こんばんは、押田です。
日本中で自然災害が多く発生するようになりました。
今年7月から2か月の間に、西日本豪雨災害、先日の関西(大阪)での台風21号の被害や、北海道胆振東部地震・・・
被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
また、埼玉県熊谷市では、この夏41.1℃という観測史上最高気温を更新。
都市部では、ヒートアイランド現象が起こり連日の熱帯夜、また、異常に熱せられた地面からの上昇気流で積乱雲が大きく発達し、各地で突発的にゲリラ豪雨をもたらし、街に洪水が起こる。
自然災害が発生すると、50年に一度の記録的豪雨だとか、地球温暖化、異常気象だから・・・
という言葉で片付けられがちですが、
なぜ起こったのか?これを防ぐにはどうすればよいのか?という事はあまり検証されていません。
また、我々に出来る事はあるのでしょうか。
7月上旬は、西日本を中心に豪雨災害が起こりました。
僕は、大地の再生のメンバーが広島県に在籍していたこともあり、8月1日の夜、重機(ユンボ)を積んで、トラックで走る事12時間、急遽広島へ向かいました。
ニュースでも度々放送されていましたが、今回の西日本豪雨災害は広島、岡山、愛媛、福岡など、西日本の広範囲に及びました。
我々が向かった、広島県呉市安浦町中畑地区は、行政の手が届かず、1ヶ月ほど放置されていた地域でした。
現場に行ってみると、土砂や流木が散乱し、どこから手を付けてよいのか分からない状態。
(一社)大地の再生 結の杜づくり 矢野智徳氏の指示を仰ぎます。
土砂や瓦礫に埋もれてしまった今回の現場。
土砂は1階の上部まで堆積し、泥水が停滞、1ヶ月近くもそのままで、悪臭を放っていました。
重機を使い、土砂を建物際から掻き出していきます。
このような災害現場では、パワーショベル(ユンボ)がとても役に立ちます。
この現場では4台の重機がフル稼働、
埼玉から持参したシートモッコで、何度も土砂を吊り上げました。
2日間で約50㎥ほどの土砂をかき出したでしょうか。
人力では途方に暮れるような作業も、重機がある事で可能になります。
今回被災した民家ですが、家際に植えられていたカイズカイブキの生垣が、土砂やガレキを最後の最後で食い止めていたようです。
もし、生垣がなかったら、被害は大きく拡大していたことでしょう。
さて、今回の災害現場は、集落の上部の山から土砂崩れが起こり、四つのため池が崩壊したという状況でした。
かつては水を抜き定期的に行われていた、ため池の掃除も、水田の利用が減るにつれて、ほとんど行われなくなったそう。
池の底には、土砂が溜り、大地との呼吸も著しく失われてしまったようです。
「昔のため池は青かった(きれいだった)、よく池で泳いで遊んでいた・・・」と矢野氏。
今では考えられないような話しです。
かつてのため池は、適度な緩み(抜き)があり、水の入りと出のバランスが取れていたという。
しかしながら、ダムのように水を満杯まで貯めすぎる現代のため池の構造が、被害を大きくしたのではないか、と矢野氏は推測しています。
ため池が満水になると、周辺の山の土の中にも水が浸み込み、山が保水できる水の量は少なく限られる。
そこに大雨が降る事で、土の中の水分量が飽和状態になり、山が崩れやすくなるという状況。
河川の水を大きく貯めるダムや、谷筋によく見られる砂防ダムなどの構造物があることでも、表面的な水の流れだけでなく、地下の水脈や気脈は大きな滞りを生じます。
自然は空気と水の流れを停滞させる不自然なものを破壊し、流れを円滑にしようと作用します。
それが土砂崩れを起こす事で不自然な地形をリセットし、新たに安定した自然地形をつくる。
また、山から海まで続く、自然の空気と水の流れを止めれば止めるほど、その大きさや力に比例し、崩壊した時のエネルギーは大きくなります。
時より起こる自然災害は、大地の呼吸の滞りを修正する一つのメッセージと捉える事もできます。
北海道厚真町(読売新聞本社へり)9月6日撮影。
北海道胆振東部地震の後の写真です。
地震の影響で、今までに見た事もないような大規模な土砂崩れが起きました。
この山々は、杉やヒノキなどの人工林が多いのでは、という情報がありました。
「早く間伐をしないと、いつかは崩壊する」と言われている人工林の森。
地震の規模の問題もありますが、崩壊しやすい状況をつくってしまった事もあったように思います。
埼玉県毛呂山町、真っ暗で、下草の生えない人工林の森。
僕の母親の実家にも、放置された人工林(ヒノキ林)が5ヘクタールあります。
50~60年前に雑木林(広葉樹林)を開墾し、スギやヒノキを植林したものの、間伐(手入れ)ができなくなり放置された人工林は、林床に光が当たらず、下草も繁茂しません。
このままでは、山の崩壊を待つだけ・・・・
そんな状況を知り、3年前からきらめ樹間伐というのをやってきました。
初めてのきらめ樹作業。ヒノキの皮をむき、立ち枯れさせます、平成27年6月。
1年半が経過、自然乾燥させたヒノキを伐採しました。
弊社社員の濱田君が軽々と丸太を担ぎます(濱田君が怪力という訳ではありません・・・)
自然乾燥させた丸太は、水分が抜け、本来の重さの5分の1程度になるといいます。
しかしながら、このような人工林の山の保水機能は低く、生き物の気配もない。
本当にこの山は再生できるのか?
