ようやくじっくり読むことができた、「古家リノベーション」。
寄居町の「種まき鳥」というチームで共に地域の環境再生活動をしている平山友子さんの著書。
平山さん自身が取材した古民家や昭和の家、空き家などのリノベーションの実例集。
インタビュー形式の文章と心温まる写真がたくさん。
パラパラと見ているだけでも楽しい内容です。
この本の中では、僕も関わった寄居町の大田邸の記事が取り上げられています。
地域おこし協力隊として活動する大田さんに、庭を見てほしいと相談を受けたのが、2020年の秋頃。
あまり予算をかけられないということもあり、2日間のワークショップ形式で庭づくりを行うことになりました。
ワークショップ1日目は、エントランス付近のスペースの土中環境改善を行い、数か所に植栽。ある程度水はけも改善されたところで、2回目は何をしようかと庭を見渡すと、もともとあった日本庭園風の石組みが目に入りました。
このスぺースをどう活用するか?以前から悩んでいたところではありました。
直感的に、ここは竹ドームしかない!
ということで、2回目のWSは初の竹ドームづくりを行うことに。
知人の竹林から真竹を調達し、WS参加者が竹割り初体験!
竹を割る道具「五ツ割り」を使い、皆さんに竹を割っていただきました。
そして、竹ドームの完成!
元々日本庭園風の流れと池の石組みがあり、円形の池の石組み部分のスペースを再利用しています。
これが意外に座りやすく、竹ドーム内のベンチ代わりに!
夏には、寄居の朝顔「団十郎」を竹に這わせて・・・
竹ドームに朝顔。
とても良い組み合わせですね!
結果的に、庭をリノベーションしたことで人も集まるようになり、水はけも改善されたという事例です。
古家リノベーションより↓
それから昨年の夏、同じく大田さんの空き家の物件にも関わることに。
こちらは寄居町の折原地区。
庭の木々を軽く剪定し、風通しを確保、駐車場は広めにして、あとは庭を周遊できるようにウッドチップを敷いて。
予算も限られている中、あまり手をかけないように、あるものを生かしつつ。
入り口には1箇所だけ、在来種の雑木の木立を植えて,駐車場は芝を植えて完成!
(人工芝ではありません)。
こちらは現在一棟貸しの宿泊施設、「帰宿穏坐(きしゅくおんざ)」として、宿泊できますので、是非!
庭のリノベーションで面白いのは、いざ庭に手を入れてみると、今まで住んでいた方の庭の景色が浮かびあがってくること。
それは、遺跡を発掘するような楽しみがあり、
長い年月の間に草や土に埋もれていた庭でも、以前つくられた庭師や住人の造作や想いが垣間見え、とても興味深いものがあります。
こちらの外水道の近くは、玉石を使用した枯山水風の石組みが出てきました。
飛び石の位置を多少変えたり、玉石も少し動かし、新たに化粧砂利を敷きなおして、リノベーション。
当時は当時で、気持ちを込めて作った庭でしょうから、そこをリセットして作りなおすことは極力避けます。
そこにある材料はできるだけ生かしつつ、現代の好みにあった庭園に形を変えていく方が、家主もその土地も喜ぶことと思います。
こちらは、寄居町末野にある古民家。
かつての養蚕農家の建物らしく、屋根の真ん中にある高窓と赤い屋根が印象的な古民家です。
大正6年に建てられたそうで、築100年以上経過しています。
こちらは同じ種まき鳥で活動する柴崎広美さんが借りた物件です。
建物の骨組みはしっかりしていますが、数十年放置されていましたので、周囲の庭や裏山も荒れ放題で・・・
僕も大地の再生として関わり、ここを地域に開かれた場所として再生することになりました。
建物内の修繕や片付けも何とか終わり、(柴崎さんは本当に大変だったと思いますが・・・)
種まき鳥主催の「里山文化祭」の中で、杜人の上映会をこの古民家で行いました。
庭に関しては、柴崎さんが前庭の草刈りをする程度で、あとは何もしていません。
裏山を抱える、典型的な里山の古民家の立地。
午前、午後の2回の上映会の後は、参加者と一緒に建物周辺の環境改善のWSを行うことになりました。
建物と裏山との間の空間。
裏庭の竹が建物際まで繁茂して奥が見渡せません・・
夏場に一度現地を見せていただきましたが、やぶ蚊がすごくて、ひどい状態でした・・・
そんな場所をみんなで改善していきます。
人が入れないくらいの竹やぶでしたが、少しずつ竹を切り開き奥に進んでいきます。
でも、すべての竹を切り払うのではなく、適度に「やりすぎない」事がポイント。
WSの時間は1時間半程度。
裏山も限られた時間の中で道をつくり、竹を間引く。
周囲の環境や植物にも少しずつ慣らしていく感じで。
裏庭部分から水が湧き出ているポイントを発見!
山と平地の境目(斜面変換線)に溝を掘っていきます。
そして、改善後(写真はWSの数日後)。
裏庭の奥まで見渡せるようになり、とても気持ちのいい風が吹きぬけるようになりました!
