あの家が焼けたのは、確かコロナ禍の後半だったはず。
全焼し、住人の誰かが亡くなり、近隣にも類焼したというニュースを聞いたとき、結構ショックだった。
コロナ禍中、自宅まわりを歩き回っていたとき、よく通った道にあった家だ。
いわゆるゴミ屋敷。
敷地は広いのだが、家の玄関はどこにあるのか分からないほど雑多な荷物が積み上っていた。ただ、その中に大きな犬小屋があり、その上にゴミの散乱ぶりからするとあり得ないほどふかふかな布団があって、これまた大きな犬がいつも寝そべっていた。
穏やかで平和でゆったりした顔つきで。
だがこの家、火事なんか出したらえらいことになるだろうな、と前を通る前に思っていた。
そして本当に火事を出してしまった。
火は両隣ではなく上部にひどく上がったらしく、その家の背面にある小高い山沿いに建った家を巻き込んでしまった。
火事後、何度か通ったが、本当にひどい燃えぶりだった。そのままの状態で、長いこと捨て置かれていた。
そして今日、久しぶりにその家の前を通ったのである。
燃えた物々は撤去されていたが、その後に背の高い雑草が繁茂していた。冬ゆえに、それらの雑草はからからの枯草になり、中に入ったら足に刺さりそうなほどとげとげになっていた。
ここで火が上がり、人が死に、それでも草は生える。
もうしばらくしたら、アパートなんかが建ち、何も知らない人が住むに違いない。
巻き込まれた家は完全に壊され、駐車場になっていた。
そこに止まっていた車の持ち主の何人かも、火事のことは知らないかもしれない。
考えてみれば、この焼け跡だけではない。
私の住んでいる家だって、遠い昔、何があったかわからない。誰かが不慮の死を遂げたかもしれない。野生動物が苛烈な戦いを繰り返していたかもしれない。単なる山だったかもしれないし、木や岩で覆われていたかもしれないのだ。
みんな、そんな「土地の過去」を知らず、あるいは忘れてそこで生きている。
あの大きな犬も犠牲になっちゃったのかな。
なんだかとても寂しい気持になった。
焼け跡に 恨みを込めて 枝刺さる
鞠子