(サムエル・ハーネマン)
“ホメオパシーで重要な概念の一つにマヤズムというものがあります。ハーネマンは患者さんに正しいと思われるホメオパシー薬を処方しているにもかかわらず、思うような成果をあげられないことがわかりました。すなわちまったく改善の傾向が見られないか、もしくはよくなりかけてもすぐにまた元に戻ってしまうか、別のところに新しい病気が起きてしまうといった具合です。
ハーネマンは10年以上もかけてこの原因を探求しつづけ、そのような患者さんに共通する過去の病気などを綿密に観察するなどして、マヤズムという概念にたどり着きました。
マヤズムとは、生命力の働きを慢性的に阻害している根の深い原因であると定義できるでしょう。このマヤズムが病気の根っこに土壌として常にあって悪さをしつづけているからこそ慢性病というものが存在し、なかなか治りきらないのだとハーネマンは考えたのです。
現代ではこのマヤズムは、体の細胞や遺伝子や心に深く刻み込まれたある種の歪みであると考えることができます。それは先祖がかかってきた重い疾患の遺伝子的な記憶とも考えられますし、度重なる細菌感染や病気、たゆまざる外部からの環境毒や電磁波的な影響も含まれるでしょう。さらに宗教的、オカルト的な立場の人は前世からの影響や、カルマ的な問題もマヤズムの中に含むかもしれません。
ハーネマンは経験から、疥癬マヤズム、淋病マヤズム、梅毒マヤズムと便宜上呼ばれる三つのマヤズムを発見し、後世のホメオパスが結核マヤズム、癌マヤズムと呼ばれる二つのマヤズムを見出しました。これは例えば、以前からやたら皮膚病にかかりやすいのであれば疥癬マヤズムをもっているだろうし、先祖や親戚の多くが癌で死んでいるのであれば、癌マヤズムをもっているだろうと考えるわけです。しかし実際に現代人の慢性疾患の根がわずか五つだけとは考えにくく、発見されていないマヤズムはさらに多くあるものと考えられています。
またハーネマンは急性の疾患もその根に慢性病が、すなわちマヤズムが隠されているからこそ起こるのだと述べています。いたって健康で慢性病などまったくないという人でも風邪くらいはかかるでしょうから、この点からいえば誰でもマヤズムをもっているということになります。しかも複数のマヤズムをもっているのが普通です。
このマヤズムをめぐってはホメオパスの間でも軽視する人と重視する人とに分かれるようです。ホメオパスのロジャー・ダイソン氏などは、治療を始める際に最初にマヤズム治療から始めてしまうこともあるくらいです。
しかしマヤズム治療があるからこそ、ホメオパシーでは根の深い慢性病に対処することができるといえます。このマヤズム理論はこれだけでも一冊の本が書けるくらい深遠なもので、ホメオパシーの奥義とも呼べるものですが、ここで詳しく記載するにはあまりに煩雑になるため本書では簡単な説明にとどめました。”
(渡辺順二「癒しのホメオパシー」(地湧社)より)
*「風邪の効用」を書かれた野口整体の野口晴哉先生は、かつて「月刊全生」の記事に「梅毒はマラリアにかかって40度の熱が出れば治る」と衝撃的なことを書いておられましたが、野口先生の「病気は治すものではなく経過させるもの」という考え方は、ホメオパシーとも通じるものがあるようです。ある種の病気に罹ることは、我々が潜在的に持っているこのマヤズムの発現、より深刻な病気の発症を抑え込むために必要なのかもしれません。
