒョンジンたちに提案する。ヒョンジンは彼の文章を見て”ナルシストで友達がいないだろう”と辛辣だ。しかし彼女の背後にはそのパク・ヨンホが立っている。”その通りだ”と不機嫌そうだ。こうして二人は出会い、新章”シングル・イン・ソウル”が始まったのだ…

 

進学塾でエッセイの読み書きを教えながら作家を志望する二枚目独身主義者パク・ヨンホに、「その男の本,198ページ」「テンジャン」など文芸小品で光るイ・ドンウク、小さな出版社で”都会の独身(Single in the City)"シリーズを担当する編集長ホン・ヒョンジンに、デビュー20年を超え「蜘蛛の巣」などますます光るイム・スジョン、ヨンホの初恋の相手ジュオクに、彼女も「小公女」「幽霊」など渋い役で光る長身美形イ・ソム、出版社の代表(社長)ジンピョに、文芸作品を得意とする演技派チャン・ヒョンソン、編集者を辞め本と花を売る”ノッティングヒル”を営むヒョンジンの先輩ギョンアに、演技派脇役キム・ジヨン、編集スタッフのウンジョンに、個性派脇役イ・ミド、劇中見事な弾き語りを聞かせる同じくビョンスに、なるほどミュージカルが本業イ・サンイ。友情出演では、本屋に勤める二枚目ソヌに、何とユン・ゲサン、自作を読み聞かせるオ詩人に、今や主演格チョ・ダルファン。

 

どう見てもありふれたボーイ・ミーツ・ガール系ラブコメではありますが、”小粋”というのがぴったりはまり好感です。序盤から中盤は、性格の異なる二人の関係を見事な撮影によるソウルを背景としてスタイリッシュに描きますが、さすがに既視感は拭えません。しかし中盤ヨンホの初恋相手ジュオクが登場することで、いわゆる三角関係ラブコメとはちょっと異なる香り高い世界観を見せてお気に入りだったりします。周辺人物の描き方もきっちりしていて、親友や編集スタッフ連中も結構キャラが立ってしますし、後で書きますが、小道具たちも洒落ていて心地よい語り口だと思います。何より、イム・スジョンのだらしない本好きというインテリな人物造型は物語に良く馴染んでいるでしょう。

 

残念ながら130万人という損益分岐点に対し40万人程度の集客なので今は赤字ですが、媒体や配信で充分元を取っていくんだろう、と想像させる出来栄えだと思います。ただ、イム・スジョンという逸材に多少の思い入れがないと、キャストに韓流的華やかさが乏しかったりするので、観る観ないはよおく考えてからにした方が無難なのかもしれません。

 

物語を彩る背景について。楽曲では、ヒョンジンがヨンホの部屋でかけるレコードは、キム・ヒョンチョル(김현철)1989年「ひさしぶり(오랜만에)」、編集部員ビョンスが即興で弾き語るのは、ヒョクス役イ・サンイが見事に歌う男女デュオAKMU(악동 뮤지션(楽道ミュージシャン))2017年「遠い日、遠い夜(오랜 날 오랜밤)」、エンディングテーマは、恐らく本作オリジナルで男四人組<Rooftop Patio>「シングル・ロマンス(신글 로맨스)、心地よい選曲です。書籍では、ヨンホの過去の失恋に重要な役割を果たす二冊の本が、村上春樹「ノルウェイの森(韓国題名:喪失の時代(상실의 시대)」と浦沢直樹の漫画1999年「20世紀少年」第1巻だったりします。映画では、ヨンホが一人部屋で観るのはお気に入り「陽が西から昇ったら(해가 서쪽에서 뜬다면)」で警官姿で必死に走っているのはイム・チャンジョンです。

 

ついでにお気に入りのシーンを…出版には校正がつきものですが、ヒョンジンがヨンホの原稿を見て「一人でも(혼자라도)」に赤を入れて「一人(でいること)で(혼자라서)」と直す場面はかなり効いてたりします。