刹那-the Everyday Messiah- -7ページ目

刹那-the Everyday Messiah-

紡がれた言葉が、刹那でも皆様の心に残れば……

ジリリリリリリリリリリリリリリリ…………


目覚まし時計が鳴り響く。

黒川リンはゆっくりと起き上がり、目覚ましを止めた。

カーテン越しから、爽やかな朝日が顔を出す。

眩しそうに目を細めながら、俺はベッドから足を下ろした。

途端、景色がガラリと変わった。

気が付くと、俺は窓のない部屋にいる。

巨大なダイニングテーブルを挟み、紅蓮の髪を持った男が殺意を込めた眼で俺を見る。

失格だ

その瞬間、体を焼き尽くすような感覚が俺を包み込んだ。

苦鳴をあげながら、周りが漆黒に変わっていることに気付く。

その黒の背景の中で、人の形をしたものが口を開いた。


――これは罰だからね…。リンが僕を裏切ったから――


それが長いものを投げた。

それは一直線に飛び、俺の胸を貫いた。


うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

部屋に明かりが戻った。

鳳凰はそっと掌を開いた。

そこには、先程の少年が放った銃弾があった。

彼は、それを大事にポケットにしまう。

さっきまで少年がいた場所には、何もない。

あるのは、ちいさな焦げ跡のみ。

鳳凰は、それには目もくれず部屋を横切り、ドアを開ける。

ドアの傍には、外で待機していた蛍火がいた。

「華麗は?」

「あぁ、ちゃんと指示通り待機してるはずだぜ」

俺は行ってくる。準備は任せたぞ」

「了解」

再び歩き出す鳳凰。

蛍火は動かずにその後ろ姿を見送った。

ところが、急に鳳凰が立ち止った。

振り返り、後ろにいる自分の息子に言う。


「お前さぁ、飯くらい食わせておけよ。ひと手間増えただろ」

「えっ……!?」

ストレートな質問に逆に驚いた。

今の鳳凰の眼は今までの父親のような温もりはなく、俺の値打ちを見定めようとする指導者の眼だ。

「君は既に銀の少女や水崎咲妃、蛍火や華麗といった多くの暗躍者とであっているはずだ。君は彼ら……女性が多いから彼女らにしようか。彼女らと関わってどう感じた?また、彼女らと同じ存在となった今、どんな印象を持った?」

鳳凰は、俺をじっと見据えている。

冷や汗が流れるのを感じる。

正直、暗躍者と聞いて、真っ先に浮かんだのは友人である水崎咲妃と初めて会った銀の少女だ。

彼女達を見たり接していた時、俺は何を感じていたのだろうか。

「俺は……」

口がカラカラでうまく声が出ない。唾をのみこみ、気持ちを落ち着かせる。

「俺は、今まで暗躍者と関わってきて、同じ人間とは思えなくなる時がたまにあった。水崎ですら、そう感じることがあった。それは恐怖とか、そういうのじゃなくて、なんていうか……遠くに行ってしまったみたいな、そんな浮世離れした距離感を思い知らされたというか。

成川先生は俺達が戦った怪物の過去を話してる時の空気が情人離れしてるというか……普段とは違う感じ

水崎は…どちらかというと、一番威嚇感じる存在だけど、なんていうか……閉塞的というか。俺自身はあまり感じなかったけど、俺以外誰も連絡先を知らなかったり、逆に壁を作って遠ざかってる感じ。

銀は……もう、存在そのものが。

それがすべて歪みの影響なのかは分からないけど、そういう意味で、暗躍者って特別なのかなって」

口に出して、初めて分かった。

俺がこれから立ち向かう、暗躍者という運命

人外の能力を得るだけでなく、歪みという形で自らの心の闇を解放したことで、精神面でも変化はあるはずなのだ。

水崎が暗躍と同時に、頭の声が無くなったように。

暗躍とは、一種の進化なのだろうか。

鳳凰は、俺が話し終わっても何も言わなかった。

吟味するかのように眼を閉じている。

永遠と思えるような時間が経った後、ようやく「そうか」と口を開く。

「よく分かった」

ガタッと席をたつ。

同時に吐き気がするほどの濃厚な歪みが展開される。


失格だ


「えっ……!?」

途端にシャンデリアから明かりが消え、代わりに俺の周りに緑色の火の玉が現れた。

全身から汗が噴き出す。

「なっ……なんで……!!」

「なんでか?そんなの至極単純だ」

今の鳳凰には父親のような温もりが一切感じられない。

何より、巨大な歪みのせいで、思考がかき乱されてしまう。

が気に入らなかった、それだけだ」

「…………!!」絶望が躰中を駆け巡る。

(嫌だ……死にたくない…………!!)

