”YouTubeで観る韓国映画100選”に戻って第6弾は、異才キム・ギヨン監督作…船上から消えた新聞記者の謎を追う二人の男を通じて描かれるエロスと神秘に満ちたミステリーの問題作…「イオド(異魚島)」

 

済州島に近いある小さな島に元観光会社の男ソン・ウヒョンが上陸する。今では、殆ど無人島だ。小高い丘の上にポツンと建つ小屋を訪ねると老婆が出てくる。男があの女の行方を聞くと、今は海に行っていて間もなく戻ると言う。男は海を見下ろしながら4年前の悪夢のような出来事を思い出す…ウヒョンは済州島に「イオド(異魚島)」という伝承の島の名を冠したホテルを作る観光会社の企画部長だ。会社はホテルの宣伝のため得意先を集め済州島の周遊航海を催すことにする。船が出航するとウヒョンは、只の周遊ではなく本物の「イオド(異魚島)」を探しに行くのだと乗船客にサプライズを発表する。すると猛烈に抗議する男が現れる。新聞”済州日報”のチョン・ナムソク記者だ。「イオド(異魚島)」は男たちを海に引きずり込み、皆死ぬ、と騒ぐ。ウヒョンはナムソクと夜遅くまで飲み比べをすることになるが、航路が霧に覆われ舵が重くなってきた深夜突然ナムソクの姿が消える。警察に殺人の容疑をかけられたウヒョンは会社を馘首になり”済州日報”に怒鳴り込みに行くが、編集長と一緒に彼の死の経緯を調べに行くことになる。二人は失踪海域に近いナムソク出身の小さな島へ向かい色々な人物に聞き回るのだが、そこで明らかになってきたのは…

 

橙色のチマ姿が眩しい謎の酌婦に、この後2019年「ラブ・アゲイン」まで活躍する極めて現代的な美貌イ・ファシ、事件に巻き込まれる観光会社企画部長ソン・ウヒョンに、若い頃の原田芳雄によく似たキム・ギヨン監督ご用達の二枚目キム・ジョンチョル、欲深い巫女に、2016年「マスター」まで活躍するこの頃からお母さん女優パク・チョンジャ、新聞”済州日報”ヤン編集長に、”100選”常連の貫禄脇役パク・アム、事件の中心人物で呪われた島のチョン家出身”済州日報”チョン・ナムソク記者に、是非観なければならない「エマ(愛麻)夫人」準主役などのチェ・ユンソク、ナムソクの父親に、一昨年の「オマージュ」でも健在お馴染みユ・スンチョル。

 

ここでも「下女」「高麗葬」を取り上げてきた韓国映画界の怪物とも呼ばれるキム・ギヨン監督作品ですが、表向きは、きちんとしたストーリー展開と良く練られた時制の使い方など松本清張を思い出させる本格的なミステリー構造から、知らず知らずのうちに引き込まれていきますが、終盤はやはりとんでもない暗黒面を見せる、という逸品だと思います。とにかく終盤に至るまでの語り口は見事で、海に消えた新聞記者、”アマゾネス”のような女(海女)ばかり(観念的な意味合いで)の島、島を支配するシャーマニズム、海で働く男たちを”イオド(異魚島)”に連れ去る海の妖魔伝承、謎の美しい酌婦、さらには海洋汚染問題まで多彩に描く巧みな脚本を美しく荒々しい済州島の絶景の中に描くキム・ギヨン監督は正統派監督としての腕前も確かだと思います。そして終盤、全ての物語がきちんとつながりはしますが、それは尋常ではない性描写とおどろおどろしい殺人で彩られている、という監督の本領が発揮されるわけです。個人的な推量ですが、このため、多数の韓国古典映画作品をYouTube公開するKMDbが運営する”韓国古典映画(한국고전영화 Korean Classic Film)”もさすがにYouTube公開を断念したんだろう、と思えるほどです。

 

一部のとんでもなく苛烈な描写を除きさえすれば、濃密なエロティシズムと神秘的なシャーマニズニに彩られた本格社会派ミステリー、と呼んでも許され、一度観てみては…とお薦めしても叱られない可能性は高いように思えます。キム・ギヨン監督の映画に込めた重苦しい怨念が、現代韓国映画へとDNAとして確実に受け継がれていることが実感できるかもしれません。ついでにいえば、最近まで活躍するイ・ファシの現代的で謎めいた美貌も相当に価値あり、でしょう。ちなみに、左側のポスターは昨年開催された「ソウル国際環境映画祭」でのリバイバル上映時のものですが、イ・ファシのシャープな美貌が綺麗にリペアされています。

 

【YouTube】Iodo (Io Island) / 이어도 (1977)<returninghitchhiker>(英字幕付き)