谷崎潤一郎『春琴抄』の4度目の映画化。
過去作品は文芸+日本情緒+純愛という、ある意味予定調和な物語ですが、これはそういった面を完全にぶっ壊してます。
『讃歌』(1972年 / ATG)
監督•脚本:新藤兼人
出演:渡辺督子、河原崎次郎、乙羽信子、武智鉄二、殿山泰司
幼い頃に病気で視力を失った美貌の娘•春琴と、彼女を献身的に支える使用人の佐助の物語。
その才能を活かして盲目ながら三味線のお師匠はんとなった春琴はキッツい性格。
それでも佐助は春琴に尽くし、見ようによってはSMの関係?
しかし春琴は何者かによって顔に火傷を負わされてしまいます。
こんな顔は佐助に見られたくないと引きこもる春琴に対して佐助は、「それなら私もあなたの顔が見えない身体になりましょう」と、自分で自分の両眼を針で刺して失明します。
....という凄まじい話ですが、新藤監督はこの作品では谷崎潤一郎の原作には存在しない1人の女中を登場させ、監督自身が老人ホームにこの女中を訪ねてインタビューし、春琴と佐助の物語を語らせるという手法をとっています。
さらに異質なのは、究極の純愛!的に描かれていた過去作品と違って、主人公の2人.... 春琴と佐助は観客の安易な感情移入を拒否するようなルックス。
つまり、どう見てもブサイクなのです。
美男美女の物語じゃないのなら、逆にリアルなのかと言うとそうでもなく、春琴を演じる渡辺督子のまるで人形のような生気のないメイクは現実離れして不気味でさえあります。
でも、互いに相手の姿は見えないのですよ。
だからグロテスク。
春琴役で当初オファーされたのは『ウルトラセブン』のアンヌ隊員=ひし美ゆり子だったそうです。
こんな文芸作品に出られる機会なんてもうないだろうからぜひこの役をやりたい、と先に声をかけられた東映の『不良番長』シリーズを断ろうとしたら、「そんな不義理をしたらこの業界で生きて行けないぞ」と怒られて泣く泣く断念したそうです。
ひし美ゆり子の春琴ならどうなっていたでしょう?