一瞬、頭の中が真っ白になる。

気づけば、躰が勝手に動いていた。

片手をスライドさせ、拳銃を突き出し、鳳凰に銃口を向ける。

鳳凰は手を前に突き出している。

俺が引き金を引いたのと、鳳凰が手を閉じたのは同時だった。


「化炎 アグニ」


その瞬間、俺の意識は跡形もなく消え去った。

「え……?」

この人が鳳凰

俺に手を差し伸べているこの男が?

向こうは手を伸ばして待っている。

握手を求められていることに気付き、急いで立ち上がる。

「は、初めまして!俺はくろかわ――」

「G・O・Hでは」鳳凰が遮った。「本名を出すことは禁止している。蛍火華麗といったネームを付けているのはそのためだ」

「はぁ……」

「だから、ここでは少年とよばせてもらおう」

鳳凰はしっかり俺の手を握ると、俺に座るように促した。

自分も俺と向かい合うように座る。

面談の始まりだ。


「昨日の夕飯は?」


…………は?

思考が一瞬でフリーズする。

鳳凰がじれったそうに言った。

「ほら早く答えろ。毎日考えるの面倒くさいんだよ。ほかの家の献立聞いて参考にしたいんだよ」

主夫かよアンタ……

思い切り肩透かしをくらったが、一応記憶をたどってみる。

昨日は…晩原先生と戦って、蛍火にG・O・Hに誘われて、その後保健室で寝て……

「昨日は…何も食べてない」

「何!?何も食べてないのか!?じゃあ今朝は」

「朝は蛍火に急かされて食パン1枚……」

「まったくあいつは!別に急かす必要はないとあれほど言っておいたのに!いらんところで日本人かぶれやがって・・・・・・」

言葉は乱暴だが、口調はむしろ子供を叱る父親のようだった。

「さて、食べ盛りの男子がそんな朝食じゃいかんぞ。なにか持ってこようか。残飯しかないが」

「結構です」

何なんだ、この組織は……

俺の呆れ顔にさすがに思うところがあったのか、鳳凰はついに表情を改めた。

「まあいい。俺が聞きたいことはひとつだけだ」

鳳凰の眼が鋭くなる。


「君は暗躍者のことをどう思う?」

ハガレンレンタルしてきて、ゆっくり見てたらふと最近全く書いていないことに気が付いた…


銀の少女

これから更新しますあせる

駆ける銃声 幻想的な無力感

この手に残るのは命の重量


ただ愛する人を守るためだけに引き金を引く


砕け散るまでに流れていく時間

邪魔されずに終わっていく走馬灯


聞こえてるかな?答えてよ…誰でもいいから

「何度撃てば救われるのか…?」


ただ愛する人を守るために…


「意識を殺して…」 儚い約束

あの日零れた涙を撃ち抜くよ

1人を救えば何人傷つく?

答えなどない問いが虚空に消える


愛情の裏に何がある?

目を背けたままこの手に残る重圧を感じ取る

愛情の裏に何がある?

思い出だけを信じ歩いていく…


哀しみに押し潰されそうな程引き金を引く

ただ愛する人を守るために…


「意識を殺して…」

果たせぬ約束

胸の中の甘い思いを打ち砕く

何も出来ないと崩れ落ちた時

手に残る重圧がすべて消える…

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


いかがでしたでしょうか?

