「柊くん、ツリーってここでいい?」
「ああ」
12月23日
俺と江岸は、燕ノ巣のクリスマスの飾りつけに来ていた。
本来なら、クリスマス仕様の飾りつけは11月の末に行うのが普通なのだが、「1ヶ月もフライングするやつらの気がしれねぇ」という料理長の意見により、燕ノ巣は12月23日から3日間だけ、イルミネーションの飾りつけをすることにしているらしい。
だが、夏休みに岸本元市長が逮捕されたことを聞いて動揺した料理長が東京の病院に入院してしまったため、メインディッシュを作るための料理の柱がいなくなり、更に岸本が逮捕された現場が燕ノ巣だったこともあり、客足が一時期急激に減った。
それを何とかしようと、女将さんが色々と手を尽くしたらしい。
今では、以前ほどではないにしても、客も沢山市外から来るようになった。
さらに、今は「自分の店を持ちたい」と燕ノ巣を止めたはずの浮島さんがメインディッシュを任されている。
俺自身、忙しいときはコックとして厨房に何回か入っている。
で、人手不足な状態ながら、クリスマスにも来たいという客の予約が取れたため、俺と江岸は急きょ呼び出されたというわけだ。
一応監督という名目で綾瀬とあず姉も手伝ってくれている。
「そういえば、料理長は元気か?」
俺が飾りの入った箱を運びながら、綾瀬に聞いた。
「元気っていえば元気だよ。指もなんとかくっついたし、身体は問題ないんだけど、まだ市長のこと気にしてるみたいなんだよね……」
「…………」
江岸がふと、暗い表情を見せる。
父親の復讐のために燕ノ巣を利用し、結果的に料理長の指切りと経営衰退の原因を作ったのは、他でもない江岸なのだから。
俺はすぐに江岸の顔に気付き、声をかけようとした。
しかし、江岸はめまぐるしい速度で表情で子を戻すと、俺に声をかけてきた。
「柊くん、その電球の紐ちょうだい」
「……あぁ」
驚くほど速い気持ちの切り替えに呆然としている俺を見て、あず姉がゲラゲラ笑っていた。
「うわぁ……!」
飾りつけが完成した。
さっそくライトアップをお願いすると、眩いほどの色とりどりの光が輝きだす。
燕ノ巣特製、羽ばたく燕のイルミネーション
圧倒的なその美しさに、俺はため息しかこぼれなかった。
「そっか、工藤くんは初めてみるんだよね」
あず姉の言葉が聞こえてきた。
頷いた時、そっと、江岸が手を握ってきた。
びっくりしてそっと隣を見ると、江岸はじっとイルミネーションを見つめたままだった。
だが、よく見ると、頬が紅く染まっている。
思わず、こっちまでも照れてしまう。
手が震えていることに自分でも気が付きながら、江岸の――梨奈の小さな手を握り返す。
すると、安心したように肩に頭をゆだねてくる。
他の2人も、飾りのライトに魅入っている(後々考えてみると、2人とも気を使ってくれてたのかもしれない……彼氏持ちだから)。
だから、俺も安心して梨奈の頭を素直に受け止める。
なんとなく、今年の冬はそんなに寒くない気がした。
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夏の浜辺クリスマスバージョン、いかがでしたか?
バイトで遅くなってしまい、結局イブに更新間に合わなかったのはすみません汗
今回は、後輩の希望により、夏の浜辺になりました。
本当に久々です、柊作や江岸達を動かすのは。
久々すぎて動かし方を忘れていました( ̄ー ̄;
そのため、慎重にキャラを動かしていきましたが、何故でしょうね……蘇芳がヒロイン書くと、なぜか皆甘えたがるんですね……今回の江岸然り。
ちなみに、途中まで柊作が江岸を名字で呼んでいたのは、本人がまだ気恥ずかしいからです。
元々ヘタレキャラの柊作らしいといえばらしいですがww
さて、またいつか、夏浜のアフターストーリー書きたいと考えています
またあの町で彼らに出逢えることを祈って……
メリークリスマス
銀城蘇芳