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500万人を集め、百想・大鐘を連覇した今年最大の注目作、「追撃者」。

ポドバン(日本で云うデリヘル)を営む元刑事は、店の出張嬢が立て続けに消え窮地に陥っているが、今夜も、幼い娘がいる出張嬢を、風邪をおして無理やり出張させる。客の携帯番号が、消えた女性たちを最後に呼んだのと同じ番号であることに気づいた元刑事は、彼女に、着いたら住所をメールするよう伝えるが、その彼女からの連絡も途絶える。マンウォン洞で彼女の車を見つけ、近辺を探していた彼は、接触事故を起こすが、その運転手が血を浴びていることを不振に思い、追跡の末捕まえる。二人が警察署に連行されたところで、その運転手が9人とか12人とかを殺した連続殺人犯であることを告白し始め、署内は大混乱に陥るが、肝心の犯行現場を吐かない。出張嬢がまだ生きていることを信じる元刑事は、独力で探し始めるが…

元刑事に、「天下壮士マドンナ」「タチャ イカサマ師」とかで良い演技は見せてたものの失礼ながら何故主演と訝ってしまったキム・ユンソク、連続殺人犯に、キム・ギドク監督「時間(絶対の愛)」「息(ブレス)」「二番目の愛」など最近立て続けにしかも色とりどりの名演を見せるハ・ジョンウ、監禁される出張嬢に、大ファンのソ・ヨンヒ、その7歳の娘に、「ある日突然2番目の話 四番目の階」「角砂糖」「黄真伊」の名子役キム・ユジョン、先輩刑事に、名脇役チョン・インギ、女刑事に、凡作『エアシティ』で唯一輝いていたキュートなパク・ヒョジュ。

韓国観客の目の高さへの信頼は「D-War」の700万人でかなり揺らぎましたが、この作品が500万人を集めたと聞き、やはり映画を見る目は確かだと思い直しました。素晴らしい出来ばえです。まずはシナリオ。いわゆる倒叙物で、あらかじめ犯人は勿論、監禁場所(マッポ(麻浦)区マンウォン(望遠)洞24-1という住所まで!)が明らかで、しかも目と鼻の先というシチュエーションを使った一晩限りのサスペンスは、必ずしも初物とまでは云えないにしても、驚くべき腕前だと云えるでしょう。そして、人物像と役者。風俗店を営む元刑事というアンチ・ヒーロー像が斬新で、それをキム・ユンシクが目の前にいるかのような凄まじい存在感で演じていて驚嘆しますが、サスペンスのリアリティを保つ上で、スター級の俳優に任せなかったのは大正解だったと思います。一方、ハリウッド映画では何処かカリスマ性のあるサイコパスが多い中、特に頭脳明晰・冷静でもなくただ単に残忍という犯人像も目新しく、しかもハ・ジョンウが余りに日常的に演じているので恐怖が何倍にも感じられたりします。本当に巧い役者です。また、元刑事と一緒に母親を探すことになる7歳の賢く生意気な少女を演じるキム・ユジョンも素晴らしく、特に母親の境遇を察知していく辺りの演技には涙を禁じ得ません。

残念ながら、終盤、多少筆が滑ったかのような部分があったりするので、五つ星にはしませんでしたが、ソウルの夜の闇を上手く使った見事なサイコ・サスペンスと云えるでしょう。

ちなみに、全く個人的感想ですが、この作品、あまりに血なまぐさい原始的な犯罪、不条理な人物像などなど「オールドボーイ」をかなり意識して作られているという印象を持ちます。キム・ユンシクも、途中からチェ・ミンシクに見えたりするんですが、衝撃度は別にすると、こっちの方がはるかに好感度が高い、と思います。