作家の宮本輝氏が、新著『よき時を思う』についてのインタビュー中、御自身の病気にも触れておられた。
一昨年にステージ1の肺がんと診断され、右肺上葉を切除、昨年末は肝臓の脇の大きな脂肪腫を開腹手術で取り除いたのだそうだ。
それでも宮本氏は「動じることはなかった」と言う。
なぜなら「最悪でも死ぬだけじゃないか。いろいろ小さな失敗はしたけど、真面目に一生懸命小説を書いてきた。それで十分じゃないか」だから。
最悪でも死ぬだけじゃないか ―― これ、私とは価値観が全然違う。
私にとっての最悪は「死」ではない。
私にとっての最悪は「死ぬほどの痛み」。それがたとえ一時のことでも嫌でたまらない。ましてや何時間も、何日も、何か月も、何年も続くなんて、最悪以外のなにものでもない。
最悪は「死」か「死ぬほどの痛み」かで多数決を取ったら、きっと「死」を選ぶ人の方が多いんだろうな、と思う。
ましてや宮本氏のようにその道で努力し実績をあげてきた人ならなおのこと、一時の痛みなど、乗り越えさえすれば、そして生きてさえすれば、さらなる高みをめざすことができる、と考えるんだろうな、と思う。
指先の ささくれですら 憂鬱で
鞠子