スイミングのサウナ(暖を取る室)にいたら、女の子がドアを開けた。
私がいるのを見て彼女は一瞬ひるんだが、そりゃ確かに入りづらいだろうと思い、「どうぞ」と私から声をかけた。
彼女はおずおずと入って来、私の座っている段の向こう端に腰を掛けた。
いまどき、「知らない人としゃべってはいけません」なる教育がされていると思うが、こうしてサウナで会うスクール生は、話しかけると結構しゃべってくる。
「何年生?」
[4年生」
今日は一人だったし、入室してきたときの雰囲気から、これで会話が続かなければやめようと思った。
しかし、意に反して彼女は唐突に、「今日、学校で作文を書いた」と言い出した。
作文と言われたら、聞かずにはおられない。
テーマは「将来何になりたいか」で、彼女は「動物園の飼育員」と書いたのだそうだ。
動物が好きなの?
うん、犬とか猫とか。
でも、動物園で飼っているのは、犬とか猫じゃないよねえ。
ううん、犬や猫を飼っている動物園もあるよ。
そんな話をしている最中に、別の女の子が入っていた。
この2人は友だちだった。
だが、入ってきた子は、彼女の隣ではなく、私の隣に座った。
あれ、この距離感、おかしいやろ…と思う間もないくらいに、隣の彼女は犬や猫の泣き声を真似し始めた。
それもまた、妙に大きな声で。
以降、なんともおかしな雰囲気になった。
どうやら新しく入ってきた彼女は、「私を独占したい」みたくなのだ。あるいは、前からいた彼女と「会話してほしくない」か。
やたらと話に割って入る。そして、自分の話題に持ち込もうとする。
とうとう、父親が対馬の出身で、幼いころ、ワシかタカか、大きな鳥しか友だちがいなかっただの、その鳥が死んで父親は悲しくてやり切れなかっただの、「初対面の見知らぬ人にそこまで話すか」なことまで話し出した。
それももしかしたら、作り話ではないかと思えるほど、いろいろ手の込んだ内容だった。
この彼女の家庭環境を、つい想像してしまう
両親は、彼女に関心がない。誰も彼女の話を聞かない。彼女は、淋しくてたまらない。誰でもいいから、自分のほうを向いてほしい。
…私の考えすぎならいいんだけど。
そのうち、先にいた女の子は、すっと出て行ってしまった。
それでも後から来た女の子の話は、延々続いた。
大人の私でも、熱くてしんどかったから、彼女も相当だったに違いない。
その子しか 分からぬ闇が そこにある
鞠子