音楽トモが、吉田秀和が書いた『バッハ』という本を貸してくれた。
吉田秀和氏。
大正2年生まれの音楽評論家。日本の音楽評論において、先駆的な方らしい。(…ということで、今まで私は知らぬ人だったのだが)
ところでこの本、とっても不謹慎だと思うのだが、あまりの「バッハオタクぶり」に、「笑ってしまう」のである。
例えば…
「バッハの音楽は、私は、みんな好きである。私には『音楽が好きだ』というのと『バッハが好きだ』というのとのあいだには違いはない」
「ここ(←マタイ受難曲の中で、ペテロがキリストなど知らないと3回否定、そのあとさめざめ泣くという部分)を聴いて、胸をつかれないとしたら、その人は音楽を聴く必要のない人だ」
「私は聴いている最中から何度も心の底から揺り動かされ、聴き終わってからは、震駭され、圧倒され、一言も口がきけないほどだった」(←カール・リヒター指揮によるマタイ受難曲を聴いて)
4分の1も読んでいない段階で、こういう「オタク表現」が次から次に出てくるのだ。それでも、「感情を抑えよう・抑えよう」と懸命に言い聞かせているフシまで見える。
もし私が、「バッハ? 誰?」という人だったら、あまりにもウザい価値観の押しつけにウンザリし、4分の1すら読めやしないと思うのだが。完全に「同感!」であり、むしろ「胸をつかれない人は、音楽を聴く必要がない」なんて、よくぞそこまで書いた!と拍手したいくらいなのだ。
それだけならまだしも…
読み進めるうち、「うらやましく」なり、次第に「嫉妬」さえ覚えてきた。
バッハの魅力を語るのに、これほど多彩で正確な語彙を持ちあわせていらっしゃることに。またそれを、きちんと系統立てて文章にできることに。
ま、あたりまえのことであり、嫉妬する方が身の程知らずなんだけど。
それでも吉田氏は、「音楽を言葉に直すのはほんとに難しいんですよ」とNHKのテレビ番組で語られたんだとか。きっと、「まだ不十分・まだ言い足りない&書き足りない」と思ってらしたんだろう。
しかし… 存命なら105歳のおじいちゃん。この日本で、そんな御年で、ここまでバッハにハマった人がいるなんて、まさしく驚嘆。