半信半疑でしたが、とにかくきらめ樹間伐をやり、3年が経過しました。
今年の9月8日(土)、久しぶりに毛呂山を訪れました。
間伐をして、光の当たった空間には、実生の木々や下草が繁茂していました!
アラカシ、モミジ、ヒサカキ・・・
暗い森の中の、まるでオアシスのような光景でした。
多様な樹木が成長することで、森は本来の保水機能を取り戻し、土砂災害にも強くなっていきます。
また、山里周辺のイノシシ被害で悩む農家にとっても、餌を供給する本来の森に戻してあげる事で、問題は解決するのかと思います。
また、伐採した丸太は、菜園の土留めにしたり、丸太小屋の柱にしたり、製材しウッドフェンスにしたり・・・
造園工事の中で、様々な使い道があります。
そう考えると、この人工林は宝の山、造園資材の宝庫でもあります。
この日、毛呂山周辺できらめ樹の活動をしている、フォレスターズ プラスの方ともお会いしました。
今後もきらめ樹を続け、お互いに協力しながら災害にも強い森をつくる!
この現状を打破していく事を約束しました。
https://forestersplus.com/index.html
北海道厚真町の写真に戻ります。
大地の再生視点から見ると、もうひとつ気になる事がありました。
それは、山と平地の境に走る、1本の道路。
水脈の整備をする時に、とても重要だといわれるのが、地形の変換点である、山と平地の境界のラインです。
この水脈の要といわれるラインに、道路が走る。
「こんな道路で・・・」と思いますが、
山から海へと続く空気と水の流れを、1本の道路が塞いでいきます。
あの緑豊かな屋久島でさえも、1本の外周道路が長い年月をかけて、少しずつ木々の樹勢を後退させていました。
土中の水脈・気脈と人の血管はよく似ていると言われますが、
人の体に例えていうなら、
自分の手首を掴み、親指で血管をグッと押さえる。
すぐには影響はないけど、仮にこれが1時間、1日、1年経ったらどうなるか?
おそらく、手のひらの色が変わり、気分が悪くなる。
そして、手から、頭、そして胸から足の先まで、体中に悪い影響は連鎖していく・・・。
親指は1本の道路
これが広い道路だったり、巨大な構造物だったり、地中に大きく負荷のかかる構造物は、どうしても土中の水脈を塞いでしまう。
でも、この親指の負荷を軽くすることで、体全体の血液の流れが戻る。
砂防ダムやコンクリート構造物がダメなのではなく、だったら負荷を軽くする造作を加えてあげればよい。
それが、点穴であり、通気浸透水脈という手法。
「空気と水の流れを停滞させない」
その視点があるかないかで、水脈の滞りは防げるはずです。
話しを広島に戻しますが、
崩壊した棚田の上部から、集落を見下ろします。
ため池から集落まで繋がるコンクリートの水路は埋もれてしまいましたが、山からの水は新たな流路を探し、小川となって流れていました。
この風景をよく観察すると、土と石と木の世界。
元々は野山にあるもの。
転がり落ちた石や流木、土砂は場所や形を変えただけ・・・・。
小川は人が造作することもなく、自然と蛇行しながら流れていました。
もしこの土地を棚田に戻す必要がなければ、この自然にできた地形を壊す必要はないのかもしれません。
自然の野山では、木々の落ち葉は地面に降り積もり腐葉土となり、寿命を全うした木や台風などで倒れた木は、時間をかけながら土壌に還る。
石が転がれば、転がり落ちたところで、また土砂を堰き止める役目をする。
そう考えると自然界の中に「ゴミ」は存在せず、すべてを受け入れながら循環する仕組みになっています。
集落の建物周りの土砂のかき出しが一段落し、我々は集落の反対側の棚田に移動しました。
こちらは水路の橋が土砂や流木で詰まっていました。
矢野氏によると、水路の橋が土砂や流木で詰まることで、ここがダムやため池のような状態になる。
水が停滞し、徐々に水が上流部まで達し、土の中の水分量も飽和状態となる。
そして、一定の限度を超えた時に、土砂崩れが起きたのではないか。
先程例えた、手首から親指を外すように、水脈を詰まらせたこの橋が、一定の負荷がかかった時に外れたり、水を逃がす仕組みがあれば、被害は最小限で済んだのではないか、と矢野氏は指摘しています。
しかしながら、ここから復旧をしなくてはいけません。
一般的に災害復旧というと、これらの土砂や流木をゴミとして処分し、元通りにしていきます。
しかしながら、これらの全ての瓦礫を片付けるという事は、やはり膨大な費用と時間を要します。
今回は、所属する(一社)大地の再生 結の杜づくりとして、これらの散乱する瓦礫を全て処分するというやり方ではなく、その場その場で活かしながら復旧作業を行うことを、提案しました。
大地の再生メンバーである呉市在住の下村京子さんや松田久輝さんという地元のコーディネーターの方が繋ぎ役となり、地元の自治会長さんにお話しをし、今回の災害復旧が実現しました。
丸太は杭として活用し、石や流木で土留めをつくる。
「持ち込まない、持ち出さない」
自然界のように、ゴミを出さずにその場で活かす。
土砂は枝葉と程良くブレンドし、仮設の道に。
土砂の中に枝葉を混ぜることで、水はけも良好になる。
すべては、土と石と木を組み合わせ、あるものを活かす!