さらに、第二回目の環境改善WSは今年の1月7日。
色々と敷地内を見ていくと、裏山からの水脈がこの建物の右端の増築部分で停滞していることがわかってきました。
敷地の右側に水が溜まり、増築部分の建物内は、床が抜け湿気がひどい状況でした。
今回は、この古民家の湿気をさらに抜くような改善を行うことにしました。
建物裏に無造作に置かれていた既存物は、風通しを悪くします。
これを整理して、さらに建物際に溜まっている落ち葉や土を掘ります。
前回は、山と平地の境界部分の斜面変換線ラインに溝を掘りましたが、今回は建物際に溝を掘ります。
参加者による溝掘り。深さは15~20cm程度。
掘った土は周囲に盛ります。
こちらの建物増築部分は、湿気がひどく、掘ると水が湧き出るような状態。
これでは建物も傷みます。
溝が掘れたら、炭を入れて前回切った竹を溝に入れていきます。
この敷地内は、シホウチクが繁茂しており、前回切ったその竹を細かくして、大ハンマーで割り、水脈で使用しました。
建物際は、柱もところどころ腐っている状態でした。
点穴
掘った溝に、炭と竹、竹穂を入れて水脈の完成。
グランドカバーとして、竹の葉を敷き詰めました。
前回の竹穂や葉がここでも役に立ちます。捨てるものはありません。
建物の周囲に水脈が復活し、とりあえず一段落。
こちらの建物はコンクリートではなく束石の基礎ですので、縁の下を覗くと反対側まで見渡せます。
これで建物内にも空気が通ります!
この日は真冬にもかかわらず、良い天気でした。
冬の乾いた日差しが建物内に差し込みます。
建物の周囲に空気が通り出すと、建物内部も心地よい空間に変わっていきます。
人が心地よいと感じるのは、建物を直すことだけや、天気のせいだけではありません。
周囲の環境改善をやってこそ、本当に建物が生き返っていくように思います。
ちなみにこちらの古民家は柴崎広美さんの意向で、フランスのテイストを入れた庭園にしていく予定。
名前も「古民家クイジーヌうさぎのテーブル」と名付けられました。
どのような庭になっていくのか、僕自身も楽しみです。
こうした古民家はある意味地域の宝だと思います。
古民家で暮らしたことのない10代、20代もなぜか「懐かしい」と感じる。
もし今でも現存する古民家があるならば、色々な事情があるにせよ、是非残していってほしいと思います。
これから増える空き家をどうするか?
どこの町でも大きな問題となっていると思います。
古民家は比較的人気がありますが、実際の空き家は大田邸のような築30〜50年ほどの、古民家ともいえない、いわゆる昭和の古家が多いように思います。
しかしながらこのような家は、建材的には再利用が不可能、土にも還らない、廃棄物ばかり出てしまう、といういわゆる新建材(合板や樹脂シート、ビニールクロスなど)の家がほとんど。
でも、そこを嘆いていても仕方がありません。
必ず地域には腕の良い大工さんや協力してくれる人が少なからずいるものです。
建て直す方が安く済むからとこれを壊して廃棄物をたくさん出すよりも、今あるもので何とかしてみる。
庭づくりでも同様ですが、一度庭を更地にしようと樹木を切り、特に大きな木の根っこを抜いたりすると、途端に水はけが悪くなります。
今までの水脈や風土を繋いできたものを一度リセットしてしまうことは、自然に対してのインパクトが強く、その土地のポテンシャルを大きく下げることになりますので、注意したいところです。
今回紹介した事例のように、地域に開かれた場にしていくには、とてもエネルギーが要りますが、でも地域の方と関わりながら、建物を直し、周辺環境を再生させ、そしてコミュニティも作っていく。
そう考えると、空き家は地域の環境を含めた共有財産だと考える事もできます。
この土地の環境が良くなることで、その周辺にもプラスの連鎖が広がっていきます。
一人では途方に暮れることも、WSなどを開催したり、お互いに協力しながらその土地を傷めないよう活用していく。
これが現代の「結い」ということなのでしょう。
最後は、同じく寄居町の市街地、伊勢屋という和菓子屋をリノベーションした事例。
こちらは街中ということもあり、外には植栽スペースはありませんでした。
ということで、なんと店舗内に植栽することになりました。
事前に土間のコンクリートに植栽スペースを開けてもらい・・・
穴を掘り進めてみます。
少し深く掘ってみると、湿り気のある土も現れてきました。
植え穴の下は稲わらやもみ殻くんたんを入れて、地下の水脈と繋がるよう根を誘導します。
焼き杭を2,3本打ちこみ、土に落ち葉ともみ殻くんたんを混ぜ、排水性を保ちながらも、保水性のある土壌に仕上げます。
ということで、周りを大谷石で囲み完成!
ここに木を植える事で、この土地の水脈と繋がるように・・・
全くの室内に木を植えたのは初めてでしたが、昨年の夏に植えて以来約半年が経過、多少の試行錯誤はありましたが、まだまだ健在であります。
こういう室内の植栽も木々にとっては過酷な環境ですが、ただ鉢植えを床に置くよりは、根が大地と繋がることが大きな価値を生む事と思います。
こちらのお店はMujaqui(むじゃき)いう宿泊可能なオーガニックレストランとして昨年夏にオープン。
寄居の新たなスポットとなっています。
Mujapui | オトナもコドモも、無邪気な人が寄居町に集う。 (mujaqui.jp)
空き家のリノベーションは、お金がかかる、かからないという次元の話しよりも、とにかくその土地の環境を壊しては意味がありません。少しでも大地の水脈を繋ぎ、周辺環境を良くすることで、建物も人も心地よい空間として生まれ変わることができるのだと思います!
僕の役割は、大地の再生の担い手として環境再生の手法の学びを深め、そしてそれを実践し、多くの方に知っていただくこと。
「結の杜づくり」各地で広まることを願います。