歯科へ定期検診に行き、歯石除去やらフッソ塗布やらしてもらいクリーニング。
口をゆすいでいるとき、歯科医がおもむろに話しかけてきた。
このセンセ、若々しく見えるが70歳。
ずっと前から診てもらっているのだが、とにかく「無口で無愛想」な人だったのだ。それなのに、最近、必ず何か話しかけてくる。それがなんとも「妙な内容」の話を。
今日は突然「おしゃぶり」の話を始めた。
年を取ると、誤嚥による肺炎などが起きやすくなる。そうならないためにも、舌を鍛えるべきだ。最近では、そのために乳児のおしゃぶりみたいなグッズが売り出されている、と。
ここまで聞いて、即、これは「営業だ」と想像した。
私の口中、総合的に見て衰えが激しい。今から口内を鍛えた方がいい。当医院でおしゃぶりを扱っているから買え。そういうことだと。
ところが、歯科医はこう続けたのである。
「私、買おうと思っているんですよ」
え? 先生が?
「だって効果があるかどうかわかりませんから、まずは自分で試してみないと」
…頭、混乱した。この雑談の意味は何か。待合室には、次の予約患者がいるというのに。そもそも私は何と答えればいいのか。もう笑ってごまかすしかなかった。
「舌は大事ですからねえ。歌もいいみたいですよ」
…ってあはは、よりにもよって私にそれを言う? ま、ご存じないからな。私が何十年もBACH等々、歌っていることを。
もちろん、そんな自己紹介をする気など全然なれなかったが。(←だって、そんなことしたら、ますます雑談が長引きそうな雰囲気だったし)
歌は舌の鍛練に役に立つ ―― 同日夕方、たまたま声楽レッスンの日だったので、帰路、車の中で歯科医にそう言われた旨、先生に話した。
先生は笑いながら言った。
「そうだねえ、特にドイツ語はいいよ。ちゃんとカンタータも練習しておいて」
おっと! 最近、初チャレンジのコンコーネやイタリア歌曲でヘトヘトになっていたので、これはいいこと、聞いた。
歯科医の理由不明な雑談、思わぬ副産物を生んだわ。