*日本ではホメオパシーには否定的な方が多いようですが(あの「日本学術会議」からもはっきりと否定されてしまいました)、ルドルフ・シュタイナーもエドガー・ケイシーもホメオパシーには肯定的で(かといってホメオパシーですべての病気が治るとは言ってませんし、二人ともワクチンを全面的に否定していたわけでもありません)、そして以前にも書かせていただきましたが、ホメオパシー創始者のサミュエル・ハーネマンは、スウェーデンボルグの影響を受けていたことが、19世紀の高名なホメオパスであったジェームス・タイラー・ケントによって指摘されています(参考:エリナ・ピーブルズ『同種療法と新教会』(ロビン・ラーセン著「エマヌエル・スウェーデンボルグ 持続するヴィジョン」春秋社より))。また、現在の日本のホメオパシーは、クラシカル派とプラクティカル派とに分裂しているようですが、スウェーデンボルグの宇宙観・自然観から考えてみると、私にはクラシカル・ホメオパシーの方が正当であるように思えます(一度に複数のレメディを処方することもあるプラクティカル・ホメオパシーには安全性の面で疑問を感じます)。
*出口王仁三郎聖師は、本来、人間は神様の分霊(ワケミタマ)であって、よって神人(ヒト)が病気になるはずがなく、にもかかわらず様々な病気にかかって苦しまねばならないのは、ミタマを穢してしまって、もはや神人(ヒト)ではなく、禽獣虫魚(とりけものはふむしうろくづ)のミタマと成り下がっているからだと説かれています。ホメオパシーでは、様々な動植物、虫や鉱物の波動を帯びた砂糖玉(レメディ)を摂取しますが、それらが効果を発揮するのは、人体内にその波動に相応するもの、同種のものが存在しているからで、そのようなホメオパシーの理論は出口聖師が説かれていたこととも共通しているように思います。そして、本来の神人(ヒト)のミタマを回復することができたなら、病気が存在する低次の世界を抜け出すことができるのであり、ここにマヤズム克服の道が示されているような気がします(スブドでも同じようなことが言われています)。
*とはいえ、出口聖師もバパ・スブーも、またラーマクリシュナやラマナ・マハリシ、エドガー・ケイシー、聖パードレ・ピオなど、聖者や聖人の方々で病気に罹らなかった人はなく、やはり地上で肉体を持って活動している限りは限界があるのかもしれません。あるいは、すべてを神に委ねて病気すらも恩寵とみなしておられた方や、霊魂が早く肉体を離脱して生魂(いくみたま)としての力を発揮するために、病気によって肉体の崩壊が早まるのを歓迎しておられた方もおられますし、そういった高次の方々は、そもそも病気に対する考え方が俗人とは異なっていたようにも思います。
“‥‥‥折々の諸の煩ひ病苦の悲しみの如き災は、禽獣虫魚等が道の内に備はれる事方にして、貴き霊き神人の道には更に更にその影だにも有る事なきものを、紫微天界の神人の病み悶へ苦しみ悩む事あるは、禽獣虫魚に均しき道を行きて神人の道を失へるより、諸の災難五月蠅如す皆湧き起るになむある。抑も爰に水腐り果つれば昆虫湧き、木の葉茂れば自ら鳥集り来たる。如此て其が穢き道を歩みぬれば、遂に其が獣鳥虫魚の身としも成果てて、永く獣鳥虫魚と成らむ。畏きかもよ、比類なき貴き霊しき神人の身を産霊得ながら、おどみの水のおどみ帰りて、卑しき身魂と成らむ神理を、真玉如す深く知り明に悟り極めぬれば、是をしも恐み畏み深く思ひて、身震ひ恐懼く迄に畏み恐み過ちて、今日まで起しつる獣鳥の心、虫魚の行ひは朝津日の露霜を消し尽す如く、朝の深霧夕の深霧を志那戸の風の吹攘ひ清むるが如く、清め尽し攘ひ極めて、照り渡ります陽の一進みに神人の道に進み入り、空飛ぶ塵の塵の半分も私の思ひを起す事なく、吾身の為に行ふ事なく、神人の名のまにまに行ひ澄まし、獣鳥虫魚の心を持たず、