朝刊のお悔やみ欄に、Sさんの名前があった。
Sさん、仕事絡みの知り合い。
とうの昔に仕事の縁は切れており、以来全然会ってないのだが、亡くなったことを知り、とある出来事を思い出した。
Sさんは、早くに奥さんを病気で亡くされた。
当時、Sさんは社長だったのだが、都会で勤めている息子さんがお金絡みのトラブルに巻き込まれており、ダブルパンチでかなり意気消沈しておられた。
全くかける言葉すらないような状態だった。
そうこうしているうちに、息子さんのトラブルも一応の決着を見、Sさんの会社に一社員として入ることになった。
その頃だ。
全然別の人から「鞠ちゃん、どう?」と打診されたのは。
そう、結婚。
その人曰く「Sさん、お金ある・家ある・会社も後継者ができた」そしてSさん「何より優しい」。
Sさんなら、鞠ちゃんの言うこと、何でも聞いてくれるよ、何でも鞠ちゃんの言うなりだよ、と。
もちろんそんな気はさらさらなく、速攻否定したが、以来、仕事で顔を合わせるたびに、「確かにあの人の言うとおりだろうな」と考えてしまった。
優しいだろうな。
言うなりだろうな。
年齢差約20歳。
もうあくせく働かなくてもいいだろうな。
でも、私にはそんな生活、すぐ耐えられなくなるだろうな。
···ということで今に至る。
ということで、私とは何事もないままSさんは亡くなった。
ほろ苦く、切ない。
様々に 話したあの日 思い出す
鞠子