『ゆきてかへらぬ』という映画の紹介文を読んだ。
中原中也と小林秀雄と長谷川泰子が登場する。
文学史上有名な三角関係とのことだが、私は随分前の文学講座で初めて知った。
長谷川泰子は東京名画鑑賞会が主催した「グレタ・ガルボに似た女性」に応募し当選、「東洋のグレタ・ガルボ」と言われるほどの美女。
そんな女性が、中原中也?……は、まだ許せるか。
そして小林秀雄?
文学講座で聞いたとき、若くて単純な私はルックスのみで判断し、「信じられない」と思った。
そんなきれいな人なら、何も小林秀雄でなくっても、いくらでもカッコいい男性がいただろうに、それもわざわざ中原中也を裏切ってまで、と思ったのである。
だが、『ゆきてかへらぬ』の紹介文の中にあった
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3人に共通するのは、詩や文学、映画といったカルチャーに対する情熱と各分野で発揮された才能。だから、彼らの結びつきは肉体的でなく、精神的といえる。互いに羨望や嫉妬の感情を抱いても、それが渦を巻いてドラマがうねるというより、互いに距離を測りながら、つかず離れずするふうだ。
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の部分に、ものすごく納得した。
長年の疑問がすっかり溶けた気がした。
そして、私自身、こういう間柄が「理想の恋愛」だと思っていることを思い知らされた気がする。
三角関係という意味ではなく、「精神的な結びつき」というところが。
だがおそらく、そんな恋愛は、そうそうできるものではない。
まずは自身が、精神的な結びつきの一端でいられるだけの人間でなければならないわけで、もはやその時点であり得ぬ話だ。
『ゆきてかへらぬ』は中原中也を木戸大聖さんが、長谷川泰子を広瀬すずさんが、小林秀雄を岡田将生さんが演じるとのこと。
このキャスティングはなかなか微妙な気がするが、かといって、他に適役といわれても思いつかない。
取りあえず、近隣の映画館で上映するなら観てみたいなとは思っている。
常識の 上に理性は 揺れ動く
鞠子