悪の秘儀 〔ルドルフ・シュタイナー〕 | 瑞霊に倣いて

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  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

 

・悪の秘儀 〔ルドルフ・シュタイナー〕

 

 “そもそも悪とは何か。シュタイナーの精神科学によれば、悪とは「人類が進化の道を歩むのを妨害し、人類を霊的に後退させようとする力である」。さらにその宇宙進化論によれば、人類は太古の昔から、高次のヒエラルキー存在たちの導きのもとに進化の道を歩んできた。したがって。もし高次の神的存在だけが働きかけたのであれば、人間は神の似姿として、まったくの善なる存在となってこの地上に楽園を築くことができたかもしれない。しかし、宇宙の摂理は、人類が一直線に神へと到る道を歩むことを許さなかった。レムリアの時代に、人類はルシファーによる最初の介入を受けたのである。ルシファーは人間の感情を地上的なものに向けさせ、さまざまな欲望や情欲を生じさせた。次いでアトランティスの時代になると、人類はこんどはアーリマンの介入を受け、地上に存在する物質的なものが現実のすべてだと思いこまされることとなった。こうして人類は霊的な世界を忘れ、神的なものに背を向けるようになったのである。

 しかし、こうしたルシファーとアーリマンの人類進化の道への介入は、人類に悪しきことばかりをもたらしたわけではなかった。と言うのも、もし高次のヒエラルキー存在だけに依存して進化の道を歩み続けたとしたら、人間は個人としての自由を手にすることはなかったはずだからである。人間は悪の力の助けを借りることで神的なものから離れ、個体としての独立した自由な存在となることができたのである。そしてこのこと自体は宇宙の壮大な進化のプランの中にあらかじめ組み込まれていたのだ、とシュタイナーは述べている。”

 

 “人類が進むことのできる第一の道とは何か。それはいままでどおりに唯物論というアーリマン的な虚偽の中に留まり、悪い霊的存在を知ろうとしない生き方である。堕天使と直接関わり合わなくても済むから、ある意味においては安全で楽な道なのだろうが、宇宙と生命の本質はいつまでも謎のままである。人類は「眠った」状態のままで、いまにもアーリマンの受肉や三つの発明を経験することになる。アーリマンにとっては、これほど好都合なことはない。やがて人類は完全に堕天使の虜になり、文明は荒廃の道をたどることになろう。”

 

 “ルドルフ・シュタイナーによればキリストとは、「人間を空想的なものに向かって飛躍させようとするルシファーと、人間を物質的なものに固執させようとするアーリマンの間に、均衡を生み出そうとする存在」なのである。人類が危機を乗り越えて未来を切り開くためには、こうしたキリスト衝動を心の内で生かすことが大切なのであり、単に人類や自己の救済の役割を果たすことをキリストに求めることではないのである。後者の態度が伝統的なキリスト教に限界をもたらしたというのは、本シリーズの第2巻「魂の同伴者たち――スピリチュアル・コンパニオンズ」において、アダム・ピトルストン師が指摘しているところである。

 そもそもシュタイナーは、もはや従来の信仰形態では個人がキリストとつながることは不可能である、と指摘していた。精神科学を通して、みずからの認識能力によってキリスト存在と結びつく以外には、現代人が霊と物質の間にバランスを見い出し、正しい霊性を獲得する道は存在しないというのである。本書第2章の論旨に従えば、人類は「世界を光で貫く霊」としてのキリストを意識的に認識することにより、初めて道徳・意志・知性において進化し、存在の根源と一体になることができるのである。

 太古の昔に、悪の霊ルシファーが人間に自由を与えた。この自由によって人類は神から離反し、悪を働く可能性を開いた。その人類がいま、自由意志に基づいてキリストとつながり、再び霊界に到る道を見出すならば、かつて人間を悪へと誘った堕天使たちの行為そのものも善へと変容する、とシュタイナーは明らかにしている。このことに気づけば、さまざまな悪もすべて大いなる善を生むために必要な前段階であったことが理解されるはずである。一度ルシファーに授けられた自由意志によって神から離反した人類が、こんどはその自由意志によって再び神への道を見出そうとするのである。そのとき悪は善に一変する。シュタイナーの言葉を借りるなら、このときルシファーは光輝く聖霊に変化するのである。

 堕天使を救済できるのは、自由意志を獲得した人間だけなのである。”(訳者による『解説とあとがき』より)

 

 

 “「一九二四年という人生最後の年に、シュタイナーは天界とその知恵を地上にもたらしたが、理解されることはなかった。ヨハンナ・カイザーリンク女伯爵はシュタイナーとの会話の中で次のように言った。

 『人類は本当に駄目になってしまいましたね』

 すると、シュタイナーはこう答えた。

 『ええ、そう言ってよいでしょう』

 『いったい、二十世紀の終わりはどうなってしまうのでしょう』

 それに対してシュタイナーは、絶望的な口調でこう答えた。

 『それは私にもわかりません。しかしアーリマンもまたキリストの一部ですから』

 私はこの会話の内容を、そのすぐあとに聞きました。そしてこのシュタイナーの答えは一生忘れられないものになりました」(アーダルバート・カイザーリンク伯爵。出店は前掲と同じ180頁)。”(『付録』より)

 

        (松浦賢訳・ルドルフ・シュタイナー「悪の秘儀」イザラ書房より)