行ひを為さず、迷ふ事なく欲りする事なくして神人の道に入りぬれば、紫微宮に坐す⦿の大神二柱の神も、そが神名のまにまに神の道のまにまに、夜の守り日の守りに幸ひ玉ひて、真言為す神人の道自ら思ひ願ふがまにまに、天界の本より備はれる自らなる大真道永久に伝りて、天津日蔭普く照らし、天雲の普く潤ひて八隅知し⦿の大神の惟神の大御座は、天地日月と共に常永に八十連に伊継ぎ給ひて、且くも失はせ給はず、諸の神達おのもおのも生みの子の八十継きいや継ぎ伊継ぎて、己が位のまにまにいや遠永に麻柱ひ仕へまつり、神人等が各自々々仕さしの神業を守り仕へて、⦿の大神に仕へ奉り楽しみつ、神人の道に背く事なく、奥山の深山の奥、海の草、塩焼き漁る小さき神も飢餓に苦む事なく、暑さ寒さの悩みを知らず、上中下の各位の神人は、共に一つの歓楽を受け、真の大⦿の御国と成し玉へと願ぎ奉る事の由を、高天原の紫微の宮居の三柱の神、百千万の神等共に聞召し玉へと、畏み畏みも拝み白す。”
(「霊界物語」第七十五巻 天祥地瑞 寅の巻 第七章『瑞(みづ)の言霊』より)
*ちなみに、出口聖師は信徒に、この「瑞の言霊」の祝詞を、大晦日の晩に奏上するように指示されています。
・ジャムシード王の聖なる七輪の杯(ジャムの酒杯) 〔スブド同胞会のシンボル〕
“……スブドの表象する七つの輪は、古くからイスラムやアラビアに伝わるジャムシード王の七輪の杯―― それは七天、七星、七海、七音、七光、七色、七秘伝などをあらわすものとも考えられ、この七つの輪の秘義がわかった時は、スブドの奥義に通暁したと伝えられる。また七つの輪は鉱物、植物、動物、人間、小天使、大天使、神への七界を象徴し、その各々にまた鉱物、植物、動物、人間、小天使、大天使、神にわかたれているので、つごう七七・四十九の階層があるように解釈されている。
そこでスブドによって魂のひらきを受けるオープニング(opening)を受けたことは、この七つの輪の外側の、七面の一方に立たされたこととなる。
その扉が何であるかは、われわれには皆目わからない。自分勝手に人間であると決めているかもしれないが、実際は鉱物であるかもわからないし、植物や動物であるかもしれないのである。何も知らされていないからこそ、神のみまえに人間の顔をしてのこのこと大手を振って出ていくことも出来るし、最も低い世間智や、少しばかりの智恵で鼻をうごめかしたり、また低級な動物霊の手先とされて怪しげな〈霊能力〉で空威張りもできるわけとなる。
キリストは、叩けよ、しからば開かれん、とこの扉のことを教えている。そして幼児のごとくあれ、とも教えている。
スブドにおいては、一切の知識、人間智、理性、意志、感情をすてよ、とオープニングにあたって教えるのは、このスブドの道がいかに一見やさしく、平易にみえていかに実際険しいかを、この七つの輪によって示しているのである。”
(トービス星図「神秘学入門」霞ヶ関書房より)
*それにしても今回の新型コロナウィルスについて、いったいホメオパシーではどの程度対応できていたのでしょうか?流行の初期には、英王室のチャールズ皇太子がコロナに感染したが、ホメオパシーで治癒したとか(最先端医療のケアも受けていたはずだと思うのですが)、インドで保健省が予防のために国民にホメオパシーのレメディを摂取するよう指示を出した、とか言うニュースを目にしましたが、それらは皆ホメオパシー関係者が発信していたものでしたし、にもかかわらず、その後イギリスやインドで感染爆発が起こったことは皆さんご存じの通りです。もしホメオパシーによる具体的な治癒の事例があったなら、是非知りたいと思います。