今回は、急に頭の中に銃弾という単語が出てきまして

それを広げながら書いていきました


「大切な物のために、何を犠牲にできるのか」

それが今回のテーマになっています

それは、たとえばお金かもしれないし、ほかの物かもしれない

だけど、もしその大切な物が「愛」だとしたら、人は友情やほかの人の気持ちまでも犠牲にしかねない生き物です

その「愛する人」が本当は何を望んでいるのかも知らずに……

蘇芳自身も近い経験があるので、よく分かりますが


今回は少しライトノベルっぽくなった気がしています

主人公も大切な物を守るためにほかの人を撃っていきます

では、結末で彼を待っていたモノは何だったのか…

それは、皆様のご想像にお任せします


ではでは

おはようございます!

本日は、詞を投稿させていただきます


今回は、同じ作家仲間の藍雨さんから、

同じく藍雨さんが書かれた小説「MEMORIAL MAN」をテーマに書きました


以前のみんとすさんの「暗黒と少年」の詞のようなキャラクターをテーマにというのではなく、物語をテーマに書くというのは初めてだったので、すこし緊張しました

また、MEMORIAL MAN自体も少し難しい終わり方をしており、正直今までの蘇芳の詞の中でダントツに難易度が高かったです(^_^;)


けれど、何回か読み返していくうちに、冒頭の詞が浮かんできて、意外とそこからはいつも通り書けました音譜


書くにあたって、今回は主人公である記憶屋を中心に書いていきました

といっても、記憶屋としての主人公を書いても味気ないと思い、あくまで『記憶屋ではない記憶屋』を書きました

内容は、本編を読んでない人のために、あえて割愛させていただきます


クオリティは、満足しています

詞自体は短いですが、前からやってみたかった水や海を比喩的に用いる詞もかけたし、Lagoonという言葉も以前から使ってみたいと思っていたし、色々なことが積み込めました(^-^)/


余計な蛇足が長くなりました

それではどうぞ


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


淡く揺れる記憶の中に残る傷跡


瞼閉じれば見えてくる幼い渚

罪の意味も知らずに


暮れてゆく夕陽に染まるこの心

何故か何処かが痛んだ


霞んでいくほど眩く過ぎ去った日々を覚えていますか?

人は皆思い出全部持って生きるわけじゃない


自分を否定したくない

誰もがそう都合がいい生き物


消えていく幸せだったあの日々を

波が奪い去っていく…


霞んでいくほどに眩く過ぎ去った日々を覚えていますか?

人は皆思い出全部持って生きるわけじゃない


「さよなら…」

裏切ることで何を得るモノがあるというの?

打ち上げられた2つの声に傷跡が涙を流していた……


淡く揺れる記憶の中に何が残っていた…?


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


藍雨さん、ありがとうございました!

夏の浜辺 ついに完結しました

全く書いていない時期も含めると、1年半という実はかなり長い間一緒に連れ添ってきた作品なんですね\(゜□゜)/


実は、中学の頃には、主要人物の名前とあらすじだけは作ってありまして

でも、「これはやっぱいいか」って悲しく設定からボツになった作品のひとつでした(ファンタジーモノを中心に、10以上の案が闇に消えました)


ですが、アメーバでお世話になってる方が依然書いてた青春小説を読んで、青春小説書きたいと思って

新しい者を1から作ろうかと思いながら昔大量に書き溜めてあった設定群を見返していたら、この「夏の浜辺」が見つかりまして…

というのが、この作品を書き始めた経緯です


書き始めてみたら、思った以上に反響もあって、手応えは感じてましたね( ̄▽+ ̄*)


書いているのも楽しかったんですが(銀の少女以外の小説は、ブログにぶっつけ本番で書いてます)、やっちまったと感じたのは江岸編

よりにもよって、青春小説で殺人を起こさせるという超ミスを犯してしまい、本気でモチベーション下がった

まぁ、柊作編以外はその場のノリで書いてるから、当時の自分はよっぽど病んでたか、銀のことしか考えてなかったんだと思いますけどあせる


ラストの締めは、蘇芳の中でもかなりの自信作です

ああいう、変に詞的な描写が得意なんだと、つくづく思います


さて、改めて、夏の浜辺はこれで終了です

といっても、実際は岸ノ巻という場所から出なければ、いくらでも枝をはやすことができる可能性を秘めているので、気が向いたら少しだけ、柊作達のアフターストーリーを書こうかとも考えています


