社員5人の会社の社長と社員1万人の会社の社長とどちらが大変な仕事か。
1人の人間が幸せになるのと70億人の人が幸せになるのとどちらが難しいか。
読んでいる本の中に「フラクタル」という言葉が出てきた。
数学の世界の言葉で、大まかに言うと「どんなに細部を見てもそこにまた同じような複雑さがあるような図形」のことなのだそうだ。
大きな正三角形があり、その中に、その1辺の長さが半分の三角形をつくり、さらにその1辺の長さの半分、さらにまたその1辺の長さの半分……とどんどんつくっていくと、どんなに三角形が小さくなっても同じ形となる、こんなイメージらしい。
で、この作者が言わんとすることは、問題の質こそ違えど、社員5人の会社をミクロレベルで見ても社員1万人の会社をマクロレベルで見ても、その複雑さは同じだとも考えられるのではないか、ということなんだった。
この一節を読んで、以前から胸の中に引っかかっていた小さなトゲが1つ、抜けたような気がした。
もうずっと前の話。
私の抱えている主問題が母の介護だったときのことを、とある人に「今の自分に比べたら、問題の大きさが全然違う」と言われたことがあった。
確かに、その人が直面している問題は、大勢の人の人生を左右する可能性があると私もよく理解していた。私の場合は、私と母の2人だけの問題だ。だが、だからといって、私の問題がその人の問題より軽かった、というのは納得できなかった。
影響を及ぼす範囲が大きいか小さいかで問題が軽いか重いか判断するのはおかしいのではないか。
私なりに悩み、考え、苦しみ、頑張ってきた私の介護生活を、真っ向否定されたような気がした。
それも、言ったその相手が、信頼し尊敬している人だったから、ショックは余計に大きかった。
他人から見たら些細な問題でも、当の本人にしたら大問題なこともある。
むしろその人こそ、私にそう言ってもおかしくない人、そう思っていた。
この発言以来、私はその人に対する見方が微妙に変わっていった。
そうか、こういうの、「フラクタル」って言うんだ。
ヘンな話だけど、この一語のおかげで胸がすっとした。
癒えぬ傷 ときどき痛み 泣き怒る
鞠子