赤茶色した石州瓦の民家と、棚田が美しい集落。
瓦礫の中をよく見ると、まだまだ活用できるものがたくさんありました。
建築家や大工さんがいれば、土砂で流された民家の材料(柱や梁・・)を使い、物置小屋や仮設の家が建つかもしれません。
林業関係者がいれば、木材粉砕機を持ち込み、大量の流木や丸太をウッドチップにして、埃っぽい庭先や仮設の道路に敷く事もできます。
他にも、流木や丸太を木炭や薪にすることはできないのか、
樹木の根っこは、土留めにも使える・・・。
そう考えると、ここから持ち出すものはあまりないのかもしれません。
今回の現場では、コーディネーターである松田さんの呼びかけにより、地元の方にお昼ご飯を作ってもらいました。
また、「どこか痛いところはありませんか?」と、マッサージをしてくれる方も集会場に来られたり、
近隣の機械の整備士さんは、酷使するチェーンソーの修理や新品の刃を持ってきてくれたり・・・、
地元の方々も、出来る事をやり、皆で被災地をサポートしていました。
日本中で災害が頻発している昨今、人手や予算にも限界があるように感じます。
人々が自然の摂理に沿った考えの元、「あるものを活かす」という考えの災害復旧が今後望まれます。
そして地形を読み取り、重機を使い、土と木と石を組み合わせながら、風景や暮らしを元通りにしていく・・・
これは普段庭づくりでやっている事と同じではないか。
我々造園屋(庭師)だからこそできる新たな使命、日本の風景や風土を再生し、守っていくのは、造園屋や庭師たちなのだという事をこの現場を通して確信しました。
以上でブログは終わりですが、ブログを読んで頂いた方に、いくつかお知らせがあります。
まずは、(一社)大地の再生 結の杜づくり 緊急支援のお願いです。
ブログにも書いた、「あるものを活かす」という主旨の元、広島県呉市や尾道市因島、愛媛県宇和島市などで災害復旧ボランティアを行っていますが、活動資金の支援をお願いしております。
支援して頂ける方は、お振込みと共に、事務局までメールをお願い致します。
後日、災害レポートをお送りさせて頂きます。
次に、中央園芸の大地の再生講座のご案内です。
6月に続き、9月27日(木)に弊社にて大地の再生講座を開催します。
土砂災害の現場でも、土中の空気と水の視点の大切さを強く実感しましたが、
講師の矢野智徳氏も、「できるだけこの技術と視点を、定着させたい」と話しており、2~3か月ごとの定期的にこの講座を開きたい、と話しております。(*一般の方でも参加できます)
最後は、同志でもあり、尊敬する千葉の高田造園設計事務所さんが登壇する、シンポジウムのご案内です。全国的に問題となっている、メガソーラーについてのシンポジウム。「山の神様、お願いだ。」
昨今の豪雨災害の時も、山を切り開いて設置したメガソーラーが崩れるという事例が多々あるようです。
今後、増え続けると予想される土砂災害をさらに誘発する前に、取り返しのつかない大規模な造成を今一度考えなおす必要があります。
これは、自然エネルギーや太陽光発電を否定するものではなく、あまりにも自然の摂理を無視した造成や開発に、警鐘を鳴らすものです。
参加費は無料!10月の過ごしやすい季節、長野県茅野市に是非足を運んでみて下さい!
最後に、中央園芸からスタッフ募集のお願いです。
弊社事業の拡大により、一緒に働いてくれるスタッフ(社員、バイト)を募集いたします。
興味のある方は、メールにてご一報ください。
以上、ブログの更新に間が空いてしまいましたが、今回も長いブログにお付き合いいただきありがとうございました!