当初考えていたトゥルーエンドは、東京の大学に進学することになった柊作を見送りに来た江岸に、柊作がキスして電車に乗り込むという、ある意味王道的なものだったし


これからは、銀の少女を中心に書いていくつもりです

一番本腰入れて書いているというのもありますし、彼女達を生かすのが楽しいのもあるから

とはいえ、また気が向いたら新しく短い小説を書き出すかもですけど(^_^;)


長くなりましたが、最後に

今まで夏の浜辺を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました

無事に夏の浜辺という作品は完結を迎えました


そして、これから先、夏の浜辺に初めて出逢う方、初めまして

岸ノ巻という空間を、ぜひ柊作と一緒に感じてみてください


それでは、今度は銀の少女でお会いできますよう


銀城蘇芳

白浜

俺とあず姉、そして江岸しか知らない秘密の場所。

砂の一粒一粒が真珠のように輝く綺麗な空間。

俺の予想通り、江岸はそこにいた。

砂浜に寝そべりながら、太陽に向かって手を伸ばしている。

「……江岸」

「ひゃあ!?」

こっちが恥ずかしくなるくらい素っ頓狂な声をあげて、江岸は飛び上がった。

「くくく工藤くん?帰ってきたんだ…」

「…あぁ、ついさっきな。隣、いいか?」

「うん……」

俺も、江岸の隣で横になる。

服越しに感じる砂の感触は、とても気持ち良かった。

しばらくの間、2人とも口を開かずに空を見上げる。

岸ノ巻に来て、最初に見たときとまったく変わらない青空。

改めて、こんなに青く澄んでいたのかと実感する。

そして、最初にこの町で出会った最初の人――

俺は、そっと隣の江岸の顔を盗み見る。

俺がこんなに岸ノ巻という市を好きになれたのも、彼女のおかげだった。

愛する父親を岸本に謀殺され、それでも、それだからこそ、岸ノ巻という町を心から愛している少女。

そして――


あたし、工藤くんの最初の友達になる!!


