7年目の春、ブログ後編です。
気仙沼市 前浜漁港、穏やかな秋の海岸、2017年11月26日。
前浜漁港の前にある防波堤。
海岸沿い、枯れている樹木は赤松でした。
なぜ、枯れたのか?
大地の再生講座、矢野智徳氏によると、
山や川、海は地中でも水脈、気脈を通し繋がっていて、防波堤や周辺道路の整備により、地中の空気と水の流れを滞らせてしまう事が原因。
そして木々が弱ってきたところに追い打ちをかける様に、津波が地表面の表土を洗い流した。
木々が弱ったところに、マツノザイセンチュウが入り、赤松は枯れた、との見立て。
海岸付近の人工的な構造物は、自然環境への影響がとても大きい。
前浜漁港近辺、我々が今回草を刈った区域の1年半前の夏の様子。
辺りは勢いよく草が繁茂していました。
実はここには、小さな川があり、この時行われた大地の再生講座では、風の草刈りをして、
詰まってしまった小川の泥をすくい、水の流れを呼び戻しました。(私は参加しておりませんが・・)
草を刈り、水が流れてくると一気に風が通り始めます。
小刻みに小川は蛇行し、ちょろちょろと水音が響き、心地よい風が流れます。
今回の秋の作業も、周辺の草刈りをしながら、小川のメンテナンスをやりました。
見落としてしまいそうな地道な作業。
こんな小さな水の流れが、陸と海とを繋げるこの土地の水脈を復活させる、大きなきっかけとなります。
さて、こちらは、気仙沼市本吉町を流れる沖ノ田川の上流付近。
この川は、復興事業として、「河川堤防」という大規模な工事が行われています。
出来上がった、「河川堤防」。
もはや「川」という感じがしない。
巨大なコンクリート水路。
高低差は9m。
沖ノ田川の下流付近。
かつては鮭が遡上していたという清流も、今は昔。
その面影はありません。
巨大なコンクリートの構造物は海まで続きます、2017年2月。
沖ノ田川、河口付近は防潮堤の工事も始まりました。
(今回のブログの写真は、気仙沼市在住の菅原圭子さんから、たくさんの写真とデータを提供していただきました。)
ポンプ車による、コンクリートの打設。
河口付近の防潮堤工事。(2017年6月撮影)
周囲の土は固く転圧され、水が抜けない様です。空気と水の循環がすでに滞っているよう。
河川と海との水脈は分断されてしまったようです。
防潮堤の高さは9.8m。
これが出来上がれば、海が見えなくなります。
こちらは、同じく気仙沼市、小泉海岸。
かつては美しい松原と砂浜の海水浴場でしたが、津波により松原や砂浜は消滅。
新たに防潮堤をつくる計画になったようです。
ここ小泉海岸は、三陸に作られる防潮堤の中でも、最大級ともいえる高さ14.7m、底辺の幅は90m。予算は400億円を超える勢いの大工事。(2016年7月撮影)
こちらは完成、イメージパース。
住宅は高台に移転し、海岸付近には人は住んでいないという。
何のための防潮堤なのだろう。
気仙沼市唐桑町の大理石海岸。
しかしながら、こちらの海岸も防潮堤の工事が行われます。
既存の岩場と一体化?したコンクリートの工事。
現況の海岸が、
完成イメージパース。11.3
このような工事計画は、気仙沼だけに限った事ではありません。
津波でも被害の大きかった、岩手県 陸前高田市。
有名な奇跡の一本松。
高田松原の7万本の松は、ほぼ壊滅しました。
流された松林の残骸。
後方には、12.5mの防潮堤。景観は一変しました。
震災当時は15.1mという津波の水位。
高田松原を復活させようと、松の植林が行われています。
しかしながら、空気と水の滞るこの土地では、どんな木を植えても、木々は育ちにくいと想像します。
まずは水脈の整備をし、松だけではなく多種多様な樹木を植えることをお勧めしたい。
同じく陸前高田市、広田町大野海岸。
青い海と美しい砂浜。
しかしながら、後方には、大きな防潮堤が建設されました。(2017年9月撮影)
陸と海との水脈は分断され、今後自然環境への影響が心配されます。
良質な漁場として栄えたであろう三陸の漁港も、とても無機質なものに変わっています。
周辺の木々も樹勢が弱っている姿が見られます。
三陸復興国立公園、崎野海岸(岩井崎)。
前浜漁港と同様に、松枯れが見られます。海岸付近の大きな構造物の建設による樹木への影響は顕著です。
気仙沼市 唐桑町。枯れている樹木は、同じく赤松か。
防潮堤の計画は、被災した岩手、宮城、福島の約600箇所、総延長400kmにも及び、総事業費は1兆円ともいわれています。
宮城県南三陸町 歌津館浜の防潮堤。
石巻市白浜海岸。
陸前高田市 米崎町。
岩手県大船渡市の碁石海岸。
三陸海岸を埋め尽くす防潮堤の自然への影響は、今後益々増えていくと思われます。
空気と水の流れに敏感な赤松への影響が心配されます。
いつまでこの美しい景観が見られるのか・・・
震災から7年が経ち、復興は順調に進んでいるように見えますが、
今、東北では復興事業という名のもとに、住民の意思とは思えないような大規模な工事が次々に計画され、施工されています。
大きなコンクリートの構造物は景観の良し悪しだけでなく、周辺樹木や海産物への影響が懸念されます。
「景観十年、風景百年、風土千年」という言葉があります。
リアス式海岸で知られる、美しい三陸の景観や世界三大漁場といわれる良質な漁場。
今回の東日本大震災は観測史上最大規模の地震と津波であったことは事実ですが、元々三陸では、平安時代の貞観地震や江戸時代の寛政地震、明治時代の明治三陸地震、昭和三陸地震、チリ地震・・・など、古くから幾度もの地震や津波の被害にあった歴史があります。
人々は美しい風景や豊かな海産物など、あり余るほどの多くの海の恩恵を受けてきた代わりに、光と影、時として起こる海の猛威と真摯に向き合ってきたのかもしれません。
「俺たちは、怖い思いもしたけれど、やっぱり海が好きで、たくさんの恵みを受けてきた。
だから、子供たちにも恥ずかしくないものを残してやりたい。」
大地の再生講座に参加した地元の方々からは、そんな声が聞かれました。
防潮堤のつくられている沖ノ田海岸も、砂浜が少しずつ戻ってきているという。
自然は時として、水脈・気脈の詰ったもの、人がつくった不自然なものを破壊することで、自然の歪みを修正します。
今回の三陸海岸を中心とする巨大な河川堤防や防潮堤の工事は、今後の日本全体の海岸の景観を左右するものとなるでしょう。
南海トラフを代表とされる、今後発生が予想される地震や津波の対策として、同じような構造物が日本の海岸を埋め尽くす可能性もあります。
今まで何百年、何千年、何万年と培ってきた風土や歴史を、この数年間で壊していい物なのか?
我々は、今回の震災により、何を学んだのか。
最先端の科学技術や今までの土木や造園の技術を駆使し、この大きな問題を考えていかなければなりません。
震災復興はまだ終わっていない、住民の苦悩は今も続いています。
大地の再生の気仙沼講座は、4月下旬ごろに再び開催予定。
このブログでもご案内できればと思います。
今回も長いブログにお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、写真を使わせていただきました、増茂君、白鳥様、そして膨大な写真やデータを提供していただきました、菅原圭子様、取材にご協力していただきました岩田さんありがとうございました。
多くの方にこの現実を知っていただき、美しい日本の海を残していけますように・・・。