スイミングから帰るとき、スタッフI君が館内階段を掃除していた。
このI君、学生アルバイトで、コーチとして子どもにスイミングを教えている。私が行く時間帯、よく隣のコースで何人かの小学生のクラスを受け持っている。
そしてこのI君、私のスイミングトモの中に彼の熱烈なファンがいる。
彼女曰く「竹内涼真みたいじゃない?」
ま、確かにちょっとはにかんだ好青年、という感じではある。
ただし、なにせプール内では私は視力矯正していないので、竹内涼真に似ているかどうかはよく分からない。
I君は、せっせと階段に掃除機をかけていた。
私は「お先に失礼します」と言いつつその横を通り抜けようとしたのだが、ふと、彼の頭にひらりとしたゴミがいくつもついているのを見つけ、その一つを思わず取ってあげようと手が出てしまった。
それ、結果的には、ものすごくバツの悪い展開になった。
私の見たゴミは「ゴミじゃなかった」のである。
頭のあちこちに、すっすっと、黄土色の絵の具を筆で塗ったように「部分的に染めていた」のである。
バツの悪かった私は、とっさに「カッコいいわね」と言ってしまった。
I君は「成人式だったので」と、やっぱり恥ずかしそうに笑った。
いやいや、私は絶対的に「ゴミ」だと思った。
決してカッコいいなどと思わなかったのである。
わざとそういうふうに染めたと聞いても、カッコいいとは思えなかった。
むしろ、染めない方が正解だと思った。
価値観の差か感覚の差か年齢の差か。
それもそうだが、I君がハタチであることも、つくづく身に染みた。
彼、いわゆる「孫」世代。
そうなんや…… そうだったんや……
あの「ゴミ」は 日に日に消えて 年を取る
鞠子