俺の、最初の友達になってくれた少女。

自分が、こんなに誰かから必要とされるなんて、思わなかった。

「……どうしたの?」

「はっ!?」

いつの間にか、江岸がこっちを見ていた。

しかも、ジト目で。

俺は、なんでもないと答えながら、再び空に視線を戻す。

この沈黙は、つらくなかった。

「……ごめんね、お出迎えに行けなくて」

隣から、江岸の声が聞こえた。

「最初にみるのは、やっぱりお前の顔だと思っていたんだがな」

「…本当はね、行こうとしたんだよ?でも、いざってなると、どんな顔して会えばいいのか、どんな言葉かけてあげようかとか、そういうの考えてたらなんか怖くなっちゃって」

「別に気にしないのに」

「あたしは気にするの!」

ふくれっ面でこっちを見る江岸。

その一挙一動が、なんだかすごく愛おしかった。

「ありがとう、工藤くん」

「え?」

江岸が笑顔で呟いたのだ。

「岸ノ巻に…戻ってきてくれて」

そして流れる、一筋の涙。

流れたのは、お互いの目からだった。

「俺の家は…ここだから」

「うん……」

いつからか、手からは江岸の温もりが伝わってくる。

どちらが先に手をつなぎだしたのか、2人ともおぼえてなかった。

ああ

帰ってきてよかった。

岸ノ巻に来てよかった。

江岸に出逢えてよかった。

心の底から、本当にそう思うことができた。

ゆっくりと身を起こす。

つられて起き上がる江岸。

つないだ手の感触を全身にしみこませるようにそっと一瞬目を閉じた。

そして、ずっと言いたかった言葉を、江岸の目を見て言う。


「ただいま、梨奈


キョトンとしていた江岸の目からみるみる涙があふれ、流れていく。

それを拭おうともせず、江岸は最高の笑顔で応えてくれた。


「おかえり…柊くん


名前でよばれるのはくすぐったかったけど、すごく嬉しかった。

俺の頬を、ゆっくりと何粒もの涙が伝っていく。


大事な人と手をつないで歩く夏の浜辺。

そこに刻まれる、2人分の足跡。

波に消されることもなく、どこまでも伸び続けていくだろう。

海より青い空の下で、未来に向かって――



‐End‐

『まもなく岸ノ巻です』

電車でうたた寝をしていた俺は飛び起きた。

横のスポーツバッグを担ぐ。

荷物はこれだけだ。

『お忘れ物をなさいませんよう、ご注意くださいませ』

アナウンスを聞き流し、ドアの前に立つ。

俺以外に、降りる客はいなかった。


改札口をで出た俺の目に飛び込んできたのは、のどかな空だった。

改めて、岸ノ巻が絵に描いたような田舎であることを再認識する。

「工藤くん!」

元気な声に思わず振り向く。

水澤遥と春河舞依だ。

「……ただいま」

出迎えが彼女でないことに、少し胸の奥がチクリとする。

「江岸は?まだ寝てるのか」

「ははは、まさかぁ~」

「でも、梨奈どうしたんだろうね。普段なら真っ先に飛んでくるはずなのに」

俺も、そう思った。

「あ、それより工藤くん。今日は燕ノ巣で宴会やるよ~」

「え?料理長まだ入院してるんだろ?誰がメイン作るんだ?」

いくらなんでも、帰ってきて早々にあそこの厨房に立つのはごめん被る。

「ほら、夏休みが始まる前に自分の店だすために辞めていった浮田っていう人いたじゃん。今日のために店閉めて作ってくれるんだって。綾瀬が言ってたよ」

「へぇ……」

改めて、岸ノ巻の温かさは健在だった。

俺は2人に別れを告げると、坂道をゆっくり上って行った。


岸ノ荘に着いて、大家から以前の部屋の鍵をもらい、部屋に向かう途中で、隣室のドアをノックした。

求めていた相手はすぐ出てきてくれた。

「おかえり、工藤くん」

露樹梓だ。

「お久しぶりです」

「っていうか、半月だけどね」

そう言いながら、相変わらずチューハイを口に運ぶ。

「何してたんですか?」

「ん?ため込んでた課題をちょっとね…。すぐ終わると思ってたかをくくってたら、全然終わらないの。はぁ、面倒くさい」

そういえば、大学生だったな、この人。

「誰が手伝ってあげてると思ってるんだい、梓」

ん?

中から男の声がした!?

「……浮島さん」

「やぁ」

現れたのは、浮島隼人。

「君が麗菜さんの遺品整理やら何やらで葬儀の後すぐまた東京に戻ったけど、僕は教授から遅い夏休みをもらってね。今まで研修やらで忙しかったし、教授も岸ノ巻の人々の温かさに何か感じたんだろうな。で、今はこうして梓の宿題を手伝ってあげてるわけ」

「えぇ、感謝してますとも」

露樹さんは拗ねたように唇を尖らせると、浮島さんの腰に手を回した。

「工藤くん、私達、来年結婚するんだ」

「本当ですか?」

いつも以上に脈絡のない告白はこの際置いておこう。

「うんっ」

「やっぱり彼女が忘れられなくてね。ずっと一緒にいてほしいって、心から思えたんだ」

心から嬉しそうに笑う2人。

俺は、心が温かさで満たされていくのを感じた。

「ところで、江岸がどこにいるか知りませんか?」

ふと思い出して尋ねると、露樹さんはクスクス笑いながら答えた。


「私たちは知らないけど、多分いつもの場所じゃない?」


「いつもの場所……」

思い当たる場所はひとつしかなかった。

「ありがとうございます……あず姉」

前から言いたかった呼び名を、やっと言えた。

また一歩、俺は岸ノ巻の中に溶け込めた気がした。


『あず姉は、あたし達にとってお姉さんみたいな存在なんだ』


それは、俺にとっても同じだった。

あず姉がいたからこそ、過去のフラッシュバックにも耐えられたし、過去を言い訳に逃げてきた自分を変える手助けをしてくれた。

俺にとって、あず姉は実の姉みたいだった。

あず姉は一瞬目をパチクリしていたが、やがてゆっくりと笑顔になる。

それは俺が見た中で、一番優しい笑顔だったと思う。

だから、俺の返す笑顔も、とても穏やかだった。

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ついに夏の浜辺クライマックスです!!